表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国魔獣災害戦記  作者: 夕餉
魔獣災害
1/50

十年前の悲劇

夜が来るたびに、あの光景が脳裏に蘇る。


焦げた空気の匂い、燃え盛る建物、耳をつんざく悲鳴――そして、空を焼き尽くすほどの紅蓮の光。


ミリアは10年前の記憶を振り払うように目を閉じた。


あの日、彼女はまだ幼かった。


「地竜グラディア、接近――全市民に避難勧告!」


街に鳴り響いた警鐘の音は、まるで死の宣告のようだった。


空を覆う灰色の雲の下、兵士たちは叫び、母親たちは子を抱え、街は一斉に逃げ出していた。


ミリアの家族も例外ではなかった。


「ミリア、しっかり手を握って!」


母の強張った声が耳に焼き付く。


父は先導し、弟のアレンは母に抱きかかえられながら泣いていた。


地響きがした。


「来る……!」


誰かが叫ぶ。


遠くの大地が、まるで波のようにうねっていた。


そして、その向こうから――巨体が姿を現した。


全長80メートルを超える竜。


翼もなく、四足で大地を踏みしめ、ゆっくりと進む。


しかし、その一歩一歩が大地を揺らし、全てを踏み砕いていく。


「避難場所へ!」


家族とともに、ミリアは指定された避難場所へと走った。


帝国軍の指示で、街の外れに設けられた頑丈な石造りの地下施設。


あそこなら、大型魔獣の踏みつけにも耐えられるはずだった。


避難場所に到着すると、すでに多くの人々が詰めかけていた。


兵士たちが急かしながら、人々を中へ誘導する。


「大丈夫、大丈夫だから……」


母が弟をあやしながら、ミリアの肩を抱いた。


だが、次の瞬間――


世界が、灼熱に包まれた。


「地獄の光」


轟音とともに、目の前の景色が白に染まった。


グラディアが、口を開けていた。


そして――熱光線が解き放たれたのだ。


それは、太陽を地上に落としたかのような灼熱。


逃げ込もうとしていた避難場所が、一瞬で崩れ去る。


人々の悲鳴が、熱波の音にかき消された。


母の腕が、弟の身体を覆う。


「ミリア……走って……!」


熱風が吹き荒れ、皮膚が焼かれる感覚があった。


視界が歪む。息ができない。


ミリアは母の腕を振りほどくように、必死に前へ走った。


走れ――走れ――!


振り返ると、そこにはもう――


避難場所は存在しなかった。


崩れた瓦礫の下、黒焦げの地面。


人々の姿は……どこにもなかった。


「生き残った少女」


どれほど走ったのか、どれほど時間が経ったのか。


気がつくと、ミリアは森の外れに倒れていた。


体中が痛み、意識は朦朧としていた。


けれど、彼女は生きていた。


ただひとり、生き残ってしまった。


そして、10年の時が過ぎる。


ミリアは誓った。


――あの地竜を、必ずこの手で討つ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ