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遠い世界で  作者: G・Y
19/23

『理不尽な世界』

注意:今回のお話は、全くストーリーが進んでいませんので読み飛ばしていただいて問題ありません。



大事なモノがあるのに、急に知らない場所へ連れて来られてしまった・・・場合を想い書いたのですが、かなり卑怯な書き方をしてしまいました。


正直やりすぎな感じがしますので、次の話も急遽書き上げました。

ストーリーが進んでいるとは言い難いのですが、重い話に抵抗がある方は、そちらをお読みください。

19:『理不尽な世界』



その日、私はどうしていたのだろう・・・

たしか・・・朝、あの人を送り出してからスズネを連れて買い物に出かけた。


そして・・・気づいたら、どこかの部屋に寝かされていた。

酷い乗り物酔いのような感覚に、吐き気をこらえながら部屋を見渡した。

綺麗な部屋、豪華なベッド・・・まるで、ホテルのスウィートのよう・・・!!


私はもう一度部屋を見渡す。ココには私ひとり(・・・)だった。


「スズネ!スズネ!!」


私は娘の名前を呼ぶ。あの子は、まだ十分に歩けない。

倒れそうになりながらもベッドから降りる。

足元の絨毯は毛も長く高級なのだろうが、今は足が取られてしまいそうで鬱陶しかった。


部屋を出ると、まるで御伽噺のお城のような廊下にでた。

私はスズネの名前を呼びながら廊下を走った。


途中で会った女性に、スズネの事を聞くが全く要領を得ない。私は、建物の中を探し続けた。


その後の事は、よく覚えていない。

可笑しな格好をした大勢の人に取り押さえられたような気もする。

気づいた時に、私はまたあの部屋に寝かされていた。


私の世話をしている、女性に話しかけても言葉が通じなかった。

何度も身振り手振りでスズネの事を聞いても、首を振るだけだった。



買い物に出た後どうなってしまったのだろう・・・

何かの事件に巻き込まれている可能性が高い。

私だけなら、まだいい・・・スズネはまだ2歳にもなっていない・・・

何故、こんなことに・・・その言葉だけが、ループする。



私はひたすら、神に祈った。スズネの無事を・・・

そして、あの人が私達を見つけ出してくれることを・・・




数日後、私の元に男性がやってきた。不振に思っていると、彼が口を開く。


「混乱しているようだね。当然かな。」


彼は英語を喋っていた。イギリス人らしく、私では聞き取りづらいところもあったが・・・

私は彼につかみかかり、スズネの事を聞いたが彼の説明は・・・荒唐無稽そのものだった。


異世界?精霊?勇者?


彼は、興奮しながらそんな事を次々にまくし立てていた・・・

TVの中のヒーローにあこがれる少年。そこには、唯の子供がいるだけだった。


私はそれでも彼の話を聞き続けた。ほんの少しでも何か、スズネにつながるヒントが無いのかと・・・しかし彼は、私にとって有用な事は何一つ喋ってはくれなかった。


私がソファで頭を抱えて座っていると、彼は何も言わなくなり、やがて部屋を出て行った。


ここ数日で、この建物をくまなく探したのだがスズネやそれに類するものは見つけられなかった。

外へ出ようとすると、何人もの男の人に止められてしまう。無理矢理、通ろうとしても彼らには敵わなかった。

もう、私には生きる意味も希望も残されてはいないようだった。


翌日、私は建物の中庭らしき場所を歩いていた。

少し暑いくらいの日差しの中、私はついに見つけた。

いとしい私のスズネ()を・・・





私達がこのホテルに来て、何日が経ったかしら・・・?

スズネの顔をみていると、急にそうおもったの。

最初の数日は、慣れない環境からか悪夢をみてしまったのよ。本当に嫌な夢だったわ。


貴方が仕事に出ている間、このホテルで過ごすように言われたけど・・・あと、どの位なのかしら?

この豪華なホテルの従業員は、皆達に優しくしてくれてるわ。

言葉は通じないけれど、彼らは私を・・・そう、まるでガラス細工を扱うかのように接してくれてるのよ?まるで、お姫様にでもなった気分だわ。


時々、従業員の女性が何度かスズネを引き取ろうとするしぐさを見せるけれど・・・ちゃんと断ってるの。だってこの子は、貴方と私の子なのだから・・・私がしっかり、面倒をみてあげないと・・・


それでも・・・貴方に会えないのは寂しいわ・・・

仕事が忙しいのはわかるけど、連絡位はして欲しいと思うの。


ねぇ・・・貴方の声が聞きたいわ・・・

ねぇ・・・貴方の顔が見たいわ・・・

ねぇ・・・貴方に逢いたいわ・・・



それから、さらに数日が過ぎた。

今日は朝から様子がおかしい・・・何かざわついて・・・何人かの従業員が私達の方を見ている。

話しかけても、困ったように笑うと直ぐにどこかへいってしまう。


なにか、御伽噺の騎士のような格好をしたパフォーマーが廊下を歩いているのも良く見かける・・・

何かのカーニバルかとも、思ったが・・・何か空気が良くない気がする。


夜になると、その空気はさらに深くなった。より張り詰めたような・・・重苦しい雰囲気が、暗い建物を覆う。

何故か今日は、従業員が部屋の中に二人もいる・・・いつもは、多くてもひとりなのに・・・

声を掛けてみるが、二人とも笑うだけで言葉は返ってこない。


スズネを抱きしめ、この息苦しいほどの空気に耐える・・・

少しぐずってしまったスズネをあやしながら、なんとか気を紛らわす・・・


ドアがノックされ、数人の人が部屋に入ってくる。女性2人は深く頭を下げている。

その中には、先日あったイギリス人の男性も混じっている。

他にも、私も何度かあったことがある・・・ホテルのオーナーだろうか?

着ている物は、豪華なようだが・・・センスは最悪だ。きっとこのホテルは、何かの仮想会場なのだ。


オーナーらしき男が何かを話しかけ、それをイギリス人の男性が翻訳してくれる・・・

彼の話は、妄想が多すぎて良くわからない。真実は半分もないだろう・・・


『今夜』『儀式』『祝福』・・・


言葉の意味は良くわからないが・・・今夜、何かをするつもりだろうか・・・『儀式』とはなんなのだろう。

それだけで、彼らの用事は済んだのだろうか。部屋を出て行くようだった。

去り際に、男性が私に告げた。


「『祝福』を受けたら、色々とわかると思います。その子が、スズネちゃんじゃ無い事もわかると思いますよ。」


・・・今、彼は何と言った・・・何を言ったのだ?

私から、スズネ(この子)を取り上げるのか・・・?

また(・・)、私にあの悪夢を見せたいのか・・・!


悪魔・・・きっと、彼らはそうなのだ。

スズネ(この子)を、私から取りあげて・・・『儀式』とかの『生贄』にしてしまうのだ!


逃げなければ・・・ここから、一刻も早く・・・スズネ(この子)を連れて・・・


彼らが出て行ってから、少しして私はお手洗いにいくと言って部屋を出た。

言葉は通じないが、毎日の事だ・・・理解しているだろう。


女性が一人ついてきたのだが、気にしないふりをする。もちろん、スズネも連れてきている。


お手洗いまでもう少し・・・という所で、人気のない廊下に出た・・・

チャンスは今しかない!


そう思うと、私は迷う事無く付いてきた女性を突き飛ばし走り出した。

後ろで彼女が、大きな声を上げているのが聞こえたが、私は廊下を走り続けた。


幸いにも外へは直ぐに出ることが出来た。いつも居るはずの、従業員も夜も遅いためか誰も居なかった。


私は、庭の中をひたすら走り続けた。後ろから、人が追ってくるような音が聞こえてくる。


突然、後ろで大きな声がした・・・と、同時に背中に鋭い痛みが走った。

今まで感じたことの無いような痛みが、頭に響く。痛みで倒れこみそうになる。


その瞬間、腕の中のスズネから不思議な暖かさが体に流れ込んだ。

その不思議な暖かさが、私に力をくれた・・・まだ、大丈夫。

私はスズネを抱きしめて闇の中を走り続けた。




何処をどう走ったのだろうか・・・

後ろから聞こえてきた、人の足音はいつの間にか聞こえなくなっていた。

振り切った・・・そう思った途端、体から力が抜けてしまった。

走りすぎたのか息も上手く吸えない・・・足に力も入らない・・・


「スズネ・・・もう、大丈夫だからね・・・」


そう、腕の中の子に話しかける。

そして、私は始めて目の前に人がいることに気がついた。



回り込まれてしまった・・・絶望が頭をよぎる・・・

どんなことをしても、スズネは渡さない・・・相手への憎しみが募る・・・

でも、相手はただ立っているだけだ・・・追っ手ではないのかも知れない・・・

ひょっとしたら、街の人だろうか・・・ならば、助けてもらおう・・・

黒い髪に黒い瞳に驚いた表情・・・この人は・・・あぁ・・・やっと・・・



「あぁ・・・あなた、迎えにきてくれたのね?今、スズネと帰ろうとしていたところなのよ。」


あの人は、少し驚いた風に固まってしまっていた。

待っていろって言われたのに、夜も遅い時間に外にいて心配掛けてしまっただろうか?

でも、あんなところには居られなかったのだから、許してもらおう。

「フフッ、変な夢を見て遅くなってしまったのよ?急に、おかしなところへ連れてこられてしまって・・・ほんとうに心細かった・・・この子が居なかったら、どうにかなってしまっていたかもしれないわね。」


そう言って、スズネを見つめる・・・本当に、この子が居てくれなかったら・・・そう思うとゾッとする。

でも、逃げ出して正解だった・・・あんな悪夢は沢山だ・・・


「夢なのに、何だか怖くて怖くて・・・この子を連れて、やっと逃げ出してきたのよ。でも、あなたが迎えにきてくれて良かったわ。」


頭がぼーっとして、何を喋っているのか・・・考えているのか纏まらない・・・

かなり走ったからだろうか、スズネを抱いている腕も震えてきてしまっていた。


「ずっと抱いてたから、腕が痺れちゃった。」


そういって、あの人にスズネを渡す。

やっぱり、あの人は驚いてスズネを受け取る・・・いつまで経っても、スズネを抱くときは不器用だ・・・


急に、目の前が暗くなった。

やはり、よほど疲れていたのだろう。貧血を起こしてしまったようだ。


「お、おいっ。しっかりしろ。」


久しぶりに聞いた日本語の・・・あの人と違う声(・・・・・・・)が聞こえた。


何とか、顔を向けると・・・そこにはあの人は居なかった。

そこに居たのは、あの人と同じ黒い髪に黒い瞳の・・・多分、言葉からあの人と同じ日本人・・・


そして、その彼の腕に抱かれている・・・スズネじゃない(知らない)子供・・・



その瞬間、今までの全てを思い出してしまった。

自分が何処かわからない場所に居ることも・・・

スズネを探しても、何処にも居なかったことも・・・

この悪夢が、決して夢ではないことも・・・


そして、理解してしまった。

自分の命が、もう長くないことも・・・


全ては・・・幻だったのだ・・・この悪夢以外の全てが・・・


「そっか・・・そっか・・・。」


私は、この悪夢から空想の世界へ逃げてしまったことに気づいてしまった。


そして、同時に大変な過ちを犯してしまった事も気づいた。

この子は、スズネじゃない・・・それなのに、私はこの子とスズネを重ねてしまった。

『親』から『子供』を引き離してしまった・・・なんと残酷な事をしてしまったのだろう・・・


男の人の腕の中で眠っている、子供の頬にそっと触れる。


「ごめん・・・ね」


きっと許されない・・・許されるはずがない・・・それでも、私はこの子に謝るしかなかった・・・



「あぁ、気にしないでいい。君は何も悪くないよ。」



あの人と同じ、優しい声・・・何も知らないくせに・・・私の罪の深さを何も知らないのに・・・

無責任な、その言葉に私の心は救われてしまった。なんて自分勝手なのだろう・・・


「フフッ、ありがとう。あなた、優しいのね。」


そう言った私を見ていた彼は、悲しそうな顔をしていた。

無責任で優しい彼に、私の無責任なお願いを聞いてもらおう・・・


「その子のこと・・・お願いします。」


酷いお願いだ・・・彼はうなずいてくれただろうか?もう、何も見えないし聞こえない・・・

それでも、彼はお願いを聞いてくれた・・・何故か、耳元を吹く風が教えてくれたような気がした。







気がつくと、私は駅のホームに立っていた。

改札の前には、優しいあの人と・・・腕に抱かれた大事な娘・・・


「・・・本当に迎えにきてくれたんだ・・・でも、ごめんね。そっちへは行けないみたい。」


改札の向こうへは、行けない・・・何故かわかってしまった。

ホームに電車が入ってくる。ドアが開き、私はそれに乗り込む。


あの人は悲しい顔をしていた。スズネは大丈夫だろうか・・・寂しくて泣いていないだろうか?

傍に行って抱きしめてあげたい・・・ずっと、一緒に居たい・・・


私はこぼれる涙を堪えながら、手を振る。

あの人も、スズネに手を振らせてくれていた。


電車のドアが閉まり、ゆっくりと動き出す。

二人の姿が見えなくなって、私は声を上げて泣いた。


確かに、私が犯した罪は許されるものではない。

それでも・・・それでもこんな罰はあんまりだ。


この理不尽な世界が許せなかった。どうして、こんなことになってしまったのか。

自分の運命を呪った。何故、他の誰かでは無く私だったのか。


誰も答えてはくれなかった。

だから私はひたすらに、二人の幸せを祈った。

二人には優しい世界であるように。決して運命などに負けてしまわないように。







そして、最期に一つだけ

あの理不尽な世界に居た、優しい声の彼に神のご加護がありますように。

私自身、こういった心の問題に関して詳しいわけではありません。

不愉快に思われる方がいらっしゃいましたら、心よりお詫び申し上げます。


私は途中までで、全て呼んだわけではありませんので人伝いですが

『ゼロの使い魔』という、商業作品での一シーンを思い浮かべながら書きました。

子を想う母親の話が出てきたと聞いて、今でもその話から読めません。


『風の勇者』は『異世界に飛ばされてしまった不幸』を伝えるためのお話でした。

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