サウンド・ガーデン
目だけじゃなく、手も足も全部使える作られた世界の中、人々は一人で、または三々五々集まって、楽器を奏でる。中には歌を歌う人もいるが、あまり声が大きくないのは皆演奏に集中してるからだろう。
誰かは楽器を手にして演奏をし、誰かは音ゲーのUIを素手で叩く。あれもまた、演奏だ。
「楽器が出来ない人の為の配慮。」ここを作った人がそう言っていた。
直接演奏した方がアレンジも加えて面白いのになぁ。アルトはぼんやりと彼らを眺めながらそう思った。
顔を見ても、直接『奏でる』人はみんな笑顔なのに、『叩く』人は誰も集中してて近寄り難い。
アルトもまた叩く事をした事はあるけど、あれは確かに面白いものだった。が、演奏と言うより反射神経をテストされる感じがしてあまり好まない。あと好きなように弾けない。
やっぱり音楽は予測不可能なところがあってこそ面白いのだ。ライブが面白いのも、音源にはないミスとかアレンジが加わるからなのだ。
「お、アルトじゃん。今日も椅子とベッタリだねぇ」
「こんばんわー……あなた」
「もう名前を忘れたのか?」
「だって、あなたはつまらないもん…」
「ぐっ……そうか」
通りすがりの人に挨拶されて、腕だけ振って挨拶を返すアルトはどこか顔は眠たげに、声は沈んでいた。寝起きのようにも見える。
「……!」
そんなアルトの耳がぴょこぴょこと動き始める。気に入った演奏が流れ始めたからなのだろう。
彼女はのろのろと椅子から起き、乱れた服装を正してから、てくてくと。手足をぶらぶらと下げたまま音のする方へと歩き出す。
アルトは演奏が好きだ。それも、楽しくて楽しくて仕方がない演奏がとても好きなのだ。
大好きな音楽を奏でて、自分なりのアレンジを混ぜて、大好きなものを自分色に染め上げる。
人の色に染められる音楽が大好きなのだ。
「おぉ…」
彼女がたどり着いた先には、一人でバイオリンを弾く人がいた。灰色のセーターに黒いジーンズと言うシンプルな格好のその人は、眉間に皺を寄せて、でもどこか楽しそうに、全身を揺らしながらバイオリンの音を奏でていた。
一音一音を大事に、でも大雑把に。
投げつけるような音だった。
楽しそう。
わたしも、弾きたい。
そうやってアルトはなんの前触れもなく、バイオリンを持ち出して、繋ぎ始める。
突然の邪魔にビクッと驚いたように、音はがっくんっと揺れたものの、すぐさまアルトだと気づいたその人はついてこいと言わんばかりに音を強く謎り、走り出す。
「ふふふ」
生意気ねぇ。
そう思って、アルトは一気に走り出した。




