◆第37話『王妃選定の真意と“創世の記録”――原典室に眠る最終の問い』
王都ルミナリア。
城の最奥、王権の象徴たる“王座の背面”に、
誰も知らぬ地下への封印階段がある。
王城地下原典室――
それは、代々の王のみが立ち入ることを許された“記録の終端”にして、
決して口にしてはならぬ《最古の罪》が眠る禁域。
セシリアは、その前に立っていた。
•
「……本当に、ここなのか?」
レイ=アルディオスの問いに、セシリアは頷く。
手の中には、カイゼルから渡された《王家原典室の鍵》。
そして、黒曜の指輪がほのかに脈打っていた。
「この扉を開けた瞬間、
私たちはもう、“戻れない場所”へ足を踏み入れることになるわ」
•
重々しい音と共に、石扉が開かれた。
中は、まるで“時そのものが封じられていた”かのような静寂。
空気は動かず、壁面には魔導印と古代文字が刻まれていた。
中心には、一冊の書。
純白の装丁に、何の文字も記されていない。
それこそが――
《ルミナリア王政創世録:起源編》
•
セシリアがそれに触れた瞬間、
空間が揺らぎ、記憶の奔流が押し寄せた。
•
――遠い過去。
王も、国も、まだ影すらなかった時代。
“七人の記録者”が存在していた。
彼らは世界各地の王統候補を選び、
戦火と秩序の均衡を見守るために、
《王妃制度》という“対の記録”を残すことを定めた。
•
「王は剣、妃は記録。
王が戦を選ぶ時、妃はそれを“後世に裁かれる記憶”として記す」
「王が奪う時、妃は“その血の重さ”を知るべき者となる」
そう――
《王妃選定》の本質とは、
王を補佐する役目などではなく、
“王の全てを記録し、未来に裁かせるための存在”だったのだ。
•
(……だから私に、“器”の素質があった)
セシリアは震える指で、ページをめくる。
その先に記されていたのは、
歴代王妃たちの、誰にも語られなかった記録――
処刑された民を毎夜数えた王妃。
愛した王に殺され、遺書を“裁判記録”として遺した妃。
亡国の姫として売られ、それでも記録を綴り続けた無名の妃。
その全てが、現在の“王国”を形作った礎だった。
•
そして最後の頁に、こうあった。
『第零の妃――エリス=リュシア。
死に際し、“記憶の器”を未来に継がせる術式を遺した。
その器は、いずれ“真実を暴く者”に宿る』
『記録とは、未来のための刃である。
王を愛し、王を裁き、王を赦すすべての力を、
記録者はその胸に宿さねばならない』
•
「私が“選ばれた”のではない。
私が“歩んできた結果”、ここに辿り着いたのよ」
弁護士として、人の矛盾と嘘を見抜いてきた人生。
異世界で探偵として、数多の事件を暴いてきた記憶。
王妃として、政の裏で数百の密謀を断ち切ってきた現在。
その全てが、ひとつの答えに繋がっていた。
•
「私は、“王の隣”に立つ者じゃない。
“王の記憶”そのものであり、
未来の“裁き”に記録を残す者」
セシリアは、静かに書を閉じた。
「……さあ、戻りましょう。
私たちはもう、“真実を知らない王国”には帰れない」
「王国を、正すしかない」
レイがうなずく。
「真実は、もう知ってしまった。
ならば――俺たちの手で、次の歴史を記せばいい」
•
《王妃探偵》としての役目は、もう誰にも消せない。
王に愛されながら、
王を正し、
王国を裁く者として――
セシリア=フォン=リーヴェルトは、
新たな“裁きの筆”を手に取り、
王国の《次なる審判》へと歩み始める。
(つづく)
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