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革命のスタート!

 翌朝。鶏の鳴き声で目を覚ました私は昨日織った布を抱きしめていた。まだざらついた風合いの生まれたばかりの粗末な布。けれど私にとっては、母から受け継いだたくさんの宝石以上の輝きを放っていた。

「これで……ようやく一歩進める」

 私は針を手に取り、村の子どもたちの小さな姿を思い浮かべた。彼らは昨日、泥だらけの布一枚で走り回っていた。汚れも擦り切れもそのまま、穴だらけの布を身にまとい、笑っていた。いくら機能を求めると言っても布一枚では寒さや暑さを防ぐに限界がある。それに服は着るもので、美しさや日々変わるファッションを楽しむことを知らない――その笑顔に私は胸が痛んだ。

「子どもたちが美しさを知れば、この世界も少しは変わるはず」

 昼下がり。広場で遊ぶ子どもたちの中に特に薄汚れた服を着た小柄な少女がいた。髪は絡まり、瞳は曇っている。村人たちが「リナ」と呼ぶその子は、孤児で誰からも服を買い与えられたことがないらしい。私はそっと近づいた。

「リナ、だったわよね。これを──着てみてもらえるかな?」

 差し出したのは昨日徹夜で仕立てた小さなワンピース。胸元にギャザーを寄せ、裾には切り込みを入れて軽さを出した。地味な色合いの布も縫い合わせの工夫一つで華やかさを纏う。リナは目を丸くして震える声で言った。

「……わ、わたしに? でも……布は一枚だけって……」

「そう。これは確かに一枚で作ったものよ。でもただの布切れじゃないの。これは──服なの」

「服、こんなに素敵なものがあるなんて! 嬉しい!」

 リナが着替え、村を歩くだけでざわめきが走った。茶色い大人たちの群れが目を見張り、口々にささやき合う。

「なんだあれは……?」

「同じ布一枚なのに……形が違うだけで……」

「あぁ。まるで別の世界の子みたいだ」

 リナは恥ずかしそうにうつむきながらも歩み出た。動くたびに布がひらりと風を受ける。それだけで広場の色がぱっと明るくなったように見えた。

「……わ、わたし……きれい?」

 少女が不安げに問う。私は胸を張り、力強く頷いた。

「もちろんよ。リナは美しい。誰もが目を奪われるほどにね」

 その瞬間、リナの曇っていた瞳に光が宿った。小さな手が服の裾を握りしめ、笑顔が弾ける。

「ありがとうっ! わたし、こんなきれいになれるなんて思わなかった!」

 周囲の村人たちも気が付けばその笑顔に呑まれていった。口をぽかんと開けて見ていた農夫の一人、ぽつりと呟く。

「俺たちは布一枚しか持てない、一生この階級が変わらない限りは。でも……布の数じゃなくても……人は変われるのか?」

 その声はやがて広場全体に波及していった。だがその場の空気を裂くように、怒鳴り声が響いた。

「なにをやっているんだ!」

 現れたのは村の役人風の男。赤ら顔に、分厚い布を三重四重に巻きつけた、滑稽なほど着ぶくれた格好。彼は憤怒の形相でリナを指さした。

「庶民が布を加工して“服”など作るなど、法に反する行為だ! 布一枚は布一枚のまま着るのが決まりだろう!」

 私はリナを背にかばい、きっぱりと声を返した。

「法? そんなもの誰が決めたのですか。布の数で人を縛るなんて、美を冒涜するにも程があります‼」

 役人の顔が怒りで紫色に染まる。

「この小娘め、美などという無駄な概念で秩序を乱す気か⁉」

 広場が凍りつく。村人たちが息を呑む中、私は一歩踏み出して堂々と宣言した。

「ええ、乱しますわ。この世界の“クソダサ秩序”を、この私が根こそぎ覆して差しあげましょう!」

 役人の叫び声が広場に響く。

「こいつを捕らえろ!」

 だが村人たちの中に昨日までにはなかった感情が芽生えていた。リナの笑顔を見た彼らはもう元の無関心には戻れない。

「待てよ。確かにあの子はきれいだ」

「ただの布なのに、あんなに違って見えるなんて」

 布一枚の世界に生まれた服、そしてその熱が役人の怒声を少しずつ押し返していった。私は心の中で微笑んだ。──これが、最初の革命の火種。布一枚のワンピース。たったその一着がこの世界の価値観を揺さぶり始めたのだ。

「私はミア。名を刻んでおきなさい。このダサすぎる世界に美の改革をもたらす者として!」

 灰色の村の空に私の声は高らかに響いた。私は温かい拍手に包まれ、一方で役人の舌打ちを受けながら部屋へ戻った。その日はなかなか興奮で寝付くことができなかった。

 役人に睨まれた翌日。村の空気はざわついていた。子どもたちはリナのワンピースを見て憧れの眼差しを送り、大人たちは恐怖と好奇心の狭間で揺れていた。

「……あの役人、絶対にまた来ますね」

 私はバーチェの小屋に身を寄せながら、昨日のことを思い出していた。もし布を加工した罪で捕らえられれば、ただでは済まないだろう。けれどそれでも止められない。

「美は人を救う。私はそれをこの世界に証明するのです」

 バーチェは片目を細めて私を見た。

「アンタ、本当に恐ろしい娘だよ。けど……面白い。あたしの小屋を使いな。ここを“工房”にしてやろうじゃないか」

「バ、バーチェ様ぁ!」

 こうして始まったのが私とバーチェの“隠れ工房”だった。糸車と織機を隅に並べ、灯りを遮るように古布を垂らし、外からはただの倉庫にしか見えない。けれど内側では世界を変えるための針と糸が動いていた。私は村の子どもたちのための服をこっそり作り始めた。遊びやすいように裾を短くしたパンツ、肩に動きやすさを持たせたシャツ。どれも庶民の布一枚を“服”に変えただけだ。だがそれだけでも子どもたちの瞳は輝き、村に笑顔が戻る。

「やっぱり……布の数ではなく、仕立て方こそが命ね!」

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