◆第30話『歪なる七芒星――七曜異端派と、真実に最も近き“第三のスパイ”』
帝都に潜む“死”は、常に静寂の中で訪れる。
それは、まるで夜露のように気配なく、ひとの命を刈り取る。
まして、それが《七曜盟》の“異端派”による暗殺であれば――
その凶刃が届く頃には、すでに誰も“気づく”ことさえできない。
その夜、王妃親衛によって保護されていたリィナ・シェラザールの寝室に、黒衣の影が現れたのは、ほんの五分の出来事だった。
――いや、五分すらも要していなかったかもしれない。
室内の侍女は二名、どちらも絶命。
結界は破られず、しかし“抜けられていた”。
枕元には、一枚の紙片が落ちていた。
『七曜の環を汚す者、裁かれるべし』
その片隅には、《七曜盟・異端派》の印章――
歪曲の環の紋が、赤黒いインクで焼き付けられていた。
•
「これは、“粛清専門”の派閥ね」
翌朝、報告を受けたセシリアは、淡く冷たい声音でそう告げた。
「七曜盟の中でも、“正しき七曜”に属さぬ者たち。
“旧き血”を忌み、排除し、“歪な理想”を掲げる過激派。
彼らは、ラシュファーン本人というより……“その右腕”に属する思想の持ち主よ」
背後から肩越しに声がかかる。
「つまり――“本気で殺しにきてる”ってことか」
レイ=アルディオスの声は、剣のように鋭かった。
「その通り。……そして、ここからが本番よ」
セシリアは瞳の奥で何かを見据えていた。
「この“動き”を可能にしたのは、外部の敵だけじゃない。
“帝都の内側”から情報を流した者――
すなわち、《第三のスパイ》が存在する」
王妃探偵局が“機密資料の一部”と“作戦指針”を握られるより前に、
何者かが《七曜盟》に情報を漏洩していた。
それは、帝都に随行した局員6名の中にいる。
•フィラン・ヘルディス(情報分析官)
•ノエル・レインズ(警護隊長)
•クレア・フローレス(宮廷文官)
•セルジュ・カラモンド(現在行方不明)
•リィナ・シェラザール(保護対象)
•カイ・ヴァルヘム(戦術参謀)
「この中に、“第三のスパイ”がいる可能性がある。
もしくは、“もうひとつの顔”を持つ者が紛れている……」
•
セシリアの脳裏に浮かんだ仮説は、こうだ。
――もし“情報漏洩”ではなく、“王妃自身の行動の誘導”が目的だったとしたら?
「つまり、私を“帝都に来るよう”仕向けた内通者がいる。
表向きは私を信じているように見せかけて、実は《七曜盟》と通じていた人物が」
その言葉に、レイの表情が曇る。
「……お前の周囲に、“真実に最も近い者”がいるってことだな」
「ええ。そして、彼らが仕掛けた次の罠は――もっと直接的よ」
•
それは、セシリアの仮拠点にある仮設会議室にて起きた。
昼下がりの柔らかな日差し。
リィナが紅茶に手を伸ばそうとしたその瞬間――
「伏せて、リィナ!」
セシリアの声と同時に銀のトレイが飛び、次の瞬間、窓に突き刺さった短剣が赤く光った。
――爆発。
静かな音。だが、確かな殺意。
直後、仮拠点の外周に黒装束の影が現れ、ノエルが叫ぶ。
「敵は少数! これは陽動です!」
「いいえ――本命は、“内部”よ」
セシリアは即座に部屋の資料棚に手を伸ばし、
“閲覧記録の報告書”を手に取った。
「これ……記録が消去されてる。
“王妃探偵局”の高位認証を持つ者にしかできないこと」
つまり――
“第三のスパイ”は、探偵局の中枢にいる。
•
同時刻、帝都郊外・廃教会。
レイは単独で逃走した刺客を追い詰めていた。
だが、その仮面の下の顔を見た瞬間、彼は言葉を失った。
「……お前……ノルド……!」
男の名はノルド。
かつてナザリア王国軍で、レイの副官を務めていた男だった。
「どうして……?」
「俺は選んだのです、レイ様。
七曜盟という“秩序”を。
ナザリアが果たせなかった“継承魔導”の制御と、理想の継承を」
「お前……あの夜、王女を……!」
「王女殿下は血を渡さなかった。
だが我々は知った。“王統の血”に眠る《継承魔導》の存在を。
それを手にした者が、この世界を動かせる」
ノルドは、こう名乗った。
「“七曜盟・異端派”第七席――ユダ=ノルド」
――歪なる七芒星。
七曜盟の中でも異端にして過激。
“王統の血”を道具として扱い、記憶と力を“次代”に継がせることを目的とする、破壊的な粛清者たち。
レイは刃を抜き、しかし――切れなかった。
それは、かつての仲間を想う“心”が、ほんのわずかに刃を鈍らせたからだった。
その隙に、ノルドは姿を消す。
•
仮拠点に戻ったセシリアは、即座に局内調査を発令。
そしてその数時間後――
彼女のもとに、一通の封書が届いた。
『お前の“最も近く”にいる者こそ、第三のスパイ。』
まるで嘲笑うような文言。
だが、次の瞬間だった。
「王妃様……お茶をお持ちしました」
ふと差し出された器に、セシリアの目が止まる。
左手で器を持つ、側仕えの女。
名は、イルマ=レネット。
半年以上、セシリアの傍で働いていた“忠実な補佐”。
――けれど。
(この人……右利きだったはず)
その“違和感”。
それこそが、セシリアの“探偵としての勘”が警鐘を鳴らす瞬間だった。
――第三のスパイ。
その影は、いよいよ明確な“輪郭”を持ち始めた。
駒は動き出す。
歪な七芒星が交差するこの帝都で――
次に“失われる”のは、果たして誰の“記憶”か。
(つづく)
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