決断
10年前の惨劇の跡は、今もなお帝都の一部に残されていた。
焼け爛れた大地、崩れた城壁、そして人々の心に刻まれた消えない恐怖。
地竜グラディア。
それはもはや単なる魔獣ではない。
帝国にとっての「災害」、そして「悪夢」そのものだった。
「帝国評議会 緊急会議」
グラディアが去った後、帝国は即座に緊急会議を招集した。
皇帝をはじめ、軍部、学者、技術者――国の未来を左右する者たちが、一堂に会する。
大理石の長い円卓を囲み、重苦しい沈黙が流れた。
そして、口火を切ったのは軍務卿グスタフ・ヴェルナーだった。
「諸君、言うまでもなく、我々は敗北した。」
その一言に、誰もが息をのむ。
「帝国は、巨大魔獣の侵攻を防げなかった。防衛線は突破され、避難民すら守れなかった。我々の武力は、地竜に通じない。」
グスタフの言葉には誰も反論できない。
帝国軍は決して弱くはなかった。
グラディア迎撃のために数万の兵士を動員し、魔術師団を投入し、大砲を撃ち尽くした。
それでも、歯が立たなかったのだ。
「ならば、次の襲来に備え、策を講じなければならん。」
「次の襲来は、10年後」
学者のひとりが立ち上がる。
「地竜グラディアの行動周期は、およそ10年と推測されます。」
「やつは再び現れるというのか?」
「ええ。そして次も、この帝国を横断する可能性が高い。」
誰もが凍りつく。
10年後――帝国はまたしても蹂躙されるのか。
いや、もう二度と同じ悲劇は繰り返さない。
「機械人形計画、始動」
皇帝が重く口を開く。
「軍務卿、ならば我々はどうすればよい?」
グスタフは即答した。
「魔獣には、魔獣を凌駕する兵器を。」
「……何を言う?」
「決戦機動兵器・機械人形の開発を提案する。」
円卓の面々がどよめく。
「魔術と機械を融合させた、巨大戦闘兵器。人が操ることで、対魔獣戦に特化した武力とする。」
「人が……操る?」
「そうだ。」
魔術師団の長老が静かに言った。
「それは、帝国の歴史にない新たな戦力となるだろう。しかし、それは現実的なのか?」
グスタフは力強く頷いた。
「すでに基礎技術は確立しつつある。魔核を動力とし、魔導技術を駆使した機動兵器の研究は進んでいる。これを、より対大型魔獣戦に特化した兵器として開発するのだ。」
魔術と機械の融合。
それは、これまでの帝国軍にはなかった新たな戦略だった。
そして、機械人形計画は、ここに正式に決定された。
「帝国の未来をかけて」
「よろしい。」
皇帝は立ち上がり、厳かな声で告げる。
「ならば帝国の総力を挙げて、その兵器を完成させよ。」
「二度と、あの災厄を許さぬために!」
こうして、帝国は未来をかけた巨大計画――
決戦機動兵器「機械人形」開発計画を始動させたのだった。