被害
「被害報告、急げ」
黒獣王バロウとの激闘を終え、騎士団は勝利の余韻に浸る間もなく動き出した。
「急げ! 負傷者の搬送を優先しろ!」
ヴォルフの怒号が響き渡る。
地面には戦いの爪痕が生々しく残り、負傷した兵士たちの呻き声が夜の山岳地帯に広がっていた。
「医療班! すぐに処置を開始しろ!」
エリオットが指揮を執り、魔導士たちが治癒魔法を展開する。
しかし、傷の深い者はそれだけでは足りない。応急処置を施し、できる限り早く後方支援部隊へと運ばねばならなかった。
「戦死者は……?」
ヴォルフの問いに、一人の騎士が顔を伏せた。
「……確認できただけで12名。行方不明者が4名……いや、今の状況ではほぼ絶望的かと……」
その言葉に、場が静まりかえる。
12名の戦死——決して少なくない犠牲だった。
さらに、行方不明の者たちは、おそらくバロウの猛攻で谷底へと転落したのだろう。
「……ちくしょう……!」
ヴォルフが拳を握り締める。
これほどの損害を出しながら、彼らが手に入れたものはひとつ。
「黒獅子の魔核」
これがあれば機械人形の性能を上げる鍵になることは間違いない。
だが、それと引き換えに仲間たちの命が失われたのも事実だった。
「この犠牲を無駄にするな……!」
ヴォルフの言葉に、騎士たちは静かに頷く。
生き残った者たちの使命は、この魔核を帝都へ届け、決戦機動兵器・機械人形を完成させること。
「エリオット、すぐに本国へ通信を送れ。戦況報告と被害状況を皇帝陛下に伝えろ」
「了解……しかし、魔力通信はこの山岳地帯では不安定だ。できる限り早く、通信可能な地点まで移動する必要がある」
「ならば、負傷者を搬送しながら進むしかないな……!」
一刻も早く、報告を——
帝都に、この戦いの全貌を伝えなければならない。
騎士団は傷ついた仲間たちを担ぎ、暗闇の中を進み始めた。
戦いは終わった。しかし、彼らの使命はまだ終わらない。