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◆第44話『記録の空白と、王妃の懐疑』




《王城地下・記録庫》。

かつて封印されたこの部屋は、王国創建以来のすべての“国家の真実”を記録した場所。

そして同時に、“意図的に”誰かの命令で《抹消された記録》が集積された禁域だった。


その重い鉄扉の前で、セシリアは深く息を吸い、手袋を外す。


「王妃記録官・セシリア=フォン=リーヴェルト。

王家特権第七項に基づき、“記録開封”をここに申請します」


ガチャリ、と音を立てて封印が解かれた。

開かれた扉の奥には、古ぼけた棚にびっしりと並ぶ記録巻物と書簡の山。


そしてその中に――彼女は見た。


**


「……これは、私自身の……?」


目の前にあったのは、一冊の薄い黒革の記録簿。

その背表紙には、王宮職員の登録番号、そして


《No.0773/セシリア・フォン・リーヴェルト(記録抹消処理中)》


という打刻。


「私の……記録が、抹消されていた?」


しかも記録の日付を見ると、婚約破棄の当日から数えて“3日間”の情報がごっそりと消えている。


「……この3日間。私は、どこにいた?」


記録上、彼女は存在していなかった。

誰も、彼女の行動を証明できる者はいない。

だが、セシリアの記憶の中には確かに“その時間”があった。


炎。

誰かの叫び。

白い指が、彼女の喉を掴んでいた――


それは、記憶の奥底に封じ込められていた“もう一人の自分”が持つ、封印の一片。


**


「この記録……誰が、消したの?」


セシリアは慌てず、記録の末尾に押された印章を確認する。


《記録削除承認印:レオナ・エル=ヴェルセリク》


「……レオナ?」


思わず息を呑む。

それは、かつて王統統合計画の実務を担った“裏の王統記録官”の名。

そして、レオンの祖母であり、セシリアがまだ王宮に来る前に死亡したはずの人物だった。


「死者が、記録を消す?……それとも、生きている?」


**


セシリアの脳裏に閃いた可能性はひとつ。

王妃制度の根幹を揺るがす秘密――《王妃とは、本当に誰か》。


彼女自身の存在が、もしかすると“誰かの記録によって作られた”ものだったとしたら?


そこへ、ミリアムが駆け込んできた。


「王妃殿下、至急です!

《世界法廷》の先遣団が、今朝の王政評議会に《通告状》を持って現れました!」


「……来たのね」


「文書の内容は、“王妃セシリア殿下を証人として出廷させよ”。

さらに、“あなたの出自と王統の正統性”に関して質問が――」


**


世界が彼女を“問いただしに来た”。


それは、自国に向けられたものではない。

探偵として、王妃として、記録を裁いてきた女に対する、

世界の“記録をめぐる正義”からの召喚。


「望むところよ。……ただし、私が語るのは真実だけ」


セシリアは黒革の記録帳を懐にしまい、静かに微笑む。


「私の“記録された真実”で、世界すら問いただしてみせる」


(つづく)



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