◆第4話『王太子暗殺未遂と、ふたりの再会』
王都ヴェルセリク、王宮第七会議室。
金細工が施された椅子が規則正しく並び、
壁には歴代の王族たちの肖像画が重々しく睨みを利かせていた。
その空間の中央に、冷たい沈黙が満ちている。
「──つまり、これは“内部の犯行”だと?」
重々しく発せられた声の主は、第一王太子・カイン=ヴァルグレア。
王族の中でも最も保守的な気質を持ち、
厳格な性格と冷徹な判断力で知られる男だ。
「はい。毒が盛られたのは、昨夜の晩餐です。王太子殿下のお皿にだけ、わずかに“魔力性毒素”が混入されておりました」
報告したのは、王宮直属の警備副長。
魔法の感知痕から逆算して、毒が“殿下の席にだけ”集中していた事実が明らかになったという。
「……未遂に終わった理由は?」
「殿下がその料理に手をつけなかったことが、唯一の幸運でした。ですが、厨房に不審者の出入りはなく、使用人たちも異常を報告しておりません」
王宮内での犯行。
だが外部の侵入はなし。つまり、“内部”でありながら、“姿なき犯人”。
この王宮は、もはや“絶対に安全”な場所ではなかった。
•
同刻、セシリア=フォン=リーヴェルトは王宮の正門をくぐっていた。
「……まさか、王太子殿下から直々の召喚とはね」
手元の文書には、紋章付きの正式な招待状が添えられていた。
――“令嬢セシリアに、謁見を賜りたし”と。
(やっぱり、あの失踪事件の件が響いたのね)
“王子の婚約者候補”が自ら姿を消した。
それは、王家にとって面子を潰されたに等しい。
だが、彼女にとってはむしろ好都合だった。
王家の懐に入るチャンスであり、
さらなる“情報の中枢”に近づける、絶好の舞台だ。
──そして、邂逅は不意に訪れた。
「あの……」
通された応接室で、彼女の前に現れた男。
整った金髪、深い蒼の瞳、黒を基調とした軍服に、端正な顔立ち。
だが何より、その眼差しには、底知れぬ知性と哀しみが同居していた。
「……レオン=ヴァルグレア殿下、ですね?」
セシリアはすぐに気づいた。
この男こそ、“失踪した令嬢の元婚約者”であり、
かつて婚約破棄を告げた“あの王子”。
「……やはり。君が“名探偵令嬢”か」
レオンは、軽く片眉を上げて笑った。
「第一王太子から呼ばれたはずなのに、なぜ第三王子のあなたが?」
「兄上は忙しい。私は暇だ。……それに、君と話がしたかった」
初対面にしては、あまりに直球な物言いだった。
だがセシリアは揺れなかった。
前世の職業柄、“権力を持った男の言葉”には慣れていたし、
その奥にある“探る視線”にも、冷静に対応できる自信があった。
「お望みなら、どうぞ。私に話を聞く理由を、論理的に並べてみてください」
「ふむ。ではこうしよう。──王太子が暗殺されかけた」
「……!」
レオンの言葉に、セシリアの目が鋭くなる。
「昨夜の晩餐。兄上の料理に“魔力性毒素”が盛られていた。未遂で終わったが、これは確実に“犯意ある者の手”によるものだ」
「それを、私に調べろと?」
「君の手腕は知っている。侯爵家の紅茶事件。ラズワルド家の逃亡劇。
君の推理と行動力は、貴族社会の常識を超えていた」
セシリアは少しだけ驚いた顔をした。
情報の流れが早すぎる。
だが、それだけ王家の“監視網”は隅々まで行き届いているということだ。
「つまり私は、あなたにとって“使える道具”?」
「……それは違う」
レオンは、真っ直ぐに彼女を見つめた。
「君は、自分の過去を語らない。
だがその目は、誰よりも人の痛みに敏い。
だからこそ、信じてみたいと思った。……王家の未来を、君の推理に託したいと」
彼の言葉は、嘘ではなかった。
だが、それはあまりに危うい。
セシリアは警戒の色を隠さなかった。
「信用は、行動で得るものよ。言葉じゃない」
「ならば、今夜。王宮に残ってくれ。
君の目で、この“宮廷の矛盾”をすべて見抜いてほしい」
•
夜の王宮。
セシリアは、薄明かりの灯る厨房をひとり歩いていた。
魔法の痕跡。毒の残留反応。調理の順序。食器の配置。下働きの証言。
一つ一つが、彼女の脳内で繋がっていく。
そして、彼女は確信する。
「……この毒、“カイン王太子”の皿に盛られたものじゃない」
「……え?」
背後からついてきたレオンが問い返す。
セシリアは、冷たく告げた。
「最初から“王太子の命”なんて狙われてなかった。
狙われたのは、もっと“別の人物”。
毒は、意図的に“すり替えられていた”のよ」
それが意味するものは、すなわち──
「この事件の本質は、“すり替えられた王位継承”と、“偽装された暗殺”」
その言葉に、レオンの顔がわずかに曇る。
「……なるほど。君が“恐ろしい”と言われる理由がわかったよ」
セシリアの眼は、すでに次の嘘を見抜いていた。
これは、ただの暗殺未遂ではない。
王家の中で、誰かが“王位そのもの”を揺るがす一手を打とうとしている。
そして彼女の推理が、それを暴く。
すべての真実を、白日の下に引きずり出すのだ。
──たとえ、その相手が“王”であっても。
(つづく)
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