◆第22話『影を喰うもの――王宮の内通者と、王家に刻まれた封印』
冷たい風が、石造りの拠点を吹き抜けた。
夜明け前の静寂。
セシリアは一人、エルネストの供述書と王宮側の通達を照合しながら、
小さく息を吐いた。
王妃としての責務。
王妃探偵としての覚悟。
どちらにも、後戻りの道はない。
だが今回ばかりは、心の奥に“焦燥”が張り付いて離れなかった。
(王宮の中に……七曜盟と通じている者がいる。
それも、私の“すぐ近く”に)
•
「セシリア様、これを」
ノエルが差し出したのは、最新の魔導筆跡鑑定結果だった。
提出者は5名。いずれも、王妃の側近や執務官に関わる人物だ。
──筆跡の一人が、エルネストの持っていた密書と“完全一致”していた。
「まさか……この名前……!」
ノエルが言葉を失う。
そこに記されていたのは――
《ギルバート=カイネル》
王宮司法調査局、第一室長。
つまり、“セシリアが設立した探偵機関の中枢”の人物だった。
•
「ギルバートが……?」
セシリアの手から、報告書が音もなく滑り落ちた。
彼は真白としての彼女が転移してすぐ、
最初に信頼を寄せた“法廷戦術顧問”。
王妃となった今でも、政務室で最も長く時間を共にしていた男だった。
•
「探偵局を腐らせるなら、外からでは無理。
ならば中枢に人を送り込むしかない――
そう考えるのは、七曜盟にとって当然か」
セシリアの言葉に、カイがうなずいた。
「奴らは“敵国”という形では動かない。
どんな強国でも、内部から腐らせるのが一番早いと知ってるからな」
「でも……ギルバート様は、あなたに何度も助言を」
リィナが震える声で言う。
セシリアはゆっくりと首を振る。
「助言は“導く”こともできるけれど、
“迷わせる”こともできる。
正義を掲げたまま、真実から目を逸らさせるために」
•
同時刻――
王都・ヴェルセリクの王宮では、
ギルバートが静かに“密室の会議室”を後にしていた。
薄い笑みを浮かべた彼の指先には、
七曜の紋章が刻まれた銀の印章が握られていた。
「……彼女が、真実を知れば知るほど、
自分の“立ち位置”が曖昧になっていく。
そのときこそが、我々にとっての“収穫”だ」
•
その夜、カイは焚火の前で静かに問うた。
「セシリア。
……お前は、血や国籍を超えて、誰を守りたい?」
その問いに、セシリアは答えなかった。
代わりに、視線を空に向けて、こう呟いた。
「私は――
“真実”を知る者の責任から、目を逸らさないと決めたの。
だから、守るのではなく、裁くの。
例えそれが、私自身であっても」
その言葉に、リィナが膝を抱えて言う。
「でも……セシリアさんは、温かいです。
お母さんのような匂いがする。
きっと、私の“過去の誰か”と、つながってる……」
その声に、セシリアの心がふと震えた。
まるで、過去と現在、異世界と現実が、
今この村で一つの“輪”になろうとしているようだった。
•
だがその瞬間、斥候が駆け込んできた。
「報告! 王都からの急報です!
王宮内にて、“王の寝室”が何者かに襲撃されました!
そして……王子殿下が、ご無事ではあるものの――
《王妃の名》が、犯行声明に含まれております!」
静寂が、崩れた。
セシリアは顔を上げ、わずかに唇を引き結んだ。
「――七曜盟が、ついに“直接的な罠”を仕掛けてきたわね」
(つづく)
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