◆第40話『すべてを記録する者、すべてを裁く者――王妃探偵、最後の証言』
その夜、王都ルミナリアの空には、
雲一つない満天の星が広がっていた。
けれどセシリアは、
それを“美しい”とは思えなかった。
なぜならその星の下、
最後の“記録の敵”が動いていたからだ。
《七曜盟》。
その核にして、真の首領。
ヴァルド=レクス=セリクシア
かつて王国の建国に関わったとされる“記録官”の一人。
だがその存在は、すべての歴史から消されていた。
なぜなら彼は、
“記録の改変者”だったから。
正史と偽史を継ぎ接ぎし、
支配に都合のよい真実だけを残す。
記録者でありながら、
“歴史そのものを捏造する権限”を持っていた異端の者。
**
「おまえは、記録に忠実すぎた。
だから、いずれ破滅するとわかっていた」
玉座の後宮。
王家さえも知らぬ地下書庫――
《最終記録区画》にて、
ヴァルドはセシリアの前に立っていた。
**
「私は、破滅しに来たわけじゃない」
セシリアは静かに、黒曜の指輪を外す。
「私は、未来を“記録”しに来たのよ」
「その未来に、貴方の居場所はない」
**
ヴァルドが笑う。
「ならば見せてみろ。
お前の“記す力”が、
この世界そのものを書き換える私に届くかどうか」
刹那、術式が解放された。
《七曜改変術式・最上位層》。
それは“空間そのものを記録改変する”術――
たとえ真実であろうと、書き換えられた記録は“嘘として世界に刻まれる”。
セシリアの足元が崩れ、彼女の存在すら“虚偽の人物”へと改竄されようとする。
**
だが――
「記録の根拠は、空間じゃない」
セシリアの声が響いた。
「証言と、証拠。
そして――“私自身が見てきたもの”」
彼女の後ろに浮かぶ、
無数の映像記録と文書ファイル。
それはこれまでに暴いてきた事件、真実、
そして“王妃探偵”として記してきたすべての裁きの記録。
「私はこの国の“真実の履歴”そのもの」
「記録を捏造する貴方が、
証拠と記憶を重ねた“本当の歴史”に勝てるはずがない!」
**
ヴァルドが咆哮する。
「貴様ごとき女に、私の記録が覆せるかァァ!」
「できるわ」
「なぜなら、私は――“記録されるための器”じゃない」
「“記録そのもの”として、生きてきたからよ!!」
**
黒曜の指輪が再起動。
七曜術式を逆回転し、“改変された記録”を再補正する。
全ての嘘が剥がれ、
真実の記憶が空間に満ちる。
そして――
セシリアの言葉が、最後の記録となる。
「王妃探偵、セシリア=フォン=リーヴェルト。
記録官・ヴァルド=レクス=セリクシアを《記録歪曲罪》により告発。
全記録を提出し、裁定を王政に委ねる」
ヴァルドは膝をつき、
その身を“虚構”から“真実”へと引き戻された。
**
夜が明ける。
王都に静かに布告が下された。
「記録の再定義が完了した」
「王国は、これより《真実の記録》に基づいて統治される」
その文書の末尾には、こう記されていた。
――筆記・王妃探偵 セシリア=フォン=リーヴェルト
•
玉座の傍ら、彼女は立ち続けていた。
誰のためでもない、記録のために。
王妃でありながら、
記録者でありながら、
探偵でありながら――
**
この国の真実を、
すべて裁き、すべて記し続けた《王妃探偵》。
彼女こそが、
“歴史を記す王妃”となった。
(第三部・完)
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。