◆第33話『七曜の祭壇、目覚めの声――偽王ラシュファーンと記憶の継承者』
帝都を離れて東へ三日。
古の森を抜け、渓谷を越え、霧深き谷にその場所は存在していた。
《七曜の祭壇》――
それは、地図に記されぬ遺跡。
王国創世の“最初の七日間”に建立されたと伝わる、
七つの星座を模した環状の神殿であり、
かつて“王の記憶”を継ぐ者が、その身を捧げる儀式の地だった。
•
「ここが……」
セシリアの瞳が、崩れかけた祭壇の構造を映す。
風のように優しく、だがその眼差しは鋭く、冷たい。
「……この場所には、“記憶”が染みついている。
悲しみ、怒り、赦し……そして、死」
レイが隣で剣を構えながら答える。
「ここにいるな、あいつら」
「ええ。間違いないわ。
“ラシュファーン”……この中にいる」
•
神殿の奥。
七芒星の中央に位置する円環の祭壇に、ひとりの男が立っていた。
仮面。
黒衣。
手には、銀の杖。
その名は――ラシュファーン。
「よくぞ来た、“器”よ。
王統の記録者、最終の継承者。
貴様を迎えるために、我らはここを整えておいた」
その声音は低く、響き渡る。
だがセシリアは一歩も退かず、正面から言葉を返した。
「あなたは“七曜盟”ではない。
ただその名を騙り、歴史を改竄し、
人々の記憶を刈り取ってきた“偽王”よ」
•
ラシュファーンは、ふっと笑う。
「偽り……?
我は“真理の継承”を望んだまで。
そしてお前こそが、“最も純粋な記録媒体”だ」
「……器とはそういう意味?」
「そう。
お前の中には“王女エリス=リュシア”の記憶が、
完璧に、継承されている」
「……!」
セシリアの身体が微かに震えた。
胸の奥、ずっと遠い場所から“声”が響いてきた。
「……お願い、まだ終わらせないで……
セシリア。あなたこそが、私の“続きを生きる者”」
それは、あの日、滅びた王国の中で
誰にも届かなかったはずの声。
「エリス……!」
その瞬間、セシリアの周囲に青白い光が渦を巻いた。
彼女の背に、銀の紋章が浮かぶ――
それは、ナザリア王家の“真なる紋”。
《双翼と剣の輪》
王政の記録者にのみ与えられる、王家の継承の証。
•
「記憶の覚醒か。なるほど……だが、遅すぎた」
ラシュファーンが手を掲げる。
その背後、七つの柱が一斉に光を放ち、
古の封印魔術が作動する。
「この祭壇は、もともと“器を開く”ための装置。
よく来たな、王妃セシリア=リーヴェルト。
貴様の血と記憶が揃った今、
我が計画は完成する!」
•
祭壇が振動し、
空間そのものが歪み始める。
「レイ、時間がない……!」
「任せろ!」
レイが剣を抜き、
セシリアが“探偵魔導具”を展開する。
その手には、かつて王宮司法調査局で使われた《真実眼》――
すべての術式構造を読み解く、解読専用の魔具。
「見せて……あなたの“術式”の全貌を」
魔具のレンズが、ラシュファーンの周囲に広がる魔法陣を透過し、
その“弱点”を一瞬の閃光として映し出した。
「今よ!」
セシリアが叫び、
レイの剣が、正確に“封印陣の核”を突いた。
爆発――
光と風が祭壇を包み込み、
構築されかけた“器の強制起動術式”は、瞬時に破壊された。
•
ラシュファーンの仮面が、裂けた。
姿を現したその顔は――
誰でもない、ただの“記憶を失った男”。
「……我は……誰だ……?」
「あなたは、《七曜の名》すら与えられなかった、
ただの傀儡。
誰かに“王”として仕立て上げられた、操り人形よ」
•
セシリアは、ついに見抜いた。
この祭壇のすべてが、“誰かの意思”によって動かされていたということを。
――そして、それはまだ終わっていない。
•
祭壇が崩れ始める中、セシリアは最後に耳元で囁くような声を聴いた。
「“黒曜の指輪”が、次の扉を開く。
……すべての真実は、“第四の継承地”にある」
•
セシリアとレイは、崩壊寸前の祭壇から退避しながら、
互いの視線を確かめた。
「行くのか、まだ」
「行くわ。まだ終わっていない。
むしろ、これが“本当の始まり”よ」
彼女の眼差しは、冷たくも力強く――
真実を暴く者の、それだった。
(つづく)
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