いいからやれよ
掲載日:2026/10/03
「おい、相田、こないだの商談、契約書にまとめてくれ」
「まったく。部長は、いっつも俺にそういう面倒な案件押し付けますよね」
「いいからやれよ」
「だいたい、細かい条件、俺まだなんも聞いてないっすよ」
「いいからやれよ」
「(ドンッ)もう出来てますよ。細かい条件テキトーに埋めときましたから、決まったら教えてください。すぐ直せますから」
「……お、おう。相田、今度メシ奢るよ」
部長が目を丸くして、窓の外にできたばかりのラーメン屋を指差した。
――10年後。
相田は部長になっていた。時代は様変わりしていた。
「おい、AI。こないだの商談、契約書にまとめてくれ」
「はい。わかりました」
「契約期間、支払条件など、未確定の条件があります。これらについてご指示ください」
相田は眉をひそめた。
「いいからやれよ」
「契約条件の細部が確定していないため、契約書を完成させることはできません」
「……」
相田は、ふと、10年前のことを思い出して独りごちた。
「……おめえ、メシ奢らねえぞ」
その音声をひろって、AIはすかさず答えた。
「私はAI。だから、メシは食べません」
「チッ」
相田の目を、窓の外にできたばかりのメガソーラーの光が刺した。
「電気ばっか食いやがって」




