◆第12話『探偵令嬢と新王の結婚式――この国に、真実と誓いを』
王都ヴェルセリク、王宮・聖騎士の礼拝堂。
かつて歴代の王が即位の祈りを捧げた、厳かなる白の大聖堂。
今、その中心に立つのは――
王冠を戴いた若き新王、レオン=ヴァルグレアと、
隣に寄り添う、白銀のドレスに身を包んだ一人の令嬢。
セシリア=フォン=リーヴェルト。
かつては侯爵令嬢として、
そして異邦より来たりし“真実を暴く探偵”として、
この国を救った一人の女性。
そして今――彼女は、**新たなる“王妃”**となる。
•
「……それにしても、すごいわね。視線が痛いほどよ」
祭壇へ向かう長いバージンロードを歩きながら、セシリアは小声で囁いた。
「王妃の登場だ。当然だろう」
レオンは、いつもよりやや真面目な口調で返す。
けれどその眼差しには、いつものように彼女だけを見つめるやさしさがあった。
「緊張してる?」
「ええ、少しだけ。……でも、それ以上に、変な感じ」
「変?」
「私が“選ばれる”なんて、今でもどこか信じられないのよ。
ずっと、誰かを守る側でいたから」
「なら、今日からはその逆だ」
レオンは、小さく微笑む。
「今日からは、“君が守られる番”だ、セシリア」
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王宮騎士団が見守るなか、祭壇に立つふたりの前で、
厳粛な声が響いた。
「王よ。貴方は、国と民に命を捧げることを誓いますか?」
「誓う。すべての民に、真実と平穏を与えることを、王として誓う」
「そして、セシリア=フォン=リーヴェルト。
貴女は、王妃として、この国の未来を共に見つめ歩むことを、誓いますか?」
一瞬、彼女の瞳が揺れた。
だが、その迷いはすぐに消える。
「誓います。
この国に、真実を、そして希望を残すために――
王の隣で、歩み続けることを」
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式は、荘厳でありながら、どこか温かかった。
もはや“政略”の気配はない。
この式に立ち会った貴族たちは、王妃となったセシリアに敬意を表し、
その多くが、彼女が“王に最も必要な相手”だと認め始めていた。
なぜなら彼女こそが、この王国の“嘘”を終わらせた女だからだ。
•
「……あの時、告白しておいてよかった」
式が終わった後、王室の中庭でふたりきりになった瞬間、レオンがぼそりと呟いた。
「なによ、今さら」
「本当に、危ういところだった。
あと少し遅れていたら、君は遠くへ行っていた気がする」
「ええ、そうかもしれない。
でも――あなたが追ってきたから、私は今ここにいる」
セシリアは、ふっと目を細めた。
「きっと、これは“導き”じゃなくて、“選択”だったのよ。
お互いが選び、歩いてきた道。
偶然に見えて、全部、私たちの意思だった」
「……そうだな」
風が吹き抜ける。
花びらが、ふたりの肩に静かに舞い降りる。
その中で、レオンは小さく囁いた。
「改めて、よろしくな……妻としての、セシリア」
「……王妃として、じゃなく?」
「違う。“俺の”セシリアとして、だ」
•
夜。
宮殿の高台から見下ろす王都には、無数の灯火が瞬いていた。
その明かりの海の中に、彼女はようやく見つけた。
自分の“居場所”を。
かつて、嘘と裏切りにまみれた現実世界から逃げ出した少女は――
いまやこの世界の王妃となり、
真実のそばで微笑んでいる。
これは、ただの探偵譚ではない。
これは、ひとりの女性が、
自分の過去と未来に“はい”と答えた物語。
そして、
物語はまだ続いていく。
(つづく)
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