『風の勇者』
今回は、特急仕事で書き上げてしまったため内容の精査が取れていません。
後日、若干の修正を加えるかもしれません。
《「風の精霊」が騒いでいます。》
仕事も無事終わり、寄り道もせず早足での帰り道、「精霊」が突然、言い出した。何の事なのか問いただすと、普段自由に飛び回っているだけの「風の精霊」が、どこかに集まるように動いているらしい。
「何かあるのか?」
俺の問いかけに、精霊は無言だ。今まで、いらない事もしゃべっていた精霊にしては珍しい。俺は、その異様性に嫌な予感を感じた。
「それは、マズイ事なのか?」
俺の再度の問いかけに、精霊は大きく揺らめいたようにする見えた。
《わかりません。しかし、普通では無いと感じます。》
・・・「感じます」?いよいよ、雲行きが怪しくなってきた。こう言う時に、こいつが断定しない事は、そう多いくない。
辺りを見回しす。周期は夜もかなり深い時間だ。暗い空に星明りが見えるが、街中には街灯も無く建物の影などは本当に闇一色だ。街の大通りでは無く、近道の為に路地を歩いていた事が裏目に出たのか、周囲に人影はない。
「他にも精霊は山ほどいるだろう?そいつらは、どうしているんだ?」
これだけ、こいつの様子がおかしいのだ。他の精霊が・・・少なくとも、その風の精霊の眷属とやらは、大騒ぎになっているだろう。
《風の眷属は、動こうとしていません。動いているのは『風の精霊』だけです。》
やばい事が起こっているらしい。やっと最近、こちらの仕事にも慣れたところで、おかしな事に巻き込まれたくはない。
「遠回りになっても構わん。マズそうな場所は迂回する。道はどっちだ?」
俺の指示に精霊は応えない。
苛立ち俺は若干声を荒立てる。
「おい!どこがヤバそうなんだ!」
俺の問いかけに、精霊は静かに応え路地の先を指差すように手にあたる何かを持ち上げた。
「原因が目の前に来ました。」
俺は、驚きつつも指さされたであろう場所に目を向けた。
足に力を入れて、即座に逃げる準備を行いながら、目を凝らす。
そこには、子供を抱いた女性がゆっくりと歩いてくるのが見えた。
その女性は、暗い中でも輝くようなブロンドの髪を長く伸ばしていた。
「・・ネ・・・モ・・・ジョ・・ダカ・・・」
小さな声が聞こえる。何を言っているのかは聞き取れない・・・しかし・・・
目の前の状況に俺は恐怖で、動く事が出来なかった。戦闘でないからなのか『軍人』は、働いてくれなかった。
目の前の女性は、片方の足を引き摺りながら、両手に抱えた子供を落とさないように、大事に大事に歩いている。
『元の世界』のゲームに、こういった『ゾンビ』が出てくるものがあったと、急に思い出した。
女性が近づくにつれ、その異様さに気づく。
女性の髪は乱れていたが、服装は少し高級なものだ。おかしな乱れも無いように見えた。。
子供を抱いた女性が、目の前までやってきても、俺は動く事が出来なかった。
と、いつの間にか周囲に血の匂いが広がる。まるで、急に血が撒き散らされたかのような濃厚な地の匂いだった。
そして、ついに女性の目が俺を捉えた。
そこに見えた感情は何だったのだろう?
「絶望」「憎悪」「安堵」「懇願」「思案」
複雑な感情が入り乱れたように見えた瞳に最後に映ったものは「喜び」だった。
「あぁ・・・あなた、迎えにきてくれたのね?今、スズネと帰ろうとしていたところなのよ。」
か細い声で、女性が話しかけてくる。目は俺を見ているはずなのに、何処か焦点があっていない。
そして、俺は気づいた。目の前の女性は「日本語」を話している事に。
女性は、顔つきから日本人では無いように見えたが、間違いなく彼女が発した言葉は「日本語」だった。
驚愕で固まってしまっている、俺を無視するように女性は続ける。
「フフッ、変な夢を見て遅くなってしまったのよ?急に、おかしなところへ連れてこられてしまって・・・ほんとうに心細かった・・・この子が居なかったら、どうにかなってしまっていたかもしれないわね。」
そういうと、腕に抱いた子供を愛おしそうに見つめる。子供は良く見えないが、生まれて1~2年位だろう。白い毛布のようなものに包まれている。
「夢なのに、何だか怖くて怖くて・・・この子を連れて、やっと逃げ出してきたのよ。でも、あなたが迎えにきてくれて良かったわ。」
『夢』なのに『逃げ出す』・・・彼女の話に違和感を覚える。
「ずっと抱いてたから、腕が痺れちゃった。」
そういって、子供を渡してくる。
突然の事で、思わず受け取ってしまった。
子供は、安らかとも言えるほどぐっすり眠っているようだった。
ドサッという音に我に返ると、女性は足元に倒れていた。
その時、初めて女性の背中に矢が刺さっている事に気づいた。矢は、女性の背中から胸へ突き抜けているようだった。
よく見ると、足元に血だまりが出来ている。歩いて来た道には、点々と血の跡がついているようだった。
素人目には傷が深いのかわからない。だが、出血が酷い。場所も・・・肺位は貫通してしまっているかも知れない。むしろ、良く歩いていたと思えるほどの重傷。抱いた子供に怪我が無いことから、ひょっとしたら庇いながら歩いて来たのかも知れない。彼女の呼吸は浅く・・・弱い。
「お、おいっ。しっかりしろ。」
俺は、意識して日本語で声をかける。既に彼女の顔は、真っ青を越えて、土気色になってきていた。冗談でも『大丈夫か』なんて、聞ける状態ではなかった。
彼女は、少し驚いた後、不思議そうな顔で此方を見て、そして目を瞑る。
「そっか・・・そっか・・・。」
小さく、絞り出す様な声で彼女は納得したように呟いた。そして薄っすらと目を開ける。開かれた目から涙が流れ落ちた。
「ごめん・・・ね」
そう言うと、俺が抱きかかえている子供に手を伸ばす。
彼女が何に謝っているのかは、わからなかった。何か謝らなければならない事をしたのだろうか?
・・・それでも俺は・・・声を掛けていた。
「あぁ、気にしないでいい。君は何も悪くないよ。」
理由も無く彼女は、許されるべきだと思えた。
故郷の言葉を聞いたからか?死に行く彼女に辛い言葉を言うのが躊躇われたのか?自分でもわからない。
「フフッ、ありがとう。あなた、優しいのね。その子のこと・・・お願いします。」
僅かに微笑った彼女は、そう言うと、真っ直ぐに夜空をみあげ、両手を掲げるように伸ばした。
彼女の目はもう何も写していないだろう。それでも、彼女は何かを見ていたようだった。
「・・・本当に迎えにきてくれたんだ・・・でも、ごめんね。そっちへは行けないみたい。」
最期にそう言うと、伸ばされていた手が力無く地面に落ちた。
急激に、女性の身体に違和感を覚える。目を凝らしてみると、その身体は、幻のように消えようとしていた。
《『祝福』を受けていないようです。命が『この世界』から、『出て行きます』》
精霊がそんなことを言った。意味は、良くわからなかったが・・・
すると、強烈な風が吹き荒れる。風が耳に痛いほどの突風が続いた。
強い風に晒されながら、俺が見てる前で女性は身体が完全に消え去る。
しばらくすると、嘘のように風はやみ、再び静かな夜が訪れた。
《『風の精霊』は、祝福を与えようとして集まっていたようです。もう、散ってしまったようですが。》
どういう理由で、集まったのかは知らないが・・・もう少し、静かに見送ってやれなかったのか。
俺の苛立ちが伝わったのだろうか、それ以上精霊は何も言ってこなかった。
しばらく、ぼうっとして動く事が出来なかった俺は、複数の足音で我に返る。
ガチャガチャと鳴る足音から想像するに相手は、かなりの武装しているようだ。
怒りが混み上がる。
この足音の奴らが、この彼女を殺した対象だろうか?
今までに無い感覚。
『軍人』が俺の心を変えていく。『加護』の力で身体に力を張り巡らせる。
足音は、その間も近づいてくる。
意識の全てが、自身の安全では無く、対象への攻撃衝動へと変わっていく。
そして、一方踏み出そうとした瞬間・・・腕に抱えた小さな命が俺を押しとどめる。
一連の出来事で、腕に抱いていたことさえ忘れていた。
俺は「託された」のだ。
この子に、『傷一つ』つけるわけにはいかない。
そう判断した俺は、足音がする方向とは逆方向へ走り出した。
今までに無いほどに、身体能力強化を存分に使い俺は、闇夜を駆け抜けた。
安全な場所を探そうするが、心当たりがない。仕方なく、自身の城である『斡旋所』まで走り続けた。
『斡旋所』のホールには、あの『占い師』が一人だけ・・まるで、俺がくる事を知っていたかのように待っていた。いや、『ように』では無いのだろう。
「お帰りなさい・・・と、言うべきなのでしょうね。」
俺は、警戒を強める。いつの時間でもホールに、最低限の『職員』はいたはずだ。
それが、今は『占い師』一人。
そして、仕事前の言葉・・・
「話を聞きなさい。貴方にとって必要な事よ?」
そう言うと、占い師は何処から取り出したのか、長い煙管を吹かせた。
「結論から、言うわね。貴方が大事に抱えている子、王家の子供なのよ。」
・・・何を言っている。この『占い師』も信用に値しない。
もっとも、『この世界』で『信用』できるものなど、何も無い。
彼女は、『同胞』で間違いないだろう。おそらく噂に聞いた『女の勇者』・・・彼女の言葉から、想定されるのは『スズネという、この子を連れて逃げてきた』という事。
街で聞いた話では、「女性の勇者は15周期前にきたばかりだ」。この世界の『王家』とやらの子供を産むのは早すぎる。
自分の考えに、違和感はある。しかし、その違和感は説明できない。判断する時間も無い。
「今の貴方では理解しないでしょう?。その子は此方で預かるから、安心なさい。」
コイツは『馬鹿』か?
はい、そうですかと渡せるわけが無い。
《あの者の言うことはわかりませんが、その幼体と先ほどの者とに血縁はありません。》
精霊が、俺に告げる。俺は、精霊を睨みつける。
「うるさい!黙っていろ!」
俺は怒りのあまり叫んでいた。
目の前の『占い師』と、『精霊』を交互にみやる。
完全孤立状態。それでも、『軍人』が現状の脱出方法を模索する。
とりあえず、街から出る事を検討していると突然、強い耳鳴りに襲われた。同時に身体中が軽く痺れ、目に柑橘系の果汁でも流されたのかと思うほどの痛みが走る。
首筋が痺れ、立っている事も出来ない。
「ちょうど、か。少し眠っていなさい。悪いようにはしないわ。」
俺は、強い耳鳴りの向こうにそんな声を聞いた。
腕に抱いた子供が落ちてしまわないようにするが、力が入らず意識が遠のいていく。
ゆっくりと膝をつき、せめて子供が怪我をしないように身体でかばいながら倒れこむ。
自分が倒れた事も理解しないまま、俺は意識を失った。
時間が取れないため、次回の更新はかなり空くと思います。
次回は初めて、『主人公以外』視点でやってみようかと思います。
勢いのある内にあげることが出来ればよいのですが・・・
9/25 若干台詞を修正