査定(2)
時間があったので、連続で投稿です。
2話分を1話に繋げて、投稿すれば良いんじゃ・・・とも、思いましたが
前の話と文字数が懸離れてしまいそうですので、このままで投稿することにしました。
読み辛いところもあると思いますが、ご容赦いただきたいと思います。
俺は、現在の戦力の分析を行う。
周囲に散乱している「武器」を見渡す。
『剣』『槍』『斧』『棍棒』『短剣』『弓』・・・それら全てに使用経験なし。
『加護』による身体能力の向上は見られるが、戦闘経験はゼロだ。
相手ははっきりと此方を認識している為、不意打ち等の奇襲が成功する可能性は低い。
残念ながら、俺には相手の力量を推測することなどできない。
ちょっと、力が上がっただけでそんなことが出来れば世話はない。
それでも、相手はあんな物を持ち出してきているのだ。『査定員』等と言う役職からも、そう言ったことに関しての実力は誰もが認めるようなものなのだろう。
手近な武器を手にとっては振るう振りをし、その間に『軍人』の能力で、様々な情報を『考察』する。
条件は、勝利ではない。此方が負傷しない事が第一。その上で、相手に『点数を付けて貰えれば』合格。さらに、相手に痛手を与えることが出来れば『上々』だ。
とにかく、武器選択は重要だ。相手の『鉄球』に対抗する必要は無いが、何でもいいというわけでもない。
槍・・・意外と取り回しが難しい。戦場等で壁のように配列している映画を見た記憶があるが、単独で振り回すだけで、十分な結果が得られるとは考えにくい。
試しに突く動作をしてみたが、慣れていないせいか、窮屈な印象が強い。
斧・・・両手斧は重量がありすぎて扱うことは出来なさそうだ。片手サイズの斧を持ってみる。重量はそれなりにあり、威力は出そうだ・・・悪くは無いかもしれない。
剣・・・大剣は重量的に却下。1m程の片手の剣ならば、振り回した感じも良好だ。
棍棒・・・予想通り、小ぶりでも重量が半端ではない。当たれば強力な打撃を与えられそうだ。
相手は優秀な部類の『戦士』なのだろう。それならば、使用している武器もそれなりに理由もあるであろうし、優秀なのだろう。
短剣・・・非常に扱い安いが、どうしても心もと無い。今の俺には軽すぎるのかもしれない。腕の延長的な感覚だ。左手で握ってみるが、これならば無いほうが良いかもしれない。
他にも鎖鞭や弓が置いてあるが、明らかに熟練が必要そうだ。選択肢には入らない。
盾のような物も置いてあるが、あの鉄球を受け止められるとは思えない。
案としては、斧・剣・棍棒・・・この辺りが妥当だろうか?
比較的技術がいらないであろう片手で持てそうな棍棒が、今はベストと判断し棍棒を手に取る。
棍棒を手に、ふと冷静になってしまう自分がいる。
お腹は減っているが、ココまで必死になるのはどうなのだろう・・・と。
どう考えても、この『査定』は『痛い思い』をするだろう。だったら、そんなに考え込まずに好きなようにやってみるのもいいだろう。
そう想い、他に何かないか・・・そう周囲を見回した時に、錆だらけの『ソレ』が目に入った。
見慣れているわけでは無いが・・・用途は分かる。俺は棍棒を置いて、『ソレ』の傍に駈け寄る。
『昔、田舎』での手伝いで使用したモノより幾分か大きいが、振り回してみても大きな差は感じられない。むしろ、身体強化がされている分扱いやすい印象も受ける。
『剣』と、似た形状だが、こちらには長さの代わりに重厚な厚みと幅があり、決して重量も軽すぎもせず、振り回した時に確かな手応えを感じた。
棍棒か、『ソレ』か・・・二つを交互に手にして、何度か振ってみる。
棍棒の方が幾分か重い。長さはほぼ同じ・・・50cmはない。殴るだけの棍棒よりも、『ソレ』の方が技術は必要だろう。ただ、『田舎で基礎』は聞いている。
悩んだ末に、俺は『ソレ』をその場に置き、棍棒を手にして査定員の男に向き直る。
俺が手にした『武器』を見て、男が少し笑ったようみえた。
これが、唯の笑顔か嘲笑かは、判断できない。
だが、これ以上の判断材料は残っていない。
「それでは、これでお願いします。」
俺はそう告げると、右手に持った「棍棒」を、男に向けた。
「よし、遠慮せずにかかって来い。安心しろ、俺が怪我をすることなんかねーし、そうなったら『査定』は満点をくれてやる。まぁお前は怪我くらいするだろうが、殺しはしねーよ。」
そう言った男は直立のまま動こうとしない。鉄球はさすがに重いのか、地面に置いたままだ。
俺は、姿勢を低くしズシリと来る『棍棒』を両手で握る。
心臓が爆発しそうな勢いで鼓動する。
『軍人』では、『緊張感』までは抑えきれない。
それでも、『頭』で考え続けた作戦を実行する。
俺は、左手側を前に出す半身状態で男の元へ走る。手に『重量物』を持ち、走りにくい状況でありながら、『加護』の力は俺に、『元の全力』以上の速度を与えてくれた。
男を見据えながら、男の左側を大きく迂回するように背後に回る。
男は、最初は目だけで、やがて首、体の順で俺を確認する。
さすがに、棒立ちしていてくれる様子は無い。それでも、相手は構えたりはしていない。
どの道、俺には技術も経験もない。せいぜい出来るのは少しの小細工くらいのみ。
それならば・・・
そのまま、迂回する半径を縮めていく。
男にあと5m程といったところで俺は手にした『棍棒』を男に向かって放り投げた。
そして、俺は隠し持っていた『大振りな薪割用の鉈』を右手に持ち男へ振り下ろす。
そして、気がついた時に俺の背中が強烈な衝撃に見舞われ。息が出来なくなる。
目の前には、『大きな靴』がみえる。
どうなったかを考える余裕も無く、頭は『相手を認識』して『逃げる』為の選択肢を提示するが、息が出来ないため上手く実行できない。
何とか、酸素を取り込もうと息を吸い込もうとするも、実際には全く吸い込めていない。
それでも、何とか転がりながら『大きな靴』から遠ざかる。
数mも離れただろうか、やっと『息を吸う』事が可能になり起き上がりながら状況を確かめる。
男は・・・たぶんその場から動いていない。投げた棍棒は男の足元に転がっている。
そして、奇襲用に手にした『鉈』も少し離れた場所に転がっていた。
作戦は決まっていた。
走り出す前に、一度捨てた『鉈』を右手の影に隠す。全部を隠せるわけではないので、相手には左半身で接近する。
ある程度接近したら、相手に『見せている』棍棒を投げつけ、その隙に『隠していた鉈』で腕にでも切りつけることが出来れば十分と思っていたのだが・・・
が、結果としては、投げた『棍棒』は普通に『素手』で受け止められたように見えた。そして、『棍棒』で『鉈』を弾かれ、俺は一連の流れをちゃんと見ることもできず反応も出来ないまま、急に捕まれた腕に振り回され背中から地面に落とされた・・・という感じだった。
話にならない。たいした作戦でも無かったのだが、全く通用しないとは・・・
頭の回転の速い奴ならば、他にももっと作戦を考えることが出来るだろうが。
背中の痛みも随分引き、呼吸もかなり安定してきた。
目の前の男は、コチラを見たまま動こうとしない。
・・・まだ『査定中』というわけか・・・
ここで諦めてしまっては『査定』に響きそうだ。それに、アッチが付き合ってくれるのだ。このまま、何も出来なかった・・・というのも、面白くない。
棍棒は、男の足元だ。取りに行くのは難しい。
俺は、飛ばされた『鉈』の場所まで移動し拾い上げる。
やはり、男はコチラを見ているが何かしてくるわけでもない。
手にした『鉈』を握り締め、重さを確かめる。
まだ、他にも武器は転がっている。同じ作戦は使えないだろうが、試せることも残っている。
そう判断し、『鉈』を持ったまま『武器』が沢山転がっている場所までゆっくり後退しようとする。
「終了だ。」
急に男が声を上げる。おれは、思わず呆然としそうになる。
「『戦闘』は本当に素人。細い癖にそれなりの力があるって事は『そういう』ことなんだろう。『頭』もそれなりに回るようだが、全く『目』が追いついてない。」
男が一人でしゃべり始めた。
確かに、『感覚器』を強化してくれるような『加護』は無い。
「本当は、しばらく動けない位の力で投げたんだが・・・意外と体も丈夫なようだな。」
男はコチラを向いたまま、話し続けている。よく見ると、受付にいた女性が何かにペンを走らせていた。
「飯に釣られたとはいえ、『コイツ』を見て接近武器を選ぶ度胸と、諦めの悪さは『悪くない』。無謀だがな。」
そういうと、男は足元の鉄球を軽く蹴る。
『弓矢』や『槍』は、扱えなかっただけだが・・・『査定』が、あがってくれるなら黙っていよう。
「おい、最後に『ソイツ』を選んだ理由はなんだ?」
男は、俺の手にある『さび付いた鉈』を見て言う。
「もっとも、手に馴染んだ・・・からでしょうか。」
何か気の聞いた嘘も思いつかなかった俺は、正直に話してしまう。
男は、軽く眉を上げたように見えた。
「自分が一番、手馴れている『エモノ』を選ぶってのもアリだからな。使い慣れない物は『多少』良い物でも『プラス』にならんか。」
そういうと、男は懐に手を突っ込み何か袋をコチラに放り投げた。
「これで『査定』は終わりだ。約束通り、それで何か食え。」
投げられた袋を受け止めた俺は、中を確かめる。
中には色の違う『コイン』が何枚か入っていた。
個人的にも知人の見解的にも、武器のカテゴリーの中で最も脅威なのは『鈍器』だと思います。
遠心力を加えた重量級の刃物・・・長刀や柄の長い斧も個人的にはアリだと思います。