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協力者と恋の予感?

 その夜。アトリエに戻った私は、針を進めながら胸の奥が熱くなるのを感じていた。布祭、それは公の場で美を示す絶好の舞台。もし勝てば村人たちの心を一気に掴めるかもしれない。

「負けられないわね……!」

 その時、工房の扉がそっと開いた。そこには一人の青年が立っていた。黒髪に澄んだ瞳、簡素な布一枚の服を着ているが、立ち居振る舞いに気品がある。

「……入っていいか?」

 彼は控えめに頭を下げた。

「僕はオルガ。役人見習いだ。だけど、今日市場でリナちゃんが嬉しそうに服を着ている姿を見た。そこでだ……どうしても君に手を貸したいと思った」

 ……役人の見習い? 危険すぎる。一応ライバルポジじゃない‼

 だが彼のその真剣な眼差しは、嘘を言っているようには思えなかった。私は針を置き、じっと彼を見た。

「どうしてそこまでして私に協力を? 私、今ナンパされるような見た目ではないと思っていますが」

 オルガは少し頬を赤らめ、言葉を探すようにして言った。

「……それは、君が輝いていたから。太っているとか、醜いとか、誰も気にしていなかった。ただ、服を作る君が本当に美しく見えたんだ」

 一瞬、胸が熱くなる。私に向けられた恋の匂い。完璧を強いられた過去には決してなかった感情に心が揺れ動いた。私は慌てて立ち上がり、いつものように堂々とした笑みを彼に向ける。

「……いいでしょう。オルガ、あなたを仲間に迎えます。共に“布祭”を戦い抜き、この世界を変えましょう!」

 オルガが深く頷いた。バーチェはにやにやしながらこちらも見つめている。

「おやおや、若い娘と男が組むなんて面白い展開だね。恋にも期待大だ」

「か、勝手にやめてもらってもいいですか⁉」

 こうして隠れ工房は、仕立て屋バーチェ、見習い役人オルガ、そして私──三人で本格的に始動した。目指すは月末の布祭での優勝。現地最強の仕立て屋ファリオとの公開対決。革命の幕はいよいよ大きく広がろうとしていた。


 ――布祭まで残り三週間。アトリエでは針の音が響き続けていた。布の山、草木染めの壺、糸車。小さな工房が熱を帯びた舞台に変わろうとしている。

「……けれどまだ足りないわね」

 私は布を見つめて呟いた。仕立ては順調でも、私自身がこのままでは駄目だ。鏡代わりの金属片に映るのは、まだ太った顔、くすんだ肌。少しはマシになったと言っても、美を説く者としてこれは致命的。

「もっと動いて美しくならなくては……!」

 私は工房の裏庭で朝晩に“修行”を始めた。縄を跳び、薪を担ぎ、走り込み。最初は数分で息が切れ、膝が笑った。

「ぜぇ……はぁ……な、なんで……こんなに辛いの……」

 バーチェが笑い転げる。

「アハハ! あんた、布より先に自分の体を仕立て直さなきゃねぇ」

 それでも私は諦めなかった。額から汗を流し、脚を震わせながらも繰り返す。体重は劇的には減らない。けれど確かに体が軽くなり、息も長く続くようになっていた。

 夜は美容の研究。バーチェに教わった薬草をすり潰し、蜂蜜と混ぜて顔に塗る。匂いは酷いが、翌朝になると少しだけ肌が滑らかになっている気がした。

「うぅ……美は努力なくして得られないものね」

 オルガはそんな私を見て、笑みを浮かべる。

「君は本当にすごいよ」

「え?」

「村の人を変えようとするだけじゃなく、自分まで変えようとする。それが、すごくかっこいいんだ」

 不意に心臓が跳ねた。私は慌てて顔を逸らした。

「し、しっかり手伝いなさい! サボったら許しません!」

 恥ずかしさが勝って、ただ強がってみせた。オルガは「もちろん」と笑ってくれる。その笑顔にまた胸の奥がざわついた。布祭に出す作品のテーマは決まっていた。それは──「動ける美しさ」。庶民が布一枚で不便に過ごしているこの世界に、機能と美を兼ね備えた服を示す。布は一枚という制約の中で、私は工夫を重ねていった。布を折り重ね、動きやすさを生むカッティング。腰のラインを細く見せるギャザー。風を受けて舞う裾。そのすべてにこだわりと知識と経験を詰め込む。

「これこそ革命の証よ」

 一方でファリオの噂も耳に入ってきた。

「今年の布祭はさらに派手な“百重布装束”を出すらしい」

「布の厚みで人を圧倒するつもりだ」

 ……数だけで人を黙らせるつもり? 卑怯というか、それで自分の実力が示せるとでも思っているの?

 私は奥歯を噛みしめた。

「数に酔う時代遅れを、叩き潰して差しあげますわ」


 ――布祭前夜。私は夜通し針を動かした。疲労で瞼が重くても、決して胸の奥の炎は消えない。

「必ず勝ってみせる!」

 オルガがそっと差し出したランプの光に照らされ、針先がきらりと輝く。──美は、ただの飾りではない。人を救い、人を変える力。それを証明する戦いが、いよいよ始まろうとしていた。

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