査定(4)
物語前半を見直しています。
もう、修正の必要な箇所が多すぎて、書き直した方が早いかもしれません。
15:査定(4)
俺は、ひっくり返された器を見て反射的に飛びのいた。
『似非占い師』と俺の間においてあった机は、ひっくり返された器の中の液体が滴り落ちて・・・はいなかった。
『似非占い師』が、ひっくり返した器を持ち上げる。
そこには、何の支えも無いのに宙に浮いている液体という非常識な光景があった。
液体の中に、小さな光が見える。
《他人に見えるほどの精霊です。》
それまで黙っていた『精霊』が突然話しかけてくる。
わかっていたのなら、最初に言えという意味を混めて『精霊』を睨みつける。
その行為を見ていた、『似非占い師』が目を細めた。
「へぇ、貴方も自分の『精霊』の声が聞こえるのね?」
その言葉に、思わず俺は『似非占い師』の顔を見てしまった。
目しか見えないその顔には、明らかにコチラを観察するような・・・値踏みするかのような何かがみえた。
《この者の言い方だと、『精霊』が話をしていないような言い方ですね。どんな存在にも『精霊』は、何度も話しかけているのに・・・》
『精霊』が抗議するかの様な声を上げる。
だが、今は目の前の問題を片付けるほうが先だ。
「なんとなく、ですよ。ハッキリと声が聞こえるわけではありません。」
ここで嘘をついても、バレバレだろう。以降の事も考えたら、全くの嘘で誤魔化すことも無理があるかもしれない。
「やっぱり・・・随分『高位の精霊』の『祝福』を受けているようだから、そうだとは思ったのよ。」
この『似非占い師』は、祝福を与えた『他人の精霊』がわかるのか?
俺が、今まであって来た『人間』の『祝福した精霊』なんて、全くわからなかったから、そういうものと勘違いしていたが、普通わかるものなのだろうか。
俺は、ゆっくり座りなおしながら考えを巡らせる。
迂闊なことは言えない。出来ない。悟らせられない。
相手は『催眠術師』ではなく、こちらの行動から事情を推測する『プロファイラー』のようだ。
先手は取られている。とにかく、この雰囲気を何とかしなくてはならない。
しかし、焦ってはいけない。相手が、俺の何かを想像できる対応をしてはいけない。話を、膨らませてはいけない。
「いきなりで驚いてしまいました。貴方も人が悪い・・・それでは、『査定』をお願いします。」
有無を言わさず『査定』に持っていく。
コチラは、心理戦の素人だ。相手は『職業』にしているプロであろう。腹の探り合いなんて、まともにやって、勝てるわけが無い。隠そうとしても、相手にはバレてしまうのだ。
それならば、バレている部分は切り落としてでも強引に『査定』を終わらせて退出するしかない。
「あら?そうだったわね。それじゃ、改めて『査定』するわね。」
そういうと、『似非占い師』は空中に浮いている液体に手を入れた。
目を閉じ、何かしゃべっているように見える。『精霊』と会話でもしているのかもしれない。
こちらも『精霊』に、確かめさせたいが・・・迂闊に喋っている内容を聞かれるのもマズイ。
今は、ひたすら時間が過ぎるのを待つだけだ。
どれほどの時間が過ぎただろう。体感では何十分もこのままだった気がする。
女が喋るのをやめ、液体から手を抜く。先ほどの器を用意すると、液体は意思があるように器に治まった。
現在、女は俺に背を向け、部屋の隅においてあった机の上で、何かをしている。
俺は、一連の行為を、ただ見ているだけだ。
女が、コチラを振り向くと手には『何かの用紙』が握られていた。
「『査定』結果よ。受付の娘に渡してちょうだい。」
そういうと、用紙を俺に差し出した。
『査定』で何をしたのか?今の行為で何がわかったのか?色々と聞きたい衝動に駆られるが、今は、この『似非占い師』とは『会話』しない方が良いと感じる。
俺は、何事も無かったように立ち上がり書類を受け取る。チラリと書類を見てみるが、やはり何が書いてあるのかさっぱりわからない。
「ありがとうございました。」
俺は『似非占い師』に、今出来る最高の『作り笑い』を送った。
「そうそう・・・私、『占い』もやっているのだけれど。」
女が椅子に座りなおすと両腕の肘を机につけ、手を組みあごを上にのせる。
「あなた、とても面白そうな『相』が出ているわ。」
目だけしか見えないが、声音は非常に楽しそうに女が言う。
嫌な予感がする・・・早く外へ出たほうが良いだろうか?しかし、どの道何かを知られているのなら、ここでハッキリ確認した方が良いのかも知れない。
「まるで、『魔王』を倒した『勇者様』みたいな・・・ね?」
女の言葉に、俺は笑み深めた・・・驚くようなヘマをしなかった自分をほめてやりたい。
「光栄ですね。『伝説の勇者』様みたいなんて・・・なんだか、やる気が出てきましたよ。」
そういうと、俺は軽く手を握りこむような仕草をする。
少しは『期待されて喜んでいる新人』に見えただろうか?
つまりはそういうことなのだろう。ここで持ち上げてやる気を出させる。
『力の強い精霊』というのも、ひょっとしたら全ての『査定対象』に伝えていることかもしれない。
こういう場所は、『派遣する駒』のやる気も必要だろう。
俺は、扉を開けると部屋の外へ出る。扉を閉める際にもう一度『占い師』とやらに向き直った。
「それでは、ありがとうございました。」
俺は『占い師』の返答も待たずに、扉を閉めた。
閉まる瞬間、部屋の中で『占い師』が軽く手を振っているのが見えた。
ドアのノブに手をかけたまま、全身に嫌な汗が噴出す。
あの『占い師』は、何かに気づいたわけではない。
施設の職員として、新人を『激励』する意味で言ったに違いない。
そう思い込む事で、自分を納得させる。
少し・・・無理のある希望的観測かもしれないが、全くありえない話でもないだろう。
それでも、『異世界』から来たということはバレていないだろうと推測は出来る
もし、バレているのならば、もっと何かしらのアクションがあってもおかしくない。
大きく深呼吸をして、ドアノブから手を離し受付に向かって歩きだす。
「あいつとお前は『高位の精霊』とやらだったのか?」
歩きながら小声で『精霊』に問いかける。
《高位といわれれば高位かもしれません。そう言った概念は『生物』が勝手に決めているだけです。そもそも精霊には『高位』も『低位』もありません。》
回りくどい言い方だ・・・俺は、この『精霊』を『信用』していない。
これまでの言動にも、決して俺の『味方』という雰囲気は感じられない。
そもそも俺は『俺に祝福を与えた精霊』が、何の『精霊』かを知らない。
この『精霊』は、『自分が何の精霊の眷属』か話そうとしない。
《私の力が使えるようになったとき、自ずとわかるようになります。それまでは、直接お話しすることは出来ないのです。》
・・・毎回、同じ答え・・・重要なことは何も『喋らない』・・・
この世界の常識を知らない俺には、『嘘』か『真実』かも、判断できない。
《あの『生物』が、独自に決めた『高低』かもしれません。あまり信用に足るものとも思えません。》
『精霊』がそんなことを言った。確かにあの『占い師』は信用できない。だが・・・
「俺はお前が『一番』信用ならないよ。」
そう言うと俺は、何が書いてあるのかわからない書類を手にホールにあるカウンターに急いだ。
かなり、強引&不自然なもっていき方をしてしまいました。
整合性は・・・また、機会を見てとりたいと思います。