◆第10話《後編》『裁かれるは王家──“継承の偽り”と、探偵令嬢の最終弁論』
王都ヴェルセリク、王宮・大審問堂。
その場に居並ぶのは、王家三兄弟、枢密院議員、そして貴族たち。
階段式の石床の上、全員の視線が、ただひとりの令嬢に注がれていた。
セシリア=フォン=リーヴェルト。
“真実を暴く者”であり、いまや“王位継承の正統性”を問う存在として、
王国そのものに裁きを突きつけようとしている女。
王家の第一王太子・カインは、静かに言った。
「セシリア嬢。君は、王宮における秩序を乱し、偽証文を広め、王家を貶めた。
その罪を認め、貴族籍の剥奪と国外追放を受け入れるのなら、命までは奪わぬ」
その声に、誰かが息を呑んだ。
それは脅しではなく、“正式な判決の予告”だった。
しかし――
「……申し訳ありませんが、その裁き、まだ早いと思います」
セシリアは、魔石の入った箱を机上に置いた。
「ここに、“証拠”があります。
カイン殿下が、“王妃の実子ではない”という、正式な証言録です」
「……ッ!」
「またこちらには、“王家の血脈図”の原本写しもございます。
これらは、かつて亡くなった枢密院書記官によって極秘に保管されていたものです」
騒然とする議場。
王妃が立ち上がろうとするが、王が制止した。
「続けよ、セシリア嬢」
その言葉に、彼女はわずかに頷くと――
真っ直ぐ、王の玉座を見据えた。
「貴方がたが信じてきた“正統”は、偽りでした。
しかし、それを咎めるつもりはありません。
人は、時に偽りを選ばなければ生き残れないときもある。
……母が、そうだったように」
その言葉に、会場の空気が止まる。
セシリアの声は穏やかだった。
「けれど、いまのこの国は――
真実を知ることすら“罪”とされている。
それでは未来は築けません」
王太子カインが立ち上がり、震える声で叫ぶ。
「ならば! 貴様が“王の娘”として、この国を統べるというのか!」
「いいえ」
セシリアは、はっきりと首を振った。
「わたしは王になどなりません。
けれど、“王になる者が偽りを抱えていい理由”にはならない。
それがカイン殿下であれ、誰であれ」
静かに、彼女は語る。
「この国の民が、未来に希望を持てるなら。
その礎が“真実”であってほしい。
私はそのために、ここに立っています」
•
沈黙。
そして、王が静かに立ち上がった。
「……カイン。
お前が実子でないことは、余も承知していた」
「父上……!?」
「だが、誰よりも王としての誇りと責任を持っていたのは、お前だ。
だから、余は黙っていた。……だが、もうそれも限界だな」
王は、ゆっくりとレオンの方を振り返る。
「第三王子、レオン=ヴァルグレア。
これより王家の正統を再定義し、継承の座をお前に託す」
ざわめく議場。
カインは、しばし動けなかった。
だが、やがてその肩が震え、悔しさを噛みしめながら、ゆっくりと頭を垂れた。
「……すまない、兄上。君の方が、王に相応しいのかもしれない」
レオンは答えず、ただセシリアの方を見た。
•
――それから三日後。
王都の広場では、新王レオンと、その傍らに立つセシリアの姿があった。
「……君は、もう少しだけ傍にいてくれないか?」
そうレオンが尋ねたとき、セシリアはふっと笑って答えた。
「王になるって、大変なのね」
「まだ“君”が必要なんだ。
“真実を暴く探偵令嬢”としてじゃなく――“セシリア”として」
その言葉に、セシリアはわずかに頬を染めながら、頷いた。
そして──彼女は、レオンの手を取った。
•
「母さん。見ていてくれた?」
誰もいない屋上の空の下、
彼女はそうつぶやくと、風に吹かれるままに目を閉じた。
もう、過去には縛られない。
これからは、自分の手で“物語”を綴っていくのだ。
たとえ、それがどんな未来をもたらすとしても。
──これは、“婚約破棄”された令嬢が、
王国の嘘と腐敗を斬り裂き、
真実と愛を手にした、ひとつの結末。
そして、
物語の“始まり”にすぎない。
(つづく)
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