◆第19話『記憶の檻と、王妃探偵の“引退していない理由”』
淡い光が、森の祠を照らしていた。
セシリア=フォン=リーヴェルトの掌には、
リィナ=シェラザールの“記憶の魔法”が流れ込んだばかりの余韻が残っていた。
脳裏に焼きついたのは、断片的な映像。
──玉座の間。
──血に染まる王家の紋章。
──斬首された、ある女性の姿。
そして、その顔は自分と瓜二つだった。
(これは……何? 前世じゃない。けれど、私に酷似した“誰か”。)
「……彼女の名は、セシリア=エンリル=ナザリア。
かつてこの国で、“裏切りの王妃”と呼ばれた女です」
少女リィナの声が、静かに語り出す。
•
「彼女はナザリア王国最後の王女であり、
ヴェルセリクの先王に嫁ぎ、王妃となった人物でした」
「でも、記録にそんな名前は残っていない。
ヴェルセリクの歴代王妃の名簿に、彼女の名はないわ」
「それもそのはずです。
王家は、彼女の存在ごと歴史から“抹消”しました。
“王を裏切り、異民族を導き入れた魔女”とされて」
「……捏造」
セシリアは確信を込めて言い切った。
「表情も、声も、仕草も――
彼女は自分の意思で誰かを裏切るような人間じゃなかった。
あの記憶が示していたのは、“裁かれる者”じゃなく“利用された者”」
リィナの目が細められる。
彼女は、王妃セシリアのその観察眼に、わずかに微笑んだ。
「……やはり、あなたは“本物”ですね」
「え?」
「この村に来る前、兄はずっと疑っていました。
“王家の妾”になっただけの女かもしれない、と。
でもあなたは――《本物の探偵》だった」
セシリアは少しだけ目を細め、答えた。
「……ありがとう。でもね、リィナ。
私はもう“探偵”じゃないのよ。形式上は、ね」
•
王妃となったセシリアには、いま“探偵”や“調査官”としての公的肩書きは存在しない。
貴族たちの圧力を受けて、王妃が自ら告発や捜査にあたることは制度上許されていないのだ。
だが代わりに、彼女が王宮内に設立したのが――
《王宮司法調査局》、通称“王妃探偵局”。
王家直属、かつ中立的な調査組織。
告発権・証拠開示権・独立調査権限を持ち、腐敗の追及を制度として維持するための機関。
けれどその実態は、今も彼女自身が“中枢の指揮官”として動いている。
重大な事件や、国家に関わる陰謀の際には、
今も彼女が――王妃セシリアが、“最前線”に立っている。
つまり――
「私は“引退”していない。
ただ、“王妃”という仮面を一枚、被ってるだけ」
•
「なら……この記憶の真相を暴いてくれますか?
彼女――セシリア=エンリルの名誉を、
もう一度“真実”の光の下に戻してくれますか?」
リィナの問いに、セシリアは真っすぐに答えた。
「ええ。
これはもう、“ただの歴史調査”じゃない。
私自身の“ルーツ”にも繋がっているかもしれないから」
そしてセシリアは、石碑に刻まれたもう一つの文を読み取る。
『第二の血は、表の王家ではなく、
裏の王妃より継がれしこと、知るべからず』
「……第二の血?」
「はい。それこそが、“真の継承者”と呼ばれる存在。
王家には伝わっていないもう一つの“正統”が、
この村に根を残しているのです」
•
その夜、焚火のそばでカイが短く呟く。
「リィナがあれほどまでに誰かに手を握られるなんてな……
あんたが“彼女の記憶”に選ばれた理由、俺も少しだけ、分かった気がするよ」
「何よ、皮肉?」
「……いや。“期待”だよ」
カイのその言葉に、セシリアは無言で火を見つめた。
王妃でありながら、引退したことにはなっている探偵。
だが、今こうして村で真実を暴こうとしている自分こそが――
“本当に、誰かの未来を変える役目を背負っているのだ”と、
静かに、心の奥底で自覚していた。
(つづく)
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