◆第36話『建国の偽史、裏王統の記憶――探偵王妃が下す裁き』
戦いの嵐が去った《第四の継承地》。
そこに残ったのは、
崩れかけた石柱と、血の匂い、
そして、記録を守り抜いたひとつの影。
セシリアは、黒曜の書を胸に抱え、
なおも立ち続けていた。
その前に、剣を落とし、膝をついた男――
カイゼル=ダレイオスがいた。
•
「殺せ……そうすれば、お前の“正義”は満たされるだろう」
「私は……正義を名乗るつもりはないわ」
セシリアの声は、静かだった。
「私は“探偵”よ。
ただ事実を見て、矛盾を暴いて、裁く者」
•
カイゼルが苦笑する。
「ならば見ろ。
この記録を、建国の“裏史”を」
彼が差し出したのは、
赤い封印で綴られた古文書――
『ルークス王朝非公式記録:裏年譜』
そこには、かつて封じられた王の名が綴られていた。
「第一代王ルークスには、“双子の弟”がいた。
だがその弟は、記憶と魔力において上回っていたがゆえに、
謀略によりその名を奪われた。
そして弟の血統こそが、我ら“第八王家”の始祖である」
•
「……つまりあなたたちは、
“正統”の座を、本来は奪われた側だったと?」
「そうだ。
我らは奪われた。
歴史の表に出ることも、記録に残ることすら許されず――
ただ、封印され、監視され、滅びを待つ存在として生きてきた」
カイゼルの目は、怨嗟ではなく、静かな“真理”の光を宿していた。
「だがな、セシリア。
それでもなお、“正義”とは、力の上にしか存在できないのだ」
•
セシリアは沈黙する。
彼の語ったことが、すべて“真実”である確証はない。
だが――
「裏史は、確かに存在していた。
そしてあなたたちは、その血を引いていた」
「それだけでは、国家を揺るがす理由にはならない。
けれど……」
セシリアは、ゆっくりと腰を下ろし、
ひとつの“聴取記録”のように、記録帳を開く。
「私は、すべてを照合する。
あなたたちの裏史と、王国の正史。
そして“今なお生きる人々”の記憶と、未来に起きるかもしれない戦火」
「そのうえで、あなたを裁く。
私の“証拠主義”に基づいて」
•
その言葉に、カイゼルは初めて目を伏せた。
「証拠……か。
ならば、まだ残っている場所がある」
彼は、懐から小さな鍵を差し出す。
「これは、“王家原典室”の鍵。
ルミナリアの王城地下にある、
誰も入れぬ“記録の間”の扉を開ける鍵だ」
「あなたはなぜ、そんなものを?」
「我ら第八王家は、封じられる前、
“全記録を沈めよ”という王の命令に従い、
真実の一部を“鍵”に封じた」
「皮肉だな。
正史を歪めた王の命令に、最後まで忠実だったのだから」
•
セシリアはその鍵を受け取る。
「ならば行くわ。王城地下、原典室へ。
真実の最奥へ――この手で、すべて暴くために」
•
王統の闇は、なおも深く、
真実と偽りの境界線は、にじんでいる。
だが、たとえそれが“正統王統”の罪であっても――
王妃探偵セシリアは、決して目を逸らさない。
すべてを、暴く。
すべてを、記す。
その先に、誰が玉座に立とうとも――
正しい“記憶の継承”がなされるまで。
(つづく)
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