眠れぬ文系姫は、王子様と夢を見る
駄文、散文です。特に推敲してないので読みにくかったらすみません。
日間ランキング45位ありがとうございますm(*_ _)m
【プロローグ】
私は本が好きだった。
ヒロイン達が格好良いヒーロー達に救われていく。
そんな温かい物語が。
憧れた。
私も物語のヒロインみたいに、白馬の王子様に連れられ、何でも無い一人の為のお姫様として。
彼を幸せにして、私も幸せにしてもらいたい……と。
そんな運命の人のお姫様を、夢に見た。
私には幼馴染が居る。
名前は涼也。
とっても優しくて、明るくて、太陽みたいな人。
幼稚園の頃は泣き虫で頼りなかったけれど。
今では立派なイケメンで、誰からも好かれる人。
よく、泣いた彼の手を握ってあげたのを思い出す。
幸せだった。
物語のヒロインに憧れて。
優しくて頼りになる両親が居て。
一緒に歳を重ねてくれる幼馴染が居る。
これ以上ないくらい幸せだった。
けれどある日。
何の前触れも無く両親が死んだ。
お出かけからの帰り道。
ブレーキが効かなくなった車が衝突して来た。
そして、両親は私だけは守ろうと、庇って死んだ。
グシャりと軋む骨の音。飛び散る鮮血。叫ぶ声。
そのどれもがトラウマとなって、私の心を抉った。
それからというもの。
両親が病院で亡くなって、葬儀とか色々あった。
親戚の人達が両親の財産を求めてやってきたり。
それを是とせずみんなを追い払って、一人で両親の形見の一戸建ての家で、暮らすことにしたり。
そしてーー眠ることが怖くなったり。
私はあの日、両親を失った日から。
寝ることが出来なくなっていた。
◆◆◆
【①眠れぬ夜に】
夜は、やさしくない。
静かであればあるほど、思い出が喉の奥を刺してくる。
時計の針が、ひとつ進むたびに、胸の奥で何かが軋んだ。
部屋の隅では、古い枕が淡い月明かりに照らされている。
両親の形見。
小さなときから、私はこの枕に顔をうずめて眠ってきた。
――眠れない。
枕の中に、もうあの人たちの匂いは残っていないのに。
それでも、これを手放したら、自分がどこにいるのか分からなくなる。
寝返りを打つたびに、布の擦れる音が心臓を鳴らす。
目を閉じても、すぐに光の残像が浮かぶ。
あの夜の、ヘッドライトの光。
母の叫び。
父の腕の中で見た白い閃光。
――あれが、私の“夜”のはじまりだった。
だから私は、眠るのが怖い。
夢を見たくない。
眠りの向こうに、あの光がまた現れる気がして。
窓の外では、風が街路樹を揺らしている。
誰もいない夜。
私は膝を抱えて、ただ目を閉じた。
けれど、瞼の裏に浮かぶのは、もういない両親でも、古い家の灯でもなくて。
最近は、あの幼馴染の顔ばかりが浮かぶ。
「涼也……」
彼の名前を心の中で呼ぶと、ほんの少しだけ胸が落ち着いた。
どうしてだろう。
彼は昔から、いつも当たり前のように私の隣にいたのに、いまはその当たり前が、やけに恋しい。
眠れない夜。
両親の形見を抱きしめながら、私はただひとつの願いを繰り返していた。
――明日、彼に会えますように。
◆◆◆
【②手のぬくもり】
朝の光は、眠れなかった夜を容赦なく照らす。
薄いカーテンの向こうから射し込む光が、まるで私の怠け心を責めているみたいだった。
一晩中ほとんど眠れず、まぶたの裏が重い。
鏡を見ると、目の下の影が自分のものじゃないみたいで、少しだけ笑ってしまった。
制服の襟を直して外に出ると、空気が冷たい。
季節は春に向かっているのに、まだ風の端っこに冬が残っていた。
通学路の角を曲がると、いつもの場所に彼がいた。
「おはよう、綾」
涼也は、朝日を背に立っていた。
光の中にいる彼は、いつもより少し眩しく見えた。
髪の先が光を拾って、風が通るたびにきらきらと揺れる。
彼は片手にサッカーボールを持っていて、それが妙に似合っていた。
「今日はちゃんと眠れたか?」
その問いかけに、私は少しだけ俯いた。
嘘をつこうか迷ったけれど、首を横に振る。
「少しだけ……」
「そうか……」
彼は何も言わず、私の歩幅に合わせて歩き出した。
その無言の優しさが、少しだけ心を撫でていく。
道すがら、桜の蕾がほころびかけているのが見えた。
春って、誰かと並んで歩くときのためにある季節なんじゃないかと、ふと思った。
⸻
放課後の図書室は、夕方の光でオレンジ色に染まっていた。
ノートを開いたまま、私は文字が頭に入らずにページを見つめていた。
世界が少しだけぼやけて、文字が波のように揺れる。
気づけば、涼也の声が耳に届いていた。
「……綾、無理してるだろ」
視線を上げると、彼は私の机の隣に立っていた。
夕日の逆光で顔が見えづらかったけれど、その表情だけは柔らかかった。
「んーん、そんなことない……だい、じょーぶ……」
そう答えたけれど、声がかすれていた。
「大丈夫なやつは、そんな声出さねぇよ」
そう言って、彼はそっとノートを閉じた。
そして自分の上着を脱いで、私の肩に掛けた。
少し汗の匂いがして、心臓が不意に跳ねる。
けれど、不思議と嫌じゃなかった。
「なぁ綾。今日、送ってくよ。なんだか最近の綾、あのときと同じ顔してるんだ……俺、心配だよ……」
その言葉に、私はほんの少しだけためらった。
でも、うなずいた。
⸻
帰り道の夕暮れは、金色に溶けていた。
電柱の影が細く伸びて、風が髪を撫でる。
並んで歩くだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。
「綾はさ……眠れないとき、何してんの?」
「……私は本を読んでる、よ……? 眠れないときほど不安で苦しくて憂鬱で……読めなくなっちゃうけど……」
沈黙。
家の前に着いたとき、彼は立ち止まって俯いた。
けれどそれは一瞬のことで。
憂慮に染まったその瞳で、私の名前を読んだ。
「……綾。少しだけ、待ってて……」
◆◆◆
【③手を握る夜】
夜が深くなるほど、部屋の空気は静まっていく。
壁の時計が、秒針を刻むたびに心臓が同じ音を打つ。
今日こそは眠りたい。そう思うたび、目が冴える。
目を閉じても、あの日の光景がよみがえる。
ブレーキの音。金属の軋み。母の手。
思い出したくないのに、思い出してしまう。
だから私は、枕を抱きしめた。
でも――何も感じない。
涙が頬を伝う。
形見の枕が、まるでただの布の塊みたいだった。
そのとき。
スマホが小さく震えた。
画面には、涼也の名前。
「まだ眠れない?」
「……うん」
「家の前まで来た」
心臓が、跳ねた。
⸻
玄関を開けると、夜風と吹かれ彼の匂いがした。
涼也は手にバッグを持って、真剣な瞳で私を見る。
「俺……今日から綾の家に、泊まることにした……」
言葉が出なかった。
「入っていい?」
「……うん」
私はただ、小さく頷いた。
玄関の灯りが、二人の影を壁に並べる。
子どもの頃、夕暮れの帰り道で見た影のようだった。
⸻
部屋に入ると、彼は部屋の中を一周見渡した。
本棚に詰まった本。カーテンの隙間から漏れる月明かり。
そして、ベッドの上の枕を見つけて言った。
「これが綾の両親の形見の枕か……」
「うん……。でも、最近これでも眠れないの」
声が震えた。
涼也は少しだけ眉を下げ、ベッドの端に腰を下ろす。
「俺、隣にいてもいい?」
その問いに、私は何も言えず、ただ首を縦に振った。
ベッドが沈む。
彼の体温が、空気の中に混ざる。
静かな時間が流れて、私は小さく息を呑んだ。
「……綾」
「なに?」
「手、握ってもいい?」
その言葉は、どこまでも優しかった。
私はまた頷いた。
手を伸ばしてみたけれど、途中でためらってしまった。
しかし涼也はお構い無しで、私の手をそっと包み込む。
あたたかい。彼の手、少しだけ汗ばんでいる。
でもどうしてかな?不思議なくらい落ち着いた。
ドクドクと、早鐘を打つ鼓動が聞こえる。
自分のなのか彼のなのか、わからない。
世界が狭くなって、音が遠くなって。
代わりに、手のぬくもりだけが大きくなる。
「……大丈夫。俺がいる」
その声を聞いた瞬間、何かが解けた。
胸の奥に絡みついていた不安が、すうっと消えていく。
まぶたが重くなる。
「涼也……」
「ん?」
「ありがと」
言葉を最後まで言い終える前に。
私は静かに眠りの中へ沈んでいった。
──
ーーその後、涼也。
涼也は自分の肩に寄りかかって。
スヤスヤと寝息を立てている綾の手を握っていた。
「昔、俺が泣いてるとき。いつも手を握ってくれたっけ」
思い出す。あの頃のことを。
何のしがらみもなく、二人で笑っていた時のことを。
その度に胸が苦しくなって、この想いに蓋をした。
涼也は綾のことが好きである。
いつも傍に居て微笑んでくれた、優しい綾が……。
小さくて可愛くて、お姫様に憧れていた綾が……。
好きで好きでたまらなくて、だからこそ。
今こうして苦しんでいる綾の姿に、この膨れ上がった想いを伝えられないでいた。
ーーけれど、それは既に折り合いを付けている。故に。
どこか懐かし気にはにかむ涼也は、ゆっくりと綾の身体を抱いて、ベッドに寝かせつける。
「なぁ綾……大切なお前を護るには、一体俺はどうすればいい……?」
その手は、綾の頬を優しく撫でていた。
⸻
暗く深い夜。その明け方。
鳥の声が聞こえて、まぶたの隙間に光が差した。
目を開けると、涼也はまだ隣にいた。
手を握ったまま、浅い眠りの中にいた。
その寝顔を見つめて、私は気づいた。
――あの枕よりも、ずっとあたたかい。
◆◆◆
【④春の気配】
目を覚ましたとき、窓の外は淡い桜色に染まっていた。
カーテンの隙間から差し込む光が、ベッドの上にやさしく落ちている。
その光の中で、涼也が小さく息をしていた。
彼の手が、まだ私の手を握っている。
その事実に気づいた瞬間、胸の奥で何かが静かに跳ねた。
眠る前の不安や痛みは、もうどこにもなかった。
――このぬくもりが、私を眠らせてくれたんだ。
そう思ったら、涙が出そうになった。
けれどその涙は、昨夜のような悲しみではなくて、
もっとやさしい、あたたかい種類のものだった。
⸻
「……おはよう」
不意に、彼が目を開けた。
寝ぼけた声で私の名前を呼ぶ。
私はあわてて手を離そうとしたけれど、
涼也は少しだけ力を込めて、その手を離さなかった。
「もう少し、このままでいよう」
それは甘えるようでもあり、祈るようでもあった。
何も言えず、私はただ頷いた。
その静かな時間が、まるで世界のどこにも二人しかいないようで――私の胸の奥で、何かがそっと形を変えた。
⸻
朝食の時間。
涼也がキッチンに立って、卵を焼いていた。
ジャージ姿のまま、慣れない手つきでフライパンを揺らす彼の背中が、
どうしようもなく愛しく見えた。
「……涼也、料理するんだ」
「いや、ほとんど初めて。だから焦げても許せよ?」
笑いながら、彼は皿にスクランブルエッグを盛った。
見た目は少し失敗気味だったけれど、
一口食べた瞬間、なぜか涙が出そうになった。
「どうした?」
「ううん……ただ、なんか懐かしい味がしただけ」
たぶんそれは、家族と過ごした朝の記憶と、
“誰かと一緒に食べる”という当たり前の幸せが重なったからだ。
涼也は照れくさそうに笑った。
その笑顔を見て、私は心の中でそっと名前を呼んだ。
――涼也。
口には出さずに、心の中で何度も呼んだ。
⸻
学校へ行く道の途中、桜が咲き始めていた。
風が吹くたび、淡い花びらが二人の間を舞う。
「なぁ、昨日……ちゃんと眠れた?」
「う、うん……涼也が、いてくれたから……」
答えた瞬間、彼の足が少し止まった。
私も立ち止まって、顔を上げる。
目が合った。
その距離が、昨日より少し近い。
「……そっか。それならよかった」
彼はそれだけ言って、前を向いた。
でもその横顔は、少し赤かった。
胸が痛い。
でもその痛みは、どこか気持ちよかった。
春の光が眩しくて、思わず目を細める。
私にとっての、幼い頃から憧れた王子様。
それはーーずっと、すぐ近くに居た。だから。
私は彼を上目に捉え、頬を赤く、はにかんだ。
(ありがとう、涼也)
ーー大好きだよ。
◆◆◆
【⑤告白の夜】
放課後、空は泣いていた。
校舎の屋根を叩く雨の音が、まるで心の中をなぞるみたいだった。
窓の外を朧気に見つめながら、一人、思っていた。
――あの夜、涼也の手を握って眠れたとき。
私はたぶん、もう夢を見ていたんだ……。
それは“眠り”の夢じゃなくて、“これからの夢”。
机の上に落ちる雨粒の音が、少しずつ遠のいていく。
放課後の空が白く光った。
⸻
「行こっか」
いつものように、涼也が傘を差し出した。
二人で入る傘は少し小さくて、肩が触れた。
そのぬくもりが、雨の冷たさを忘れさせる。
「最近、クマも落ち着いてきたね……」
「……うん。涼也が居てくれるから……もう、枕が無くてもだいじょーぶ……寝られるよ」
その言葉を口にした瞬間、胸が震えた。
それは告白でもあり、さよならでもあった。
両親に、そして過去の自分に。
涼也は少し黙って、それから静かに笑った。
「そっか。それならよかった」
その声に、雨音が溶けていく気がした。
⸻
家に着くころには、雨は止んでいた。
傘を閉じると、街灯の光が濡れたアスファルトに反射している。
彼の横顔がその光に照らされて、まるで映画のワンシーンのようだ。
「涼也」
「ん?」
「……ありがとう。全部」
私の声は、風に溶けていくほど小さかった。
それでも彼は聞こえていたみたいで。
ただまっすぐに私を見詰めている。
その視線に射抜かれるようにして、心臓が跳ねた。
「もし俺が綾の役に立てるのなら。これからはずっと、俺が綾のそばにいる。絶対に寂しい思いはさせないから」
その言葉は、雨上がりの空のように真っ直ぐだった。
胸の奥で、何かがほどけた。
気づけば、私は一歩近づいていた。
そして彼に抱きついて――小さく、囁いた。
「ねぇ、涼也。私を貴方だけのお姫様にしてくれる?」
涼也は、少し驚いたように目を見開いた。
けれど次の瞬間、優しく笑って抱き返してくれた。
「綾は、昔から俺のお姫様だよ」
その言葉のあと、静かに顔が近づいた。
唇が触れるか触れないかの距離で、世界が止まった。
「……愛してる」
「私も……愛してる」
その言葉と同時に、唇が重なった。
雨上がりの風が、そっとカーテンを揺らした。
ーー夜はもう怖くない。
⸻
夜、ベッドに横たわりながら。
私はもう枕を抱かなくても眠れた。
隣には涼也が私を抱いて寝ている。
私はもうひとりじゃなかった。
そして思う――
眠ることは、きっと“生きること”と同じだ。
穏やかに、ゆっくりと、
彼の隣で、私は初めて本当の夢を見た。
ーー綾、おやすみなさい。
両親が微笑んでいるような気がした。
◆◆◆
眠れぬ夜は、もう来ない。
けれど、もし来たとしても――
その隣には、きっと彼がいる。
ブクマとかもろもろよろしくお願いします
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