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帝国魔獣災害戦記  作者: 夕餉
迷宮魔核輸送作戦
8/50

進化

「第二波が来るぞ!」


副隊長ヴォルフの叫びが響く。


雷撃をまとった槍を受けてなお、黒獣王バロウは立ち上がる。


その巨体からは煙が立ち昇り、焦げた毛が剥がれ落ちるが、


致命傷にはなっていない。


むしろ——


「……こいつ、さっきより速くなってないか?」


騎士の一人が恐怖に震えながら呟いた。


雷撃の影響で神経が過敏になり、反応速度が向上した。


バロウの瞳がさらに鋭さを増し、今までとは違う気配を放つ。


それは狩りを本格的に開始する獣の目だった。


「——全員、備えろ!」


隊長グレンが吼えた瞬間、バロウが地を蹴る。


先ほどよりも圧倒的に速い動きで、目にも留まらぬ速度の突進。


騎士たちは盾を構えるが、まるで風を切るようにすり抜け——


ドガァンッ!!!


バロウは輸送隊の荷馬車の一つに体当たりした。


一瞬で木製の車体が粉砕され、中に積まれていた補給物資が宙を舞う。


「魔核じゃない……か。狙いを定めるつもりか?」


グレンが歯噛みする。


バロウはただやみくもに襲っているのではない。


どこに「最も価値のある獲物」があるのか、見極めようとしているのだ。


そして——


次の瞬間、バロウは明確に魔核を積んだ荷馬車を睨んだ。


「来る……!!!」


バロウの狙いは定まった。


黒い影が魔核の元へ跳ぶ。


「させるかァッ!!!」


副隊長ヴォルフが叫びながら、再び雷撃槍を投擲する。


しかし、今度はバロウも警戒していた。


身をひねるようにして、雷撃槍を避ける。


「クソッ、学習しやがったか!」


そして、次の瞬間——


バロウは空中で体をひねり、荷馬車に着地する寸前で、


その巨爪を振り下ろした。


「盾で防げェェェ!!!」


護衛の騎士たちが咄嗟に盾を構え、バロウの一撃を受け止める。


だが——


ギギギギギギ……!


盾が軋み、次々と砕けていく。


それほどの圧倒的な怪力。


「駄目だ、このままじゃ……!!」


その時だった。


「——炎槍、発射!」


突如、夜の闇を赤く染める巨大な火柱が立ち上がった。


炎をまとった巨大な槍がバロウの背中に突き刺さり、


一瞬、その動きが止まる。


「成功だ……!」


魔導士隊長のエリオットが胸をなでおろす。


彼が詠唱していたのは、


高密度の魔力を込めた火属性の魔槍だった。


しかし、すぐに事態は変わる。


バロウの体から立ち上る炎——


だが、バロウはそれをものともせずに振り返った。


背中の毛が、灼け焦げながらも硬質化し、炎を弾いていたのだ。


「防御能力が……上がっている?」


ヴォルフが驚愕する。


バロウは炎を浴びたことで、自らの防御をさらに強化していた。


雷で敏捷性を、炎で耐久性を向上させる——


この魔獣は、受けた攻撃を利用して成長している!?


「そんなバカな……! こいつ、戦いながら進化してやがる!」


それはまさしく「王」の力だった。


通常の魔獣ならば、攻撃を受ければ受けるほど弱っていく。


だが、この黒獣王バロウは、戦闘を通じてより強大な存在へと進化していく。


「こんなの……どうやって倒せばいい!?」


兵士たちの間に、恐怖が広がる。


その時——


「みんな、伏せろォッ!!!」


隊長グレンの怒声が響いた。


バロウが大きく口を開けた瞬間、空間が揺らぐ。


漆黒の魔力が凝縮し、圧縮され——


「——攻撃、くるぞ!!!」


次の瞬間、バロウの口から漆黒の雷撃が放たれた。


ズガァァァァン!!!


黒い雷が地面をえぐり、爆発を巻き起こす。


輸送隊の数名が吹き飛ばされ、土煙が舞い上がった。


「な、何だ今のは!? 魔獣が魔法を使ったのか!?」


「違う……!」


グレンが目を見開く。


「こいつは、さっきの雷撃槍と炎槍から……エネルギーを吸収して、放ったんだ!」


「そんなことが……!!!」


兵士たちの顔が青ざめる。


この戦いは、もはやただの迎撃戦ではなかった。


彼らは、「進化し続ける怪物」と戦っていたのだ。


「……総員、陣形を再構築するぞ。」


隊長グレンは冷静さを取り戻し、指示を出す。


「今の攻撃で、バロウは相応のエネルギーを消費したはずだ。


一撃必殺の威力はあるが、連発はできない。次のチャンスが、最後の攻撃になる!」


「最終決戦の準備をしろ!」


隊の士気が再び高まる。


彼らは、いよいよ黒獣王バロウとの決着の時を迎えようとしていた——。

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