◆第45話『嘘のない夜に、彼と共に』
夜の王宮は、昼間の喧騒とは別の顔を見せる。
蝋燭の炎が静かに揺れ、光と影が回廊に舞う――
まるで、真実と虚構の境界をなぞるように。
セシリアの部屋。
扉を閉めたその先は、ただの“王妃の私室”ではなかった。
誰にも邪魔されない、ただ“彼と彼女”だけの小さな空間。
彼女は、金の髪をほどいていた。
肩にかかるその柔らかさを、誰よりも知っている男が、背後からそっと手を伸ばす。
「……帰ってきたんだね」
「ええ。今夜だけは、ね」
彼女の返事は短く、けれどその声には、どこか救われる響きがあった。
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レオン=グランディール=ヴェルセリク。
かつて、王太子ではなかった“第二王子”。
政争を望まず、力を求めず、ただ“人の正義”を見つめてきた男。
そして今――王国の頂点に立ち、セシリアの夫であることを、誇りにしている男。
彼は、セシリアの肩にそっと手を置いた。
「君は、もう……十分に戦ってきた。
今夜くらい、ただ“休んで”もいい」
「……だめよ。まだ、全然終わってないの」
そう言いながらも、彼女はその手を握り返していた。
「世界法廷に出廷するわ。私の“正統性”を、記録で証明しなきゃいけない」
「記録じゃなくても、僕は知ってる。
君はセシリアだ。誰が何と言おうと、“僕の王妃”だよ」
その言葉は、セシリアにとって世界中のどんな証明書よりも重かった。
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「ねぇ、レオン」
「ん?」
「キスして。……ただの女として、あなたに、今夜だけは」
言葉より早く、唇が重なった。
セシリアが“記録”ではなく、“感情”に身を任せる数少ない瞬間。
王妃ではなく、探偵でもなく、伊月真白でもなく――ただ、一人の“女”として。
彼は優しく、しかし確かに彼女を抱きしめた。
王宮の外では、戦の火種がくすぶり、
法廷からは召喚状が届いているというのに――
この夜だけは、ふたりのものだった。
**
「……お願い、離さないで」
「絶対に、離さない。君が誰であろうと、僕は君を守る」
その誓いは、甘いものではなく、
過去と未来、政と戦火、すべてを抱えた“本物の覚悟”だった。
**
そして夜が明ける。
セシリアは再び“王妃探偵”としての顔を取り戻す。
だが、その胸の奥には、昨夜交わした“愛という真実”が、確かに息づいていた。
それは、どんな毒にも負けない、彼女だけの盾であり、剣でもあった。
(つづく)
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