支援機
低出力型の機械人形計画―
1. 迫る時間と焦燥
帝国歴456年——。
帝都の中心にそびえる帝国技術研究院の会議室には、帝国軍の上層部と技術班の責任者たちが集まっていた。
円卓を囲む面々は皆、深刻な表情を浮かべていた。
「……結論を言おう。」
帝国技術研究院の技術長、クロイト・ファルバスは、静かに言葉を発した。
「ダンジョンの魔核なしでは、大型機械人形の駆動実験はできない。」
その言葉に、会議室内の空気が一層重くなる。
決戦機動兵器・機械人形——それこそが、帝国が魔獣の災厄に立ち向かうための切り札となるはずだった。
だが、その開発には莫大なエネルギーを供給できる**「ダンジョンの魔核」**が必要不可欠だった。
現在、魔核輸送部隊は移送作戦の最中。
しかし、その到着まではあと1年を要する。
「だが、それまで待つ余裕はない。」
クロイトの声が、沈黙を破る。
「次のグラディアの襲来まで、残された猶予は3年。」
「魔核の到着を待ってから研究を進めても、実戦投入に間に合わない可能性が高い。」
厳しい現実だった。
大型機械人形は、その圧倒的な戦力で魔獣に対抗するはずの決戦兵器。
だが、開発が遅れれば、次の魔獣災害に間に合わず、帝国は壊滅的な被害を受けることになる。
「ならば、小型の機体を開発するべきだ。」
クロイトは強く言い切った。
2. 魔獣の魔核を動力源に
「小型機体……?」
帝国軍の高官の一人が、眉をひそめる。
「そんなもので、次の災厄に対応できると?」
「小型機体は、決戦機ではない。支援機として運用する。」
クロイトは続ける。
「戦場では、前線を維持するための補助戦力が必要だ。もし魔獣の魔核を利用して、小型機械人形を動かせるならば、機械人形部隊の礎を築くことができる。」
「……なるほど。」
別の高官が腕を組む。
「大型機械人形の開発には時間がかかる。だが、その前段階として、小型機の開発を進めれば、技術的な蓄積が得られるというわけか。」
クロイトは頷いた。
「その通りだ。」
「しかし、魔獣の魔核を動力源に使うというのか?」
その言葉に、会議室の空気がざわめく。
魔獣の魔核は、通常の魔力供給源としては扱いが難しい。
- 不安定で暴走しやすい
- 出力が低く、大型機体を動かせるほどのエネルギーは得られない
- 個体ごとに性質が異なり、安定化処理が必要
通常、軍事技術として用いるには、ダンジョンの魔核のような高純度な魔力供給源が求められる。
しかし、クロイトの考えは違った。
「確かに、魔獣の魔核はダンジョンの魔核ほどの出力は出せない。」
「だが、小型機体ならば、低出力でも十分に動かせるはずだ。」
3. 実戦配備への期待
「仮に、それが成功した場合……戦場での利点は?」
帝国軍の戦術顧問が問う。
クロイトは即答する。
「まず、輸送部隊の支援に活用できる。」
「現在、魔獣災害において最大の課題の一つが、物資や兵員の輸送中の被害だ。魔獣は不規則に出現し、護衛部隊の負担は大きい。」
「もし小型機械人形が護衛に加われば、輸送部隊の防衛力が大きく向上する。」
「ふむ……確かに。」
帝国軍の将校が頷く。
「しかし、魔獣の魔核を使うとなれば、長時間の稼働は難しいのでは?」
「そこは、連携戦術でカバーする。」
クロイトは詳細な戦略を説明する。
- 小型機はあくまで短時間の戦闘用。長期戦は人間の兵士が担当する。
- 機械人形は魔導士の支援を受け、最適なタイミングで戦闘に参加する。
- 一定時間稼働した後、魔核を交換することで継続運用が可能。
「なるほど……。それなら、実戦配備も視野に入るな。」
軍上層部の間にも、小型機械人形への期待感が生まれ始めていた。
「まずは試作機の開発に着手する。」
クロイトの宣言をもって、帝国初の小型機械人形開発計画が始動した。
研究班はすぐさま魔獣の魔核を利用した動力機構の試作に取り掛かった。
同時に、機体設計にも着手する。
- 装甲材の選定(軽量かつ耐久性の高い合金)
- 魔導回路の最適化(低出力でも動作可能な制御系)
- 兵装の試験(近接戦闘用と遠距離支援用の2系統)
こうして、帝国の技術班は「決戦機動兵器」開発に向けた第一歩を踏み出すこととなった。
だが、誰も知らなかった。
この小型機械人形の開発が、後の戦局を大きく左右することになることを——。