◆第23話『王妃にかけられた咎――裁かれるのは、私か。真実か』
「……私の、名?」
報告を聞いた瞬間、セシリアはかすかに息を呑んだ。
王宮寝所を襲った犯行声明。
そこに記された“犯人の名”として――
《王妃セシリア=フォン=リーヴェルト》
その名が、正式に記されていたという。
「陛下は無事ですか」
「ご無事とのことです! ただ、殿下が負傷を……」
ノエルの声が震える。
だがその言葉の後ろで、カイとリィナの視線がセシリアを見つめていた。
まるで、“このときが来ること”を、どこかで予期していたかのように。
「……七曜盟が動いたのね。ついに、表舞台で」
セシリアは静かに立ち上がると、
報告書の束と筆記具をまとめ、出立の準備を始めた。
•
「王都に戻るの?」
リィナが不安げに尋ねる。
「このままでは、“私がこの国を裏切った”という物語が独り歩きする。
それを正せるのは、私自身しかいない」
•
夜明けとともに、馬車が発つ。
王都ヴェルセリクへ――
《真実を暴くための反逆者》として。
だが道中、セシリアの脳裏をよぎっていたのは、かつての裁判室。
まだ“伊月真白”として東京地裁に立っていた頃のことだった。
「あなたは、どれほどの嘘を見抜いたのですか?」
かつて、尊敬していた上司に問われた。
「……全部は見抜けませんでした。
でも、どんなに巧妙でも、“誰かの震え”は嘘をつかない」
それは、今も変わらない。
この異世界に来ても、“真白”の目は曇ってなどいなかった。
•
王都に到着すると、セシリアはただちに自ら拘束を申し出た。
王の前に立ち、形式上は“被疑者”としての尋問を受けることになる。
応対に現れたのは、老宰相アダリア。
「……王妃殿下。
殿下はあなたを信じておられます。
だが、“事実と信頼”は、同じではありません」
セシリアは静かにうなずいた。
「だから、証明するわ。
“誰がこの罪を被せようとしたのか”。
そしてその裏に、“何を隠そうとしているのか”を」
•
尋問室に設けられた調査会議の場には、
調査官、宰相、王族代理、そして――
ギルバート=カイネルの姿もあった。
そう、セシリアが“側近の中の内通者”として名前を掴んだ男。
彼は涼しい顔で椅子に座り、
まるで何事もなかったかのように、彼女に挨拶した。
「ようこそ、王都へ戻られましたな、王妃殿下」
「……あなたが、私の名を“声明文”に記した?」
「証拠がございますか?」
まるで、こちらが“弁護”される側であるかのような態度。
だがセシリアは、冷ややかに笑った。
「ええ。
あなたが声明文に使った筆跡と同じ“文体”を、
わたしは4年前の“反乱弾圧の報告書”で読んだことがある」
「……!」
ギルバートの瞳が、一瞬だけ揺れる。
だがすぐに、整えられた表情が戻った。
•
会議は紛糾する。
だがセシリアは、次々と証拠の綻びを突き、
“内通者が用いた暗号通信”“改ざんされた記録魔導石”を提示していく。
「七曜盟は、内側から“王政そのもの”を壊そうとしている。
そして私は、それを暴こうとしている。
だから――私を“王家への脅威”として仕立てた」
•
証言の中、エルネストが牢から連行される。
彼はもう、かつての“灰の使徒”ではなかった。
だがセシリアの問いには、重く応える。
「……王妃。
あなたのことは、本物の探偵だと思っていた。
でもね、本物はいつも――一人で、すべてを背負おうとする。
それが、命取りになることを忘れるな」
•
その言葉が、どこか、
“かつての真白”の背中に刺さった記憶と重なる。
──私は、本当に一人なのか。
•
その夜。
王宮の塔で、セシリアは独り星を見上げていた。
リィナの言葉。
カイの信頼。
レオンの不在。
そして、かつて東京の書店で手にした一冊の本。
(あの本が“運命”だったというのなら、
きっと、この結末も――)
彼女は、そっと胸元の“青いルーン石”を握る。
それは、かつて母から贈られた唯一の遺品。
今となっては、“王家の血”に繋がる最後の手がかり。
(私は、逃げない)
王妃でも、探偵でも、ひとりの女でも。
セシリアは、“真実の先にある未来”を、選ぶ覚悟を固めていた。
(つづく)
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