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最終決戦

 こうして闇帝との最終決戦の幕が本格的に上がった。光と闇、希望と絶望──世界の未来を賭けた、布の戦いが始まる。闇帝の玉座の広間に、轟音が響き渡る。黒布が天井から滝のように降り注ぎ、地を覆い尽くしていた。それはまるで世界そのものを飲み込もうとする波。私は光針を握りしめ、三人と並んだ。

「さぁ」

 針先が眩く光を放ち、影布の一端を縫い裂いた。裂け目から光が差し込み、人々の呻き声が解放される。

「助けて……!」

「光が……見える……!」

 だが次の瞬間、闇帝の咆哮が全てをかき消した。

「無駄だと言ったはずだ。お前の針は一時の綻びを生むに過ぎぬ。影は必ずほつれを縫い潰す!」

 黒布の奔流が広間を埋め尽くす。オルガが剣を振るうが、切り裂いた端から再び縫い合わされていく。

「チッ……! きりがねぇ!」

 再びリュシアンの手が糸に絡めとられそうになる。私は必死に光針を走らせる。だが裂けば裂くほど、闇帝はさらに布を繰り出してくる。

「これでは……!」

 そうこぼした時、バーチェが肩を叩いた。

「気を確かに持つんだお嬢!」

 リュシアンが叫ぶ。

「僕たちが支える。だから縫い続けろ!」

「そうだ!」

 オルガが背を預けてくる。

「針を走らせろ。ミアの布ならこの闇だって裂ける!」

 私は空高く針を突き出した。

「……ええ! 必ず!」

 光針が走るたび、影布が裂け、光が差し込む。その光に照らされた人々が次々と目を覚まし、声を上げた。

「希望だ!」

「私たちの声が戻ってきた!」

 だが闇帝は不気味に笑う。

「愚か者ども……希望を縫い合わせても人は必ず絶望で裂ける。それが繰り返されてきた、この世界の歴史だ!」

 広間全体が震え、黒布が一斉に立ち上がる。それは巨大な獣のような形を成し、咆哮を上げた。私は針を胸に抱き、囁いた。

「……歴史がどうであれ、未来は縫い直せる」

 光針が一層眩い輝きを放ち、闇布の獣と正面からぶつかり合った。光と闇が激しく交錯し、轟音が城を揺るがす。だがその時、私の耳に再び囁きが届いた。──妹ユリアの声。

「この戦いはあなた一人じゃない。縫い合わせてきた全ての命が、今あなたの布に宿ってる」

 胸の奥が熱くなり、涙があふれそうになる。

「……そうね。私は一人じゃない!」

 私は針を高く掲げ、叫んだ。

「皆の命を縫い合わせ、この針に宿します! これこそが──最後の布!」

 光針から奔流のような光が溢れ、広間を包み込んだ。闇帝が低く唸る。

「……ならば、その布が本物か……次で決する!」

 影布の獣がさらに巨大化し、広間を覆い尽くす。光と闇が最後の衝突に向けて膨れ上がっていった。広間全体が震え、影布の獣が天を衝くほど巨大化していく。その口から放たれる闇の奔流は城も大地も飲み込もうとしていた。

「くっ……!」

 オルガが剣を構えたが、光がすぐに押し返される。リュシアンの魔法も霧散する。

「俺たちじゃ……もう耐えきれねぇ……!」

 私は光針を強く握りしめた。仲間の声、救ってきた人々の笑顔、ユリアの囁き──全てが胸の奥で響く。

「……私の針は、私一人のものではありません」

 私は深呼吸し、両手で光針を掲げた。

「ここまで縫い合わせてきた全ての布を、一つに──!」

 光針が眩く輝き、無数の糸が走り出す。それは鉄の国で救った人々の鎖布、花の国の花布、血の国の共命布、炎の国の灯布、全ての文化を縫い直した布が一枚に繋がっていく。光の布が大広間いっぱいに広がり、影布の獣と真正面からぶつかった。

「これが最後の布!」

 闇帝の咆哮が轟く。

「なにをしている。その布はただの継ぎ接ぎ! ほつれだらけでどうせすぐに裂ける!」       

 私は涙を浮かべて叫んだ。

「確かにこれは継ぎ接ぎ。でもそれこそが人の布! 何度裂けても、縫い直し続けるから強いのよ」

 光と闇が激突する。轟音が大地を揺るがし、城壁が崩れ落ちる。人々の声がこだまし、光に糸を与える。

「負けるな……!」

「希望を……繋げて……!」

「布を縫い直せ!」

 無数の声が布に宿り、光針をさらに輝かせた。

「これが……私たちの布!」

 私は最後の力を振り絞り、光針を闇布の中心へ突き立てた。──バチィィィィンッ! 眩い閃光が広間を覆い、闇布が裂け散っていく。獣は断末魔の叫びを上げ、崩れ落ちた。玉座に立ち尽くす闇帝が赤い瞳で私を睨んだ。

「なぜ……これほどの闇を……縫い潰せる……」

 私は針を胸に抱き、静かに微笑んだ。

「闇を抱いているのは、皆同じ。だからこそ縫い直せるのです。影すら布の一部として──」

 光が闇帝を包み込み、その姿はゆっくりと消えていった。やがて広間に静寂が訪れた。黒布は全てほどけ、残ったのは一枚の大きな布。それは光と影が交錯し、どちらも抱きしめるような模様を描いていた。私は針を握りながら呟いた。

「これが……最後に縫い上げた布……」

 私に向かって三人が駆け寄る。

「やったな、ミア!」

「お前の針が、世界を救ったんだ」

「見事だ。お嬢よくやったよ」

 私は微笑んで首を振った。

「いいえ……救ったのは、私たちみんなの布よ。オルガ、リュシアン、バーチェ様。私を信じてくれてありがとう」

 ……そしてユリアも、ありがとう。最後まで私も頑張れたから。

 その瞬間、崩れ落ちていた城の天井が開け、陽光が差し込んだ。人々の歓声が遠くから響き、世界が再び色を取り戻していく。私は空を見上げ、光針を胸に抱いた。

「布はほつれる。けれど何度でも縫い直せる。この針がある限り──未来は繋がっていくのね」

 こうして闇の国は光に縫い直され、長き戦いは終わりを告げた。闇帝が消え去ったあとの影の国には深い静寂が訪れた。だがその静けさは、絶望の沈黙ではなかった。広間に広がる布は柔らかな光を宿し、やがて小鳥のさえずりや子どもたちの笑い声が戻ってきた。黒布に縛られていた人々は解放され、互いに抱き合い、涙を流した。

「戻ってきた……」

「声が……温もりが……」

 私は深く息を吐いた。

「これで……ようやく終わりなのね」

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