第4章 それでも続く
特別なことがない日は、記憶に残らない。
修司はそういう日を、いくつも通り過ぎてきた。
朝はいつも通り目が覚め、目覚ましを二度止めて起きる。
顔を洗い、鏡の前で少しだけ姿勢を正す。
それだけで、昨日と同じ一日が始まる。
駅までの道も、電車の混み具合も、だいたい同じだ。
顔ぶれも変わらない。
誰も修司のことを覚えていない。
それが悪いとは思わない。
むしろ、気楽だ。
会社では、頼まれた作業を淡々とこなす。
急ぎの案件も、厄介なトラブルもない。
机の上に置かれた紙が減っていくのを見ているだけで、時間は過ぎていく。
昼休み、修司はいつものように窓際に座る。
外では、誰かが走り、誰かが立ち止まり、誰かが電話をしている。
世界は相変わらず、忙しそうだ。
修司は弁当の蓋を閉じ、深く息を吸った。
何かをしたい気持ちは、確かにある。
でも、何かをしなくても、一日は終わる。
それが分かっているから、迷う。
帰り道、横断歩道の前で立ち止まる。
信号が赤に変わるのを待ちながら、修司は周囲を見る。
誰かが困っているわけではない。
声をかける理由もない。
修司は、何もしない。
青に変わり、人の流れに混じって歩き出す。
胸の奥に、少しだけ空白が残る。
夜のコンビニも、特に変わったことはなかった。
客は来て、買い物をして、帰っていく。
レジの音が規則正しく鳴る。
修司は、必要以上のことはしない。
でも、必要なことは、省かない。
床が汚れていれば拭く。
並びが崩れていれば直す。
それだけだ。
深夜、トイレを借りに来た若い男性が、出口の場所を探してきょろきょろしていた。
修司はカウンター越しに、軽く手で示す。
「奥です」
男性は「ありがとうございます」と言って去る。
それだけのやり取り。
修司はレジに戻り、静かな店内を見渡した。
誰も困っていない。
誰も助けを求めていない。
それでも、店は回っている。
自分がいても、いなくても、大差はないのかもしれない。
そんな考えが、ふと浮かぶ。
それでも、修司は背筋を伸ばした。
癖のように、無意識に。
今日、何かをしたかと聞かれたら、答えに困る。
大きなことは、何もしていない。
でも、何もしていない一日ではなかった。
少なくとも、投げ出してはいない。
帰り道、夜風が少し冷たかった。
修司は歩きながら、考える。
続けることに、意味があるのか。
続けない方が、楽なんじゃないか。
答えは出ない。
出ないまま、明日が来る。
修司は空を見上げる。
雲に隠れて、何も見えない。
それでも、空はそこにある。
見えなくても、なくならない。
修司は歩く。
何も起きない日を、今日も終わらせるために。
そして、明日も、たぶん同じことをする。
ありがとうございました。
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