◆第14話『祝賀の華、そして忍び寄る“もうひとつの影”』
王都ヴェルセリク、王宮西庭の大広場。
春の風に揺れる花々、音楽隊の奏でる祝福の調べ、そして千を超える人々の歓声。
そこには、まさに王国の“希望”が咲き誇っていた。
今日という日は、王国全土が待ち望んだ日。
新王・レオン=ヴァルグレアと、王妃セシリア=フォン=リーヴェルトの結婚を祝う、公式の祝賀会である。
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「……すごい人ね。さすが王族の式典って感じ」
セシリアは、緊張を押し殺すように、笑みを浮かべながらレオンに囁いた。
広場の四方には各地の貴族が揃い踏みし、
街の民は通路沿いの観覧席にまで詰めかけていた。
「王妃は人気者だからな。民は皆、“君が国を変えた”と信じている」
「……重いわね、それ」
「安心しろ。重さは、俺と分け合えばいい」
そんな軽口を交わしながら、ふたりは玉座の間に設けられた“祝壇”へと進む。
王家の紋章の前、祭壇に並ぶその姿は、
まるで神話の始まりを告げる“英雄と女神”のようだった。
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その日の祝宴は、昼から夜へと続き――
宮廷料理、吟遊詩人の歌、舞踏会、火の舞、そして空を裂くような花火。
華やかな演出の裏には、王妃となったセシリアの希望により、
「誰でも参加できる祝賀の間」が別途設けられていた。
「“民と並ぶ式典”を」と望んだ王妃に、最初は反発もあった。
だが、それが今や“王室の新たな伝統”として受け入れられつつある。
まさに――“王妃の時代”が、今、始まりつつあった。
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そんな中、彼女の元に、一人の客人が現れた。
「……失礼いたします、王妃殿下」
控えめに一礼したその男は、異国風の装束に身を包み、
胸元には《南辺の密使》の紋章が刻まれていた。
「あなたは……アルメリア侯国の使節?」
「はい。侯国公認の使者として、本日は密かに祝意を表しに参りました。
そして、王妃殿下に“あるご報告”を」
「報告?」
男は周囲に誰もいないことを確認すると、
声をひそめて続けた。
「近頃、南の国境にて、正体不明の集団が“地図にない村”を拠点に活動を始めております。
交易を装いながら、異民族の技術や毒草を持ち込んでおり……一部では、“亡国の呪術師”の末裔ではないかと囁かれております」
「……その“地図にない村”は、王国領内?」
「……はい。王都から南西、森と谷を抜けた先。
正式な行政区分から“故意に外された地域”に、潜む形で存在しています」
セシリアの眼が鋭く光る。
(正式に地図から消され、文献にも残らない場所……)
「あなたは、どうして私に直接?」
「その村が……“前王の治世に何度か支援を受けていた”という記録が、密かに残っていたのです。
もしかすると、王家の過去と関わりがある可能性もあると」
「……」
セシリアは、静かに頷いた。
「話は受け取ったわ。詳細は、私が信頼する調査官に引き継ぎます。
情報提供に感謝します、アルメリア使節殿」
「それでは……」
男が去ったあと、セシリアは遠く花火の上がる空を見上げる。
──平和の終わりを告げる、狼煙のような赤。
「……レオン。やっぱり、私たちに“安息の時間”はないのね」
彼女がそう呟いたその直後、
背後からそっとレオンの手が重なった。
「大丈夫だ。君がいる限り、この国は間違わない」
「ふふ、それ、全部私の責任ってことよ?」
「それが王妃というものだ」
ふたりは並んで、夜空の下の王都を見下ろした。
誰も知らない、まだ誰も足を踏み入れていない“第二の事件”が、
すでにその地で――静かに胎動していることを、ただふたりだけが知っていた。
(つづく)
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