小型機械人形の誕生
小型機械人形の誕生
帝国技術研究院——その深奥にある工房では、今日も魔導炉の熱と魔術回路の輝きが交錯し、幾多の技術者たちの情熱が火花を散らしていた。
だがこの日、その歴史において特別な一歩が刻まれようとしていた。
「魔核装填、完了! 魔導回路、接続開始!」
作業員の声が響く。工房の中央には、他のどの機体よりも小柄な人型機械が鎮座していた。全高わずか四メートル。しかしその鋼の体には、帝国の新たな戦術思想が込められていた。
その名は——「ルークⅠ」。
技術長クロイトは、やや煤けた手袋を外し、機体を見上げながら静かに息をついた。
「ついに、ここまで……」
鋼殻甲虫の魔核を心臓に持つこの試作機は、帝国初の本格的な小型機械人形であり、兵士たちを護るために設計された防御特化型支援機であった。
決戦兵器としての巨大な機械人形とは違う。これは、前線の兵たちの盾となるための「仲間」だ。
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——ルークⅠ 試作機仕様——
・全高:約4メートル
・駆動魔核:鋼殻甲虫の魔核
・装甲:強化魔導鋼製
・武装:軽量魔導盾 / 小型魔導槍
・特性:低出力魔導防壁の展開可能
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「魔核、制御機構に接続。魔力流入、開始します!」
青白い魔力の光が回路を奔り、機体の表面を淡く照らす。動力源である魔獣魔核は高出力こそ持たないが、安定性は抜群。暴走の危険が少なく、長時間稼働に適している。
「——起動!」
技術者の声とともに、機体の核心部が深く唸りを上げる。
ゴウン……!
重厚な駆動音とともに、ルークⅠの胸部に設置された光学装置が蒼く輝いた。ゆっくりと、その四肢が動き出す。機械仕掛けの騎士が、まるで生まれたばかりの子鹿のように慎重に、しかし確実に立ち上がった。
「動いた……!」
工房のあちこちから歓喜の声が漏れる。かつてない試みだった——魔獣魔核を用いた機械人形の開発。それが今、確かな成果として結実したのだ。
だが、浮かれる声の中でただ一人、クロイトだけは冷静だった。
「動いたのはいいが、まだ課題は多い。」
現実を見据える彼の眼差しは、すでに次の段階を見据えていた。
——魔核の出力は低く、戦場での稼働時間は限定的。
——展開可能な魔導防壁は、強大な魔獣の攻撃には不安が残る。
——支援機とはいえ、最低限の機動性がなければ立ち回りは難しい。
だが、それでも。
「……この成果は、大きい。」
クロイトは言った。これまで、機械人形といえば“決戦兵器”としての巨体ばかりが想定されていた。だが今、ルークⅠの誕生によって、**“支援機としての機械人形”**という新たな地平が開かれた。
「さあ、改良を続けるぞ!」
新たな時代の幕開けに、技術者たちは心を燃やす。
この日、帝国の記録にはこう刻まれた。
——これは、帝国機械人形開発の新たな第一歩である、と。