◆第8話『追われる探偵と、裏切りの微笑み』
夜の王宮は、まるで“静かなる戦場”だった。
大理石の床に反射する月光。
音のない回廊。
そしてその中心に、セシリアはひとり、立っていた。
「……誰が仕掛けてきたのかしら。あからさまに早すぎる」
手紙を受け取ってわずか数時間。
すでに彼女の居場所は“何者か”に掴まれていた。
気配は、ある。
けれど姿は、ない。
魔術による隠蔽か、あるいは刺客のプロフェッショナルか。
だが、セシリアは動じなかった。
(今夜、私を消せば“真実”も闇に消える……そう思ってるのね)
けれどそれは甘い。
彼女の中には、すでに消せない“確信”があった。
•
回廊の影から、二人の黒衣の男が現れる。
「セシリア=フォン=リーヴェルト嬢。
王宮の許可なき区域への侵入、および禁書閲覧の咎により、拘束させていただく」
「……随分とご丁寧に。まさか証拠の一つもなく、私を捕らえに?」
「命令です。我々は、王太子直轄の近衛隊」
「その“王太子”とは、カイン殿下?」
「……質問には答えかねます」
その沈黙が、すべてを物語っていた。
セシリアはゆっくりとドレスの裾をたくし上げ、
そこから取り出したのは、薄型の“魔術式の記録装置”。
「じゃあこの“録音”を、枢密院と王家宛に同時送信しても問題ないわね?」
男たちの顔色が変わった。
「……それは、脅しか?」
「事実確認よ。私が殺されれば、王家の偽りとあなたたちの不正が白日の下に晒される。
それでも、捕らえる?」
刺客は迷った。
そしてその一瞬の隙に――
「……下がれ」
背後から響いた、低く冷たい声。
現れたのは、王太子・カイン=ヴァルグレア。
完璧に整えられた制服、表情の崩れぬ氷面。
その眼差しには、王位継承者としての確固たる“意志”が宿っていた。
「君のような存在は、この王宮には必要ない」
「どうして? 私はただ、“王家の真実”を知っただけ」
「だからだ」
カインは一歩、近づく。
「君は“余計な目”を持ちすぎている。
王族とは、民に夢を見せる存在。
だが君は、その夢を“論理”と“証拠”で叩き壊す。
それは、この国にとって毒だ」
「……夢のために、嘘をつき続けろと?」
「嘘ではない。“物語”だ」
セシリアは、わずかに口角を上げた。
「あなたたちが作った都合のいい物語に、私は生きたくないわ。
私は、真実の中でしか息ができない」
「ならば――消えてもらうしかないな」
カインが合図を送ったその時。
「待て」
響いた声は、王宮の正面から。
レオン=ヴァルグレア第三王子が、剣を抜いたまま姿を現す。
「兄上。彼女に手を出すなら、俺が黙っていない」
「レオン……貴様」
「君は“夢”を語り、俺は“現実”を信じる。
この国に必要なのは、綺麗な幻想じゃない。
真実の上に築かれた信頼だ」
「……愚かな」
レオンは、セシリアに手を伸ばす。
「君にはまだ、暴かなければならない“本当の敵”がいる」
「ええ、わかってる」
彼女の目は、王太子ではなく――
その背後に控える、枢密院筆頭“グレン侯爵”に向いていた。
(あなたね。全ての“記録”を改ざんした張本人)
セシリアはすでに、手記の一部を複写し、
“ある人物”に託していた。
もう、ひとりではない。
彼女は、真実を繋ぐ仲間を得たのだ。
•
夜が明けた。
王都に、ある“匿名の投書”がばら撒かれる。
そこには、王家の血筋にまつわる“失われた記録”と、
亡き侯爵夫人・カタリナの真実が記されていた。
街はざわめき、王宮はざわつく。
真実の重さが、ついに世界を動かし始めた。
•
その日の夜。
セシリアは王宮の塔にひとり立っていた。
そこにレオンが現れる。
「……君を守ると決めたのは、俺の勝手だ。
だが、これだけは言わせてくれ。
君の言葉で、俺は初めて“王であること”に意味を見出した」
セシリアは、レオンの顔を見て静かに言う。
「レオン。私を守るなら、覚悟して。
次は、“王冠”そのものを暴くから」
二人の視線が重なる。
偽りの王国に、ついに宣戦布告がなされた。
(つづく)
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