◆第16話『王妃探偵、再始動す――南の密使と、地図にない村』
『王妃になった令嬢探偵は、愛と陰謀の王宮で“第二の嘘”を暴く――異邦と政略の狭間で、真実を選ぶ者として』開幕
――第二部:愛する人の隣で、私は“王国の嘘”を暴き続ける
王国歴813年、晴天の王都ヴェルセリク。
春を越え、初夏の風が王城の回廊を吹き抜ける。
その風の中を、王妃セシリア=フォン=リーヴェルトは、
かつてないほど鋭い眼差しで歩いていた。
王妃のドレスではなく、調査服に近い機能的な衣装。
視線の先にあるのは――王宮の西端、《王宮司法調査局》の扉。
かつて“王家の腐敗”を暴いた彼女の手によって創設された、
王国史上初の“王家直属・非公開の調査機関”。
俗に呼ばれる名は――
「王妃探偵局」
•
局長室に入ると、秘書官アベルがすぐに立ち上がった。
「おはようございます、王妃陛下。
本日、予定されていた南辺密使との非公式会談について――」
「変更はある?」
「ありません。ただ……新たな報告が一件あります」
アベルは書簡を差し出した。
「先日、密使が語った“地図にない村”について――
実在する可能性が“ほぼ確実”との連絡が、現地から届きました。
しかも……そこに、“王家の紋章”が記された石碑があったと」
「……王家の紋章?」
セシリアは目を細める。
「なぜそんな場所が地図から除外され、記録にも残されていないのか……
理由は、ひとつしかないわね」
「……意図的な隠蔽、ですか」
「それも“王家自身”によるものよ。
証拠を消し、地図から抹消し、
代々引き継がれぬようにした。
“なかったこと”にするには、もっとも確実な手法」
彼女の瞳は鋭く、何もかもを貫くようだった。
「誰かが、この国の“過去の真実”を封じ込めた。
それは、今なお表に出せないほど“危険”で、“都合が悪い”から」
•
その日の午後。
セシリアは、王室の非公開議会に出席していた。
集まったのは、新王レオン、枢密院議長、南辺戦略官、そして一部の貴族代表たち。
レオンが静かに口を開く。
「この件は、正式にはまだ国家機密とする。
だが、すでにセシリアが“密使との接触”を持った以上――
これを放置するわけにはいかない。
正式に、調査任務を発令する」
彼の言葉に、数名の貴族が顔をしかめる。
「王妃自ら動かれる必要があるのですか?」
「あります」
即答したのは、当のセシリアだった。
「この国にとって“都合の悪い真実”を、
王が直接調べることはできません。
でも――私ならできる。
私は、“真実を暴く王妃”なのだから」
その言葉に、誰も何も言えなかった。
•
会議後、ふたりきりの執務室。
レオンは、窓際に立つセシリアに向かって静かに言う。
「……気をつけろ。
あの村には、王家がずっと触れずにいた理由がある。
そして、それを“守り続けている存在”も」
「分かってる。
でも、止まれないわ。
これはもう、“私だけの戦い”じゃないから」
セシリアの声は、いつになく静かだった。
「私は、この国の真実を明らかにする。
例えそれが――
あなたの先祖の“罪”だったとしても」
レオンは短く目を閉じて、頷いた。
「構わない。
すべての“嘘”を、終わらせよう。
君となら、それができる」
•
その夜、王宮の片隅で、密かに開かれる“第二の地図”。
そこに記された名は――
《ルーンの村》
かつて存在したが、記録から抹消された“亡国の民の集落”。
そしてそこに、“王家に仕えながらも裏切った家系”があったという。
セシリア=フォン=リーヴェルト。
王妃にして、真実を暴く探偵は、再びペンを取る。
新たなる事件の記録にして、
王国の過去を紐解く《第二章》の幕が、静かに上がる。
(つづく)
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