◆第29話 『名乗りを上げた影――七曜盟と第三のスパイ』
帝都ルミナリア。
陽が昇る前、空が最も暗く沈む時間。
その瞬間、王妃セシリアはひとつの“声”に目を覚まされた。
「……“貴女の耳”に、この名を届けよう。
我ら《七曜盟》は、ここに“再び、真実を削りに来た”」
それは夢ではなかった。
部屋に侵入された形跡はなかった。
だが、確かに空気が歪んでいた。
そして、枕元には黒い封筒が置かれていた。
•
封を切ると、銀のインクでこう記されていた。
――《ラシュファーン》より、王妃殿下へ。
その名は、封印された過去にだけ存在する名だった。
•
ラシュファーン。
《七曜盟》現当主。
そして“偽名の王”と呼ばれる男。
歴代当主は常に仮面と偽名を用い、
国境を超えて動き、時には戦争をも動かしてきた。
だが、今回その名が“自ら名乗られた”ことに、セシリアは疑問を抱く。
「名乗るということは、こちらに見つかる覚悟があるということ」
「それとも、すでに“我々の中に”いる……?」
•
情報分析室では、ノエルとフィランが議論を重ねていた。
「帝都での情報漏洩……確実に“第三のスパイ”がいます」
「王妃潜入前の警備網も、すでに破られていた形跡が」
その時、リィナがふと漏らす。
「私の部屋に、誰かが入った形跡がありました……でも、何も取られてないの。
代わりに、日記帳の位置が……ずれていたの」
•
セシリアの目が光を帯びる。
「つまり、“君の記憶”そのものが狙われていた可能性がある」
「え……?」
「君の過去は未だ完全ではない。
けれどそこに、“七曜盟が過去に狙った王統の断片”があるなら、
……君は《記憶ごと監視されている》」
•
そして――
決定的な一報が、王妃探偵局に届く。
「“アルディオス家の古文書”を調査していた局員・セルジュが失踪しました。
最後に目撃されたのは、《王立図書館の禁書室》です」
ノエルの表情が強張る。
「彼は“忠誠心が強い男”でした。
裏切るとは思えません。だとすれば……」
「“攫われた”か、あるいは“内通者に騙された”か」
セシリアは断言する。
「帝都にいる《第三のスパイ》は、“七曜盟の使者”であると同時に、
《誰か身内の顔》をしている人物よ」
•
そしてその夜。
セシリアのもとに、一人の来客が現れた。
黒衣に身を包み、顔の半分を仮面で覆った男。
「貴女が“真実を暴く者”であるなら。
この手紙を読む資格があるでしょう」
そう言って、男は一通の手紙を差し出した。
差出人の名は――
『ギルバート・カイネル』
だが、その筆跡は、ギルバート本人のものではなかった。
「これは……“模倣”された筆跡。
“ギルバートの名を使って、私を誘導する者”がいる……」
そして、手紙の最後に、こう添えられていた。
『“ラシュファーン”は、貴女の足元にいる。
すでに、選択は始まっている。』
•
セシリアの脳裏に、かすかな人影が浮かぶ。
(足元に……?
まさか……)
第三のスパイは、セシリアの“近く”にいる。
日々報告を受け取り、動向を見守り、
そして“情報を流している者”。
•
その名は、まだ明かされない。
だが、次の夜――
帝都の地下で、“リィナの命”を狙った暗殺者が出現する。
その暗殺者の持っていた印は、
《七曜》の七角形の中に、“もうひとつの円”を内包する異形の紋章だった。
――それは、“異端の七曜”を示すしるし。
“七曜盟”の中でも、最も“過激”で、“粛清を好む派閥”。
•
「……いよいよ、本気で動き出したのね」
セシリアは、小さく呟いた。
仮面の下で揺れる陰謀。
ラシュファーンという影。
そして、身近に潜む《第三のスパイ》。
――帝都の夜が、静かに牙を剥き始めた。
(つづく)
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