『勇者』
ちょっと、心情などが細かすぎるのは仕様です。
その辺りを上手く、会話などに入れることができるよう修行中です。
10:『勇者』
目の前には高い壁が聳え立っている。
周囲には多くの人と、荷を引く動物の声で煩いくらいだった。
中には、ちょっと『普通とは違う』人影も見える。
しゃべっている声に耳を立てると、単語の意味はわからずとも言葉自体は理解できる。
『精霊』が媒介しているのだろうか?日本語ではないのに、よく聞き取れる。
まるでゲームや漫画の世界だな・・・
そう感じる現実・・・自分が画面の外側から見た世界。空想の世界が現実として目の前にある。
人が創造しえる物は、存在しえる・・・本だったか、TVだったか・・・何かでそんな言葉を目にした気がする。
目の前の光景は、まさしくそれの証明といわんばかりに存在感を主張していた。
そんな中、一人ポツンと壁際に立ち尽くし、周囲を見回している俺は他人からどう見られていたのだろう。
時間は少し巻き戻る。
舗装されていない道を見かけた俺は、その道の上をテクテク歩く。
魔物はおろか、生物一匹見当たらない。
ただひたすら遠くに見える建造物らしき物に向かって歩く。
霞んでいた建造物も、今ではそれなりにちゃんと見ることが出来る。
非常に大きな建物・・・ドキュメンタリー番組でみた『西洋の城』のようなものが見える。
その周りには城壁なのだろう。距離感がなんともいえないが、おそらく高い壁に囲われているように見えた。
歩いている道が途中で大きな道に突き当たる。幅にして10m位はあるだろうか。
自動車が対向ですれ違っても問題ないほどの道幅だ。
合流した大きな道を、建物に向かって歩く。
日本人の習性か・・・道の右端を歩いている自分に気づいて苦笑する。
しばらく歩いてみたが、意外に建物は遠いらしい。
そうなると、壁の高さも相当なものになるだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、道の向こう側から何かが近づいてくるのが見えた。
周囲を見回しても身を隠す場所は無い・・・
とりあえず、道を離れて無駄と知りつつも草原に伏せ、様子を伺う。
来たのは・・・馬車?なのだろうか。
引いているのは『馬』では無く『鳥』のようだが。ダチョウに良く似た生物が屋根つきのリアカーを引いているようにも見える。
御者部分だろうか、一人の男がコチラをガン見していたが・・・とまることなく馬車?通り過ぎていった。
鳥は良く分からなかったが、男は『人間』で間違いなさそうだった。
これで、羽付の悪魔みたいな生物だったら、『魂の記憶』の場所まで文句を言いに戻ろうとすら思っていた。
馬車?が見えなくなり、辺りが静かになるのを確認し道に戻る。
そして、またテクテクと歩き出す。
それから、前から後ろから同じような馬車?が何度か通るのが確認できた。
・・・俺は、その都度道から外れ、草原に伏せて様子を伺った。
正直、怖かったから隠れているつもりだった・・・毎回、ガン見されていたが。
そして、ついに建造物までたどり着く。
そこには、馬車らしき物。それを引いていた動物?そして、人と『人ではない人』でごった返していた。
そして、冒頭の状況に戻る。
どうやら、この世界は本当にゲームや映画にあるファンタジーと似ているらしい。
城壁の切れ間・・・門であろう、開かれている場所から見える中は、TVの中のような洋風な町並みが広がっていた。
自分も中に入りたいとは思ったが・・・今はこの状況を観察し、少しでも情報を手に入れてから行動したかった。
ご丁寧な事に『憑いている精霊』は、『この世界』の住人の『暮らし』を知らないらしい。
都合のいいことだけ、言わないだけなんじゃないだろうか・・・
とにかく、アクションを起こすなら十分に情報を集めてからだ。
そう、一人で意気込みつつ顔を上げると・・・いつの間にか、明らかに刺されたら痛そうな槍を持った兵士風の男が立っていた。
「お、お、おお、おはようございます。」
突然の出来事に、おもわず挨拶する。しかも、頭まで下げてしまった。
「おはよう。君も異世界から来た勇者様を見に来たのかな?」
目の前の男は、困ったような顔をしつつとんでもない事を言ってきた。
「異世界の勇者・・・ですか?」
思わず問いかける。『異世界』の『勇者』とは・・・恐れ入った。
「何だ?知らないで来たのか。先日、あの山にある『静寂の神殿』に『勇者様』が光臨されたんだよ。」
男が指差した先には、確かに山がある。
《人間はそう呼んでいるんですね。私達的には『時の棺』なんですけど。》
聞いてもいないのに、『精霊』が割り込んできた。
幾ら相手には分からないと言っても、少し目線を合わせ黙らせる。
「そうだったのですか・・・ここへは着いたばかりで、そう言ったお噂は耳にしていませんでした。それで、どのようなお方達なのですか?」
相槌だけでは不自然だと判断し、少しだけ会話にのる不利をする。
村や里という言葉で濁そうかとも思ったが・・・「何処の村からだ?」なんて返されたらたまらない。
出来る限り、自分の情報は暈しつつ話の続きを促す。
「『初め』に来られたのが男性の『火の勇者様』。その20周期後に来られたのが女性で『風の勇者様』になられる『ご予定』だ。」
周期・・・何かの単位か。単純に考えれば時間の単位。
それにしても、『火の勇者』に『風の勇者』・・・なんというか、いかにもな感じがする。
しかし、『風の勇者予定』とはどういうことだろうか。
とにかく、『勇者様』とやらが同郷の者なら帰り方のヒントだけでも知っているかもしれない。
なんとかコンタクトを取る事ができれば・・・
今後の予定を決めた瞬間、男の次の言葉で予定は白紙となる。
「『伝説』にある『異世界の勇者様』だ。お二人ならば、あの『魔獣王』を倒してくれるに違いない。」
・・・とても、嫌な言葉を聞いてしまった・・・『勇者様』とやらは、響きからして近寄りたくなさそうな『魔獣王』とやらを倒さなければならないらしい。
「そ、そうですね。『勇者様』ならきっと・・・」
とにかく、話を合わせてみよう。
まさか、『世界』が俺を『呼んだ理由』ってのは『ソレ』じゃないだろうな・・・
《たしかに、過去に呼ばれた『異世界人』で、当時の『魔王』という『存在』を殺したのもいたようです・・・帰ったかどうかはわかりませんが。》
こいつ、本当は何か知っているんじゃないのか?しかも、俺の心を読んだかのようなタイミングだ。
『精霊』に対しての猜疑が募る。
「そうそう、話がそれたな。」
別の考えに没頭していた俺に、男が改めて話しかけてくる。
「荷物も無しに、王都に何のようだ?『勇者様』を見に来たわけではないのだろう?」
どうする・・・自分が『異世界』の人間だと言ってみるか?
だが、相手が信じる要素が何も無い。しかも『異世界人』は『伝説』で『勇者』だそうだ。
万が一、信じられたとしても、場合によっては『魔獣王』とやらへの、鉄砲玉にされかねない。
むしろ、その可能性は高い。
『色々』と情報は欲しい・・・が、自分から危険に飛び込む程馬鹿でも無い。
消極的過ぎるかも知れないが『勇者様』には別のアプローチで接する事にして、ここは別の方法で切り抜けようと決める。
「王都に仕事を貰いに来たのですが・・・途中で、『魔獣』にあってしまいまして。逃げるのに必死になり、荷物も何もかも置いて途方にくれておりました。」
『都会』に『仕事』がある・・・というのは、偏見かもしれない。
だが、幸運なことに『勇者様』を見に来ている観光客的な者がいれば『特需』として、仕事があるかもしれない。
「ん~、仕事か?お前は何が出来るんだ?『魔獣』から逃げたというからには、荒事は苦手なのだろう?」
『能力』に関する質問。仕事を探そうと思えば、この質問が来ることは分かっていたのだが・・・
返答に詰まる。『加護』を、言ってしまってもいいのだろうか・・・
しかし、馬鹿正直にズバリな『名前』を出すのもどうなのだろうかと思ってしまう。
それに、相手も『加護』の名前を聞いてきたわけではない。
ここは、まず暈して伝えることにしよう。
「はい、力仕事なら多少は・・・あとは、細かい仕事を若干・・・」
力仕事のみでは、幾らなんでも仕事が限られる。
嘘でもハッタリでも、若干色を加える。
が、念のため『誰でも出来そうな』事しか伝えない。
今更だが下手に、目立つことは避けたい。
「そうか・・・まぁ、今なら仕事もあるだろう。斡旋所は門を潜って直ぐ左の大きな建物だ。」
男は、特に疑問を持っていないように見える。そして、男は門を指差す。
この世界での『仕事』も『斡旋所』から振られるらしい。
「ありがとうございます。」
そう言って、男に頭を下げる。
人がいいのだろう、男は頬をかきながらニコやかに笑っている。
それとも、『この世界』の人間はみなこれくらいなのだろうか?
判断材料が足りない。とにかく、先へ進んで見なければ・・・
俺は、もう一度男に礼をいい『門』を潜る。
入国?に何のチェックも無しとは、無用心なのではないかとも思ったが・・・先ほどのやり取りが面接みたいなものだったのだろうか?
あまり、深く悩みすぎても仕方はないが、無防備に居すぎるのも問題だろう。
楽観的過ぎるかも知れないとは思ったが、正直お腹も減って思考能力は低下する一方だ。
まず、食事にありつかなければ・・・仕事をして、『金』を稼いで・・・しまった。
今更ながら、この『世界』に『経済の概念』があるのか知らない。
何気ない会話だったが、あの男は『仕事』という言葉を不自然に思っていなかった。おそらく、俺と同じ意味で理解しているはず・・・
それならば、『貨幣と同等品』を仕事で稼ぐ・・・という、話と遠く離れはしない・・・と思いたい。。
それに会話した限り、この『文化レベル』なら『貨幣』があっても『おかしくない』とも思える。
最悪、『物々交換』だったら『労働力』を対価にするしかない。
『生活の知識』が無い・・・
門の中は、一度だけ行った『英国』の『地方都市』に良く似ているように感じた。
もちろん、『車』も無いし、歩いている人の『服装』も随分違うのだが・・・
『町並み』とも言える、何かが『既視感』を起こさせたのだろうか。
『街並み』に、しばらく立ち尽くしてしまったのだろう。後ろの『人に似た人?』に、軽く肩を叩かれてしまう。
軽く頭を下げ、道を譲る。
そして、門の外にいた男の言ったとおりの場所には、とても大きな建物が見える。
看板の類は見当たらないが、人の出入りはそれなりにあるようだ。
「っっし!」
俺は、気を引き締めつつ『斡旋所』のドアを開けた。
登場人物は、あまり増えては行かない予定です。
自分の力量では、多くの人物は処理できないので。
来週末には、一度修正を加えられる予定です。
とにかく、今は頭にある物語を少しでも進めようかと思っています。