◆第38話『王妃勅命審問会――玉座を問う裁きの書』
王都ルミナリア、王宮正殿。
かつて数々の条約が調印され、
祝福と剣が交差してきたその場所に、
今――かつてない沈黙と緊張が満ちていた。
天蓋付きの玉座。
その上には、現国王・カリス=ヴァン=ルミナリア。
そしてその右隣には、王妃であるセシリア=フォン=リーヴェルト。
けれど今日、その“立場”は逆転する。
今日ここに招集されたのは、
王政を構成する貴族代表七名、王国高位法務官三名、
そして、裏王統の正嫡カイゼル=ダレイオス。
**
「本日開催されるは、《王妃勅命審問会》。
被審問者は、王国統治の正統性、王統の血統記録の整合性、
及び、過去三百年の建国史の検証対象における、
王家主導の隠蔽及び虚偽記録の可能性――」
重厚な声で読み上げるのは、王宮高位法務官の一人。
「よって、当審問会の主導は、王妃殿下セシリア・リーヴェルトに委任される」
その瞬間、空気が変わる。
王妃が、王を問いただす――
それは、王政の制度上で最も稀で、
最も“制度の本質”を問う裁定の刻。
**
セシリアが一歩、前に出る。
彼女の手には、黒曜の指輪、そして《原典書》が抱えられていた。
「まず、前置きとして申し上げます。
これは、私怨でも、政争でもありません」
「私は、ただ“記録者”としてここに立ちます」
「そして、本日問うのは――」
「この王国は、果たして“真の正統”であったのか?」
王座のカリスが、初めて表情を動かす。
だが、それは怒りでも拒絶でもない。
――覚悟の目だった。
**
セシリアは、黒曜の指輪を差し出す。
「この指輪は、王政創始以前より伝わる記録継承装置。
その機能、記録保管の魔導式、およびそれに連動した“第零章”は、
既に法務局の魔術監査により検証済みです」
「ここには、王統の“始まり”が記されている。
それも、表向きの建国伝承とは異なる形で」
**
そして彼女は、
原典書を静かに開き、読み上げる。
「第一代王ルークスには、双子の弟が存在した。
王権の魔力検査において、弟がより高い資質を有していたが、
王座を巡る選定儀式にて、兄が政的勝利を得た。
それを“正統”とするため、弟系統の記録はすべて抹消された」
「この弟の系譜こそが、“裏王統”と呼ばれる血筋の起源です」
そしてセシリアは、視線を王座の右手へ向ける。
カイゼルが、静かに立ち上がる。
**
「我らの血は、捨てられた記憶の上に立つ。
だが今日、ようやくそれを“王妃”の口から語ってもらえた」
「我々は求める――
王国が我らを“歴史の罪”とした、その認識の是正を」
**
廷臣たちの間にざわめきが走る。
貴族の中には立ち上がる者もいた。
「王位の簒奪だ」と叫ぶ声、「王妃の反逆ではないか」と囁く声。
だがその中で、静かに、王・カリスが口を開いた。
「……すべて、事実か?」
セシリアは、まっすぐに彼を見つめる。
「記録と証言、そして血統記録術式においても矛盾はありません。
王よ――あなた自身も、真実を受け入れる覚悟がありますか?」
一瞬の沈黙。
そして、王は頷いた。
「ならば我は、王としてではなく、“人として”この事実を受け止めよう」
「それが、この王国の未来のためになるのなら」
**
静寂が落ちた。
まるで、大地そのものが、
長き眠りから覚めるように――
「これより、我が王妃の勅命により、王政の構造そのものを“再審”する」
「すべての系譜を記録として洗い直し、
王妃記録庁を主導機関として、
“真の正統性”を明らかにするまで、
いかなる血統も“絶対”とは認めない」
それは、まさに革命だった。
剣によらぬ、記録による革命。
だがそれこそが、
王妃セシリアが《王家の器》として選ばれた理由。
**
そしてその夜。
カイゼルは玉座の間を去る前、静かにセシリアに問うた。
「これで、君は満足か?」
「いいえ。
私はまだ“すべて”を記録しきっていない。
そして……王国には、もう一つの影が潜んでいる」
「“七曜盟”の動きは、まだ止まっていない」
(つづく)
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