◆第6話『王家の密約と、告げられた“偽りの血”』
王都ヴェルセリク――王宮中央棟、禁書閲覧室。
そこは王家の直系しか立ち入ることを許されない、いわば“秘密の書庫”だった。
厳重な魔法障壁に護られたその場所へ、異例の入室が許された者がいた。
「……君をここへ通したと知れたら、兄たちには怒鳴られるだろうな」
レオン=ヴァルグレア第三王子が、薄暗いランプの明かりの下、無造作に言う。
その隣に立つのは、貴族令嬢でありながら“探偵”という異端の目を持つ女、セシリア=フォン=リーヴェルト。
「でも、止めなかった。それだけで十分よ」
「危険を承知でここまで来る女は、君くらいだ」
「……ありがたく、褒め言葉として受け取っておくわ」
ふたりの視線の先。
魔封じの鎖に護られた分厚い一冊の書。
それが王家に伝わる“歴代継承の記録”、通称《王紋継記》である。
レオンは静かに、その封印を解いた。
•
王紋継記――
そこには、歴代の王がいかにして選ばれ、王冠を継いできたかが克明に記されていた。
だが。
「……おかしいわね」
セシリアは眉をひそめた。
「この一章、まるごと“削られてる”。
三代目王の直系が、どうやって断絶したのか。その過程が抜けてる」
「その章を誰が消した?」
「“公式には”記録されていない。……でも、インクの痕跡、綴じ具の緩み、ページの欠損……物理的証拠は正直ね。これは“誰かが意図的に隠した記録”よ」
レオンは、息を吐いた。
「やはり、君の目は恐ろしい。……俺たち王族でさえ、ここまでは見抜けない」
「見抜けるわよ。ただ、“見ようとしてない”だけ」
この王国には、絶対不可侵の歴史がある。
だがセシリアは、あっさりとそれを暴こうとしていた。
そして、次の瞬間。
彼女の手が止まる。
「……あった」
ページの裏側、封じられた隠しインクの文字。
セシリアは香炉の煙をあて、それを浮かび上がらせた。
『王家の血は、ひとたび途絶えた。
だが、臣下の娘を王妃とし、その子を“正統”とした』
『真実を知る者には、口封じの処分を。
この継承は“偽り”であると、絶対に知られてはならぬ』
「……これは」
「そう。“建国の血”とされてきた我らヴァルグレア家は、実は“他家の血”だ」
レオンは目を伏せた。
そして、まるで“背負うもの”を語るように、静かに続ける。
「俺が王家に冷たくされてきた理由も、これだ。……俺の母は、その“臣下の娘”の血を引く、さらに庶流の者。
父王に正妃ではなく、愛妾として迎えられた存在だった」
「つまりあなたは、“二重に偽りの血”なのね。
最初の建国の偽りと、あなた自身の出生の“軽さ”……」
「軽さ、か。だが俺はそれでも、戦場で王家の名を背負ってきた。
矛盾と嘘の上に築かれた玉座など、最初から欲しくもない。
だが、真実だけは……見届けたいと、そう思った」
その言葉は、どこかセシリアの心を打った。
彼女自身、“真実を見抜く力”を信じながら、
“愛”や“血”といった不確かなものを信じきれずにいた。
「……なぜ私に、これを見せたの?」
「君なら、利用すると思ったからだ。
俺という“不完全な王族”を、事件の鍵に使うだろうと」
「……そんなつもり、ないわよ」
「本当に?」
「──ええ。“今のところ”は」
•
その夜、セシリアはひとり王宮の書庫をあとにし、馬車へ乗り込んだ。
だが、馬車の座席に腰を落とす前に、ひとりの影が声をかけた。
「セシリア=フォン=リーヴェルト嬢。失礼、少しばかり時間をいただきたい」
その男は、王宮文官長付きの侍従官だった。
彼の持つ手紙には、こう記されていた。
『密かにお会いしたい。
“あなたの亡き母”について、知っていることがある。
地下図書館にて、明晩、待つ』
――亡き母。
その言葉に、セシリアの瞳が静かに揺れた。
彼女がこの世界に転生してから、ただ一度も“触れようとしなかった過去”。
侯爵令嬢としての母の死──それが、王家とどこかで“繋がっている”のだとしたら。
「……面白くなってきたじゃない」
彼女の手が、書簡をそっと握りしめる。
偽りの継承。
歪んだ王位。
そして、母の死。
謎は絡まり、真実は深まる。
それでも彼女は進む。
――すべての嘘を暴くために。
(つづく)
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