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◆第41話『探偵王妃、ふたたび仮面をつける――王国の毒と、世界法廷の影』




あの日、王国はひとつの“嘘”を葬った。

そしていま、真実を記録する国として新たに歩み始めた――はずだった。


だが、歴史の裏に潜んでいた者たちは、そう簡単に消えてなどいない。

むしろ“正しさ”の旗が立てられたことで、

それを“脅威”と見なす勢力は、ますます静かに、しかし確かに蠢き出していた。


**


セシリアはその日、久々に探偵装束を纏っていた。


といっても、それは王宮内の誰にも気づかれないように仕立てた黒地の乗馬服。

外套には、探偵の象徴である金糸の羽ペンも、今は刻まれていない。


それでも、足取り、目線、そして胸の奥に灯る熱だけが、かつての“伊月真白”の頃と同じだった。


――探偵は、常に仮面を使い分けるもの。


**


「……また出かけるの?」


背後からかけられた声に、セシリアは少しだけ振り返った。


そこにいたのは、彼女の夫。

――レオン=グランディール=ヴェルセリク。

かつて王家の第二王子だった男。

そしていま、この王国の“最も民を思う王”であり、彼女の最愛の人。


レオンは、すでに何も聞かない。

ただ、彼女が“必要な時に”行動することを知っているからだ。


「事件、でしょう?」


「……ええ。城内で、二件」


彼女は短く答える。

今朝、王城厨房で使われた調味料から《微量のヒソ》が検出された。

さらに、午前の王政評議会に出席予定だった老公爵が“倒れた”。


幸い命に別状はなかったが、心臓への刺激系毒の症状だったことは間違いない。


「表に出せば、政敵の犯行と騒がれる。

けれど、犯人の“手口”が気になるのよ……あまりに綺麗すぎる」


**


「行ってきて。君の勘は、王国のどんな法よりも信頼できる」


レオンの言葉に、セシリアは小さく笑った。


「ありがとう。

でも帰ってきたら、あなたの方もちゃんと“ご褒美”をお願いね?」


「当然。今夜は二人きりの晩餐にしよう」


「……なら、ちゃんと生きて帰ってこないとね」


互いの手を、そっと重ねる。

それは戦地に赴く兵士と、待つ者の祈りのような約束だった。


**


セシリアは静かに王城を出た。


彼女の背には《王妃探偵》という肩書きも、

《伊月真白》という過去も、そして《レオンの妻》という私的な幸福もすべてある。


だが今はただ、一人の“調査官”として。


王国に迫る陰謀の爪痕を、

誰よりも早く嗅ぎ分け、暴き、断つために。


**


……そして同じ頃。

北方国境では、異民族同盟軍の旗が掲げられていた。

ヴェルセリク王国の“中立宣言”を快く思わない諸国の一部が、

ついに武力による“再交渉”に踏み切ろうとしていたのだ。


また――


南の世界評議会では、《世界法廷》設立に向けた議論が進んでいた。


その中で――


「今回の“真実を記録する王妃”……彼女を“証人”として召喚すべきだ」


そう告げる声があった。

“異世界の王妃”が、“世界の証言台”に立つ――


それは誰にとっても前代未聞の事態。

だが、王妃セシリアはまだそれを知らない。


まずは、自国に迫る毒の気配。

真実を歪め、王国を壊す者たちの“手”を見抜かなければならない。


(つづく)



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