◆第15話『嘘なき王妃、真実の王とともに――そして物語は次章へ』
王都ヴェルセリク。
祝賀会の余韻が残る夜明けの王宮では、
まだ誰も目覚めぬ静寂が、石畳の回廊を満たしていた。
月が沈み、空が白む。
そんな移り変わる空の下、王妃の私室ではセシリアが窓辺に座り、眠ることなく書を綴っていた。
その筆は、ゆっくりと、しかしためらいなく動いている。
一枚、また一枚と記録されたのは――
「“第一章:王家の嘘と、婚約破棄された令嬢”……」
彼女自身の手による《王宮調査記録》だった。
「これが、証拠にもなる。記録にもなる。
そして何より、“私がここにいた”という足跡になる」
彼女の視線は、今や“未来”に向けられていた。
•
扉の音が、そっと響く。
「もう、起きてると思った」
現れたのは、変わらぬ姿のレオンだった。
眠っていないのは、彼も同じ。
「少し、気が抜けたの。式も、即位も、祝賀も終わって……
やっと“本当の王妃”になった気がするわ」
「王妃じゃない。君は“セシリア”だ。
俺にとっては、肩書きなんて関係ない」
そう言って、彼は彼女の隣に腰を下ろす。
「……けれど、“王妃である私”を信じてくれるあなたがいるから、私は踏み出せる」
「踏み出す先に、また“事件”があるかもしれないのに?」
「むしろ、あった方がいいわ」
彼女の笑みは、あの頃と少しも変わらない。
王家の腐敗を暴いた時と同じ、“真実を貫く瞳”。
けれど、今の彼女には、ひとりで戦う覚悟ではなく、
“共に生きる”という意思があった。
•
その日、王宮の政庁では正式な政令が発布された。
「新王レオン=ヴァルグレア、王妃セシリア=フォン=リーヴェルトとともに
王宮司法調査局の創設を布告する」
国の中枢に、初めて“真実を調べ、裁くための独立機関”が設けられたのだ。
貴族たちは困惑した。
保守派は警戒し、革新派は歓喜した。
だが、民の間ではすぐにこう呼ばれ始めた。
──**“王妃探偵局”**
嘘と権威がはびこるこの王国において、
ようやく“正しさ”に声を与える場所が生まれたのだ。
そして、その中心にいるのは――
王妃であり、元探偵であり、ただ一人、
《真実を恐れなかった女》。
•
その日の夜、王宮の塔の上。
ふたりは肩を並べて、王都の灯りを見下ろしていた。
「きれいね。
でもたぶん……この灯りのどこかで、また誰かが苦しんでる」
「だからこそ、俺たちの物語は終わらない」
レオンの声は穏やかで、決意に満ちていた。
「セシリア。君となら、どんな陰謀にも立ち向かえる。
そして、“愛する者のために、嘘を選ぶ者”さえ、きっと救える」
「……そうね。
だって私は、“すべての嘘を暴く”だけじゃない。
“守るべき真実”を選ぶ、探偵でもあるから」
ふたりの手が重なり合う。
それは、国家を変えた王と、
国に嘘を許さなかった探偵の――
最初の章の終わりにして、
これから始まる、“次なる戦い”の幕開けだった。
(第一部・完)
第1部《嘘を暴くは、ただの令嬢にあらず》完結
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