◆第21話『偽装された忠誠と、七曜の星――揺らぐ世界の傍らで』
雨が、森を湿らせていた。
王妃探偵局の臨時拠点となったルーンの村に、
不穏な空気が満ちてゆく。
捕らえられたのは、元・王国文官――エルネスト=フォーガン。
だがその正体は、東方商業連邦に属する情報組織――
《七曜盟》の“灰の使徒”。
彼は、異邦と王国の間に揺れる密使であり、
国を渡って“嘘と情報”を売る、プロの“記憶狩り”だった。
•
「で……そろそろ口を開いてもらえるかしら」
王妃セシリアは、薄暗い地下室の石壁に背を預けながら、
縄で縛られたエルネストを見下ろしていた。
彼の顔は血で汚れ、唇には微かに笑みが浮かぶ。
「はは……王妃自ら、尋問か。
ずいぶん“前のめり”な王室だな。
本当に、探偵を引退したんですかね?」
「形式上は、ね。
でもあいにく、“あなたのような男”には、形式なんて通じない」
セシリアは冷たく告げる。
「あなたは誰に命じられて、ナザリアの血と記憶を狙ったの?」
「……七曜は命じない。提案するだけだ」
•
――《七曜盟》。
その正体は、国を持たぬ“巨大商会”でありながら、
諜報・工作・金融・暗殺・武器輸送までを請け負う、
世界最大の“裏契約結社”。
その本部は、東方の自由都市にあるとされるが、
実際には七つの大陸すべてに支部を持ち、
“七曜星”の紋章を刻んだ書簡のみで、あらゆる国家に干渉する。
《王位の空白》《国教の崩壊》《毒入りの条約》《買収された王族》――
すべての裏には“七曜の影”があると、
一部の者たちは密かにささやいていた。
•
「あなたたちは何を企んでいるの?
ナザリアの記憶を盗んで、次は何をする気?」
「“記憶”は、最も正確な武器だよ。
歴史も血統も、記録より“記憶”のほうが重い。
それを握った者が、“未来の国境線”を決める」
エルネストは、涼しい顔で笑う。
「ナザリアの王家が持っていた記憶。
君たち王国の始祖が隠した罪。
そのすべてが、“売り物”になるんだよ」
「……じゃあ、あなたは何人殺した?」
その声は、セシリアではなかった。
•
カイ=シェラザール。
異邦の少年が、牢に踏み込む。
その目には、淡く燃える怒り。
「俺の父親は、七曜に雇われた工作員に“毒を盛られて”死んだ。
ナザリアを混乱に導くために、あんたたちは“未来”を潰した」
「それでも、生きるために選んだのさ。
私たちは国に属さない。“正義”なんて、買い取れない価値に過ぎない」
•
沈黙の中で、リィナが震えながら囁く。
「セシリアさん……あなたは、私と同じ“記憶を持っている”。
でも……あなたの記憶には、血が流れていない。
あなたは、何者なの?」
セシリアは、ゆっくりと目を閉じた。
「私は――
“真白”という、別の世界から来た女だった。
弁護士として嘘を追い、真実を信じて、
それでも裏切られ、傷つけられ、そして……この世界に呼ばれた」
その言葉に、カイもリィナも息を呑む。
「だけど、私は“逃げた”わけじゃない。
この世界に来たのは、使命だったのだと思う。
そしてあなたたちに出会った今、それが確信に変わった」
•
「七曜は、この王国にとって“外患”よ。
けれど内部には、彼らと手を組んだ“内通者”もいる。
そうよね、エルネスト?」
「……あなたの側近の中にも、“我々の名”を知っている者がいる」
その言葉に、ノエルが表情を強張らせた。
「何ですって……!?」
「ヴェルセリク王国は、もう純粋な王政じゃない。
血も、記憶も、正義も、通貨に換えられる。
七曜盟は、すでに“この国の内部”に根を張ってる」
•
セシリアの瞳が、深い闇の底で冷たく輝いた。
「なら、すべて炙り出すわ。
王妃である私の名において、
“国を売った者たち”を――必ず」
牢の中、初めてエルネストの笑みが消えた。
そして、嵐が――静かに、動き始めた。
(つづく)
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