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音のやつ
棚の奥のマグカップが小さく震える。
まるで、これからの全てを予告するかのように。
食器が触れ合う微かな音が、すぐに倍音を帯びた。
楽器が勝手に鳴りはじめ、蛍光灯が床に叩きつけられる。
部屋は暗幕に包まれたまま、無人の演奏会が幕を開けた。
犬の吠える音が、クリシェの旋律を奏でる。
やがて旋律は絶頂に至り、鈍い低音とともに展開を迎える。
クラクションの音が鳴り響き、人々の悲鳴へと繋がる。
それは、十二音技法のように、混沌で、秀美であった。
コンクリートが裂ける音が、モチーフを次の段落へと導く。
楽曲が、自壊しようとしていた。
やがて、ノイズが楽団の音を飲み込み、
アンコールは、消える。