◆第18話『“言葉を封じる者”と、“記憶を継ぐ者”――異邦の兄妹との邂逅』
森に満ちる、重く湿った空気。
王妃セシリアは、地図にない村の祠で、
一人の異邦の少年と対峙していた。
彼の目は、怒りと警戒、そしてある種の“諦念”を湛えていた。
•
「……名を名乗る気は?」
セシリアの問いに、少年は外套を払うように肩を揺らし、低く答えた。
「お前に名乗る理由はない」
だが彼女はひるまない。
長年の尋問技術が、彼の微かな言葉の揺らぎを見逃さない。
「名を持つことは、“言葉を持つ者”の証。
この村に“言葉を持たぬ者”が多い中で、あなたは話している。
それだけで、十分に“異端”だと証明しているようなものよ」
「……鋭い女だな。だから王に重用されているのか」
少年は、ようやく口元にかすかな皮肉を浮かべた。
「名は――カイ=シェラザール。
南辺の廃王国の末裔、かつて“王の影”と呼ばれた一族の生き残りだ」
その名を聞いた瞬間、セシリアの背に冷たいものが走る。
《ナザリア》――数十年前、王国との“和約”の裏で滅ぼされた独立領。
しかし、公式記録には“戦争”も“滅亡”も一切記されていない。
つまり、歴史ごと“葬られた国”である。
•
「……私を殺しに来たの?」
「違う。
俺たちの目的は、“この村の真実を暴く者”を見極めること。
お前が愚かな王家の走狗なら、その時は……」
彼の言葉が途切れる。
木の奥から、足音がふたつ。
現れたのは、彼と似た容姿の少女だった。
•
長く編み込まれた黒髪、淡い琥珀の瞳。
年は十歳ほどだろうか。
だがその佇まいには、幼さではなく“静かな覚悟”があった。
カイが言う。
「妹だ。名は――リィナ=シェラザール。
この村で唯一、“記憶を継ぐ者”だ」
「記憶を……継ぐ?」
「ナザリアの《王家の継承術》だ。
ひとつの記憶を、血と魔術で次世代へと引き継ぐ。
本来は“王”にのみ許された術だが……
今では、こいつだけがそれを受け継いでいる」
セシリアは、リィナを見つめた。
「あなたは、王家の記憶を……?」
リィナは静かに頷く。
そして、言葉ではなく、“魔法で投影された映像”として、
一枚の“記憶”をセシリアに見せた。
それは――
炎に包まれた王都。
泣き叫ぶ民。
玉座に座る“若き日の先王”が、目の前の王妃を切り捨てる光景。
その王妃の顔は、
まるで鏡のように、セシリアと瓜二つだった。
•
(……私の、顔?)
脳裏に走る激しい疑問。
だがその一方で、心の奥が震えている。
それは恐怖ではない。
自分でも気づかぬほど深く眠っていた“記憶に似た何か”が、共鳴していた。
「……あなたたちが何を伝えようとしているのかは、まだ分からない。
でも私は、この国を“嘘の上”に立たせたくない。
王妃である前に、“真実を選ぶ者”でありたいの」
その言葉に、カイは黙ってセシリアを見つめる。
そして、リィナが歩み寄り、セシリアの手を握った。
その瞬間――
《彼女の中に、誰かの記憶が流れ込んだ》。
それは、“前世”の真白の記憶ではない。
この世界に生きた、もう一人の“セシリア”。
かつて王妃であり、そしてこの国を裏切った女の、断片的な記憶だった。
(これは……)
まるで、物語がもう一つの“核心”へと進み出したかのように。
セシリアは気づいた。
──“この村に来たこと”それ自体が、
彼女にとっての“過去と向き合う儀式”だったのだと。
(つづく)
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