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「絶対にまた会いに来る。約束だぞ」
「うんっ」
物心ついた時には既に孤児院にいた二人は、肩を寄せ合いながら暮らしていた。マーフィーにとって大事な大事な唯一の存在だったフラン。
マーフィーだけ引き取られる事になった時、彼に指輪を渡した。
手作りのそれは、鉄細工の作業場で、細い針金を編んで作った小さなペアの指輪だ。世界に二つしかないそれの片方を手渡し、必ず迎えに来ると約束した。
他の物ではなく指輪だったのは、当時から弟ではなく恋人のような感情を抱いていたからだろう。その頃に自覚はなかったが、引き離されて辛い日々を送る中、心の支えとして生きてきた。
マーフィーは裕福な商人の跡取りとして引き取られた筈だったが、商人は表向きの看板で、実は犯罪組織だった。ありふれた茶髪に茶色の瞳。凡庸で目立たない容姿が気に入られたらしい。
引き取られた屋敷には同じ境遇の子供がたくさんいて、訓練を強要された。
訓練についていけない子供は容赦なく処分された。そこでは子供の命はずいぶん軽かった。マーフィーは必死に食らいついていくしかなかった。
幸い、マーフィーには素質があったらしく、何とか生き残れた。人目につかないよう潜伏する技術や、人を殺める手段を学んだ。
十年経って成人する頃には、暗殺者として生きていた。
マーフィーが得意とするのは徐々に弱らせて殺すやり方だった。医療の発達していない世界では、傷ひとつが命取りになる。
依頼人もターゲットも貴族ばかりだ。
虐殺すれば事件として大騒ぎになり、憲兵が犯人捜しに躍起になる。そうさせない為に、なるべく穏やかな死を目指す。
弱い毒を塗った小さなナイフで対象に僅かな傷をつける。人混みやパーティー会場で、すれ違うのが有効だ。
小さな傷だから、軽く手当てしただけで放置する者が多い。しかし毒は徐々に身体を蝕み、やがて死に至る。時間が経過しているので、死因もあやふやになる。追っ手がかかる確率が下がる。
暗殺としては地味だが、時間がかかっても結果を出すので、マーフィーは暗殺者として有能になっていた。
そして犯罪組織から信用を得て、自由時間を貰えるようになった時、マーフィーは孤児院にフランを迎えに行った。
しかしそこにフランはいなかった。
マーフィーがいなくなってすぐに貴族に引き取られたという。地方に領地を持つ子爵だというので探しに行ったが、それは嘘だった。マーフィーの時と同じで、書類には嘘が書かれていたのだ。
マーフィーは蒼白になった。
身元を偽って孤児を引き取るには、後ろ暗い理由がある。自分と同じように、別の犯罪組織に引き取られていたら絶望的だ。
フランは身体が小さくて丈夫ではなかった。あんな訓練にはついていけない。すぐに処分されただろう。
別の理由であってくれと、マーフィーは祈るしかなかった。
そして空いた時間があれば、フランを探し回った。人混みの多い町中、市場、仕事で立ち寄った田舎町。片時も忘れた事はなかった。
そして見つけられないまま、かなり長い歳月が過ぎていた。