タケシ、ゴブリンと交流する
塩や釜などを作り終えたタケシが一息ついていると
その時ガサガサと森から音が聞こえて咄嗟にナイフに風魔法を纏わす、音のした方向に注意を向けるとゴブリンが6匹武器を持って出てきた
即座に反応し、ナイフで切り掛かる
その時一匹のゴブリンが
「ちょっ!ちょっ! 待ってください!!!!」
しゃべった?ゴブリンが?
突然の事だったので、驚いて身を止めてしまった
しまったと思って後悔したが、そのゴブリンはまたも驚きの行動をとった、武器を投げ捨て膝をついて腰をおり額を地面につけた姿勢をとったのである、そう土下座だ!他のゴブリンも同じようにしている
「え?なに?土下座?」
タケシが驚愕に固まっていると
土下座のまま、一匹のゴブリンが
「自分たちに敵意はありません、勝手にここまできた事をお許しください、今までこんな家はなかったもので」
(流暢にしゃべっているな・・・・女神・・・ここに飛ばしたあの女神に言葉だけはわかるようにしてくれと頼んだ効果か? 家?あぁあの小屋の事かそりゃちょっと前に建てたばかりだしな)
戸惑いと警戒をしながら俺はそんなふうに考えていたらゴブリンがまた喋り出した
「私は、この南の浜近くを拠点にしている集落のガビンといいます、時々こちらにも食料を調達しにきています、、、ところであなたは?」
相手は土下座して何者かを名乗り、こちらの事を聞いてくる
まだ警戒はしながらとりあえず答えてみることにした
「俺はタケシと言う、30日ぐらい前にここにたどり着いた、ここを出ていく術もなく、仕方なくここで生活をしている・・・」
嘘ではないな、海からではなく異世界からだけど
「遭難されたのですな?それは大変ですね?何かお手伝いしますか?」
なんか気の良い事言ってきたゴブリンに少しだけ警戒を解く
「どうやってここに入ってきた?ここは浄化されている場所だから魔物は入ってこれないのではないのか?」
そうなのだ、俺はここが浄化された空間で魔物は入ってこないと安心し切っていたのである、
俺のその言葉にちょっとだけムッとした様子のゴブリンだったがすぐに顔を緩め答える
「ここは、確かに浄化されたエリアです、しかし魔物全部が瘴気に犯されているわけではありません、瘴気に侵されたものは自我を失いますのですぐ見分けがつきますしこのエリアには近づきません、もちろん私たちは瘴気に抵抗するだけの力があります」
どうやら、このゴブリンは正常で、前の言葉も話さず襲ってきた連中とは違うみたいだ、俺は警戒をといて謝罪することにした
「そうか・・・・それはすまなかった、この土地に不慣れなもので許して欲しい」
と頭を下げた、ゴブリンは驚いたように土下座姿勢のまま
「いえ!とんでもありません!こちらこそ驚かしてしまったようですし」
とまた土下座を深くする
「いや、こちらこそ申し訳ない、 で、そろそろ立ってくれないか?」
と言ってみる
「では失礼して」とゴブリンたちは立ち上がる
「あなたはヒューマン種ですよね?」
とゴブリンが尋ねてくる
「そうだが?敬語もいらないぞ?」
「いえ、ヒューマン種はそんな態度をとることは滅多に無いことですし・・・出会った瞬間に襲われる事を覚悟しなければなりません、ヒューマンたちの方が遥かに強いですし、ゴブリンはすぐ狩られる存在です」
どうもこの世界で人間はそんなに頭を下げる種では無いらしいし、前の世界同様にゴブリンは最初の獲物らしかった、まぁ魔物と会話する事自体が珍しいのかもしれない
「そうなのか・・・ではなぜ話しかけてきた?」
疑問に思い尋ねる
「はい、最初私も驚いてしまいまして、実はヒューマンを見るのもここ100年ほどは無かった事で、完全に不意を突かれたところでして、思わず・・・」
とガビンと名乗るゴブリンは言った
「ヒューマン種はあまりこない島なのか?」
「いえ、以前は頻繁に来ていました、この島は珍しい鉱石が採れるらしく、しかし瘴気が濃くなってきて以来は討伐隊が来たぐらいで、その他はわかりません・・・」
「瘴気は以前は薄かったのか?」
俺は、もう警戒は完全に解いてゴブリンたちから話を聞くことにした。
ゴブリンが言うに、以前の瘴気はそれほど濃くなく、鉱石を求めてヒューマンが頻繁に来ていて、魔物は容赦もなく殺されていったのだそうだ、そして以前までは瘴気を山にいるドラゴンが抑えて調整してくれていたらしい、しかし100年以上前に人間たちの争いに巻き込まれて、封印されたか討伐されて、瘴気を抑えるものがいなくなり、魔物が凶暴化する今の状態になったのだという、そして瘴気の濃い山にはゴブリンたちでは近づけないと言うのだ。
「そうなのか、じゃあ瘴気が濃いままなほうが、ガビンたちにとっては都合がいいのか」
人間が来ないならその方が都合がよかろうと尋ねると
「いえ、ヒューマンに殺される心配はありませんが、瘴気に侵されるものが増えこのままでは近いうちにこの島全体があの山のようになり、力があるモノも含めここには住めなくなります」
「このエリアが清浄なのは?」
「女神像があったと思います、あの女神像のあるこのエリアだけは多少瘴気が浄化されるのです、詳しいことはわかりませんが、最近そのエリアがほんの少し大きくなっていまして、その調査も含めこのエリアに来ました」
「女神像は俺が救出して、今毎日お祀りしているがそれが関係しているのか?」
ガビンは少し考えてから
「そうとしか考えられません・・・もちろん私たちも女神像には祈りを捧げてはいましたが、しかし木の根も太く私たちの技術ではどうにもならなかったので自然に任せるがままになっていたところ、あなたがお祀りしなおしてくれたようですので」
「そうか・・・しかしなんでこの周辺は集落がないんだ?」
そうなのだ、この浄化エリアには他の集落は無い、浄化されているエリアならみんなここに集まってくるはずなのだ、
「いえ、浄化されたエリアだけでは私たちは生きていけません、私たちはマナも吸収しなければ生きていけません、瘴気も濃すぎれば侵されすが、瘴気もマナの一部なのです、昔は山のドラゴン様がそのあたりを調整してくださっていたのですが、そのお力がなくなってしまって以降はこの有様で」
どうやら魔物は清浄な空間だけでは生きていないらしい
「ままならないものだな・・・」
「そうですね、本来ヒューマンも同じはずなのですが・・・多分浄化されすぎた空間で過ごしすぎておかしくなるものも出てきてるのではないかと思います」
本来俺たち人間もマナを吸収する必要があるらしいが、清浄な空間にしすぎたせいでおかしくなっているらしい
(何か哲学的な話になっていたな・・・)
続けてガビンが
「ですので、おかしくなりすぎて本来ヒューマンも恩恵に預かっていたはずのこの島のドラゴン様にあだなす者まで現れたのでしょう・・・」
ガビンは少し悔しそうにそう言った
「そうか、なんかすまん・・・」
俺は自分がそのヒューマン種の一員であることが急に恥ずかしくなり謝罪していた
「いえ、タケシ殿が謝ることでは・・・」
ちょっと気まずくなった雰囲気を変えるようにガビンが
「しかしタケシ殿がここに住まわれるのは、私たちは反対しません、清浄な空間というものは瘴気と違い、すぐにどうこうなるようなものではありませんので、女神像をお祀りし直してくれたのもタケシ殿ですし」
「そうか、ありがとう」
と頭を下げて礼を示した
「タケシ殿は本当に変わっておられる、多分この島でこれだけヒューマン種と交流が出来たのは初めての事ではないかと」
とガビンは初めて笑顔を見せるのであった
ゴブリンとの交流後タケシは、ゴブリンとの取引をする事にした、ゴブリンからは少量の食材、俺からは技術、ゴブリンたちは近くの竹で作ったカゴなんかをよく欲しがった。
俺にしても、少量とはいえ採りに行かなくても食材が手に入るのはありがたい
ゴブリンたちとの交流は実に楽しかった、前世では人間関係があまり得意ではないタケシだったが、完全に一人になってしまったのもあって心細い面もあった、相手はゴブリンとはいえ、コミュニケーションがとれるのだから、相手は人間である必要はない。
今日もガビンたちがやってきて、今度は魚を獲る道具が欲しいとの事
「漁具かぁ・・・」
「無理でしょうか、いつもこちらからのお願いばかりで申し訳ないのですが・・・」
とガビンが申し訳なさそうにして言った
「いや、まだ作った事がないだけだからこれから考えるよ、それに食材に関する事なんだから俺にも関係あるだろ?お互い様だ!」
と俺は笑顔で答えた
「いや、そう言ってもらえると助かります」
ちなみにここのゴブリンは、ファンタジー系の物語で語られるようなゴブリンではない、かなり人間と近くなんの問題もなく交流ができる、以前殺してしまったゴブリンの事を謝ると
「そんな、謝られることではありません、瘴気に侵されたものはもう元には戻りませんし、その内自分たちの仲間にも危害を加えた事でしょう、それを止めてくれたのですから、こちらから感謝申し上げたいぐらいです」
との事だった。
「じゃあ、漁具は作っておくから」
俺は、何を作るか思案しながらガビンに言った
「お願いします」
とガビンは頭を下げる、そのうち道具を作ってガビンたちに竹やその他の材料もとってきてもらえるようにしないとな。
ガビンが帰った後、俺は漁具作りに入った、釣竿は今の所釣り糸に使えそうなものが無いので罠系と考え、筌を作る事にした、筌とは外側が網体で構成されており割竹等で作った漏斗状の口から入ってきた魚介類を閉じこめて捕獲する漁具である
漁具を作り終えて、ふと島の反対側にあった麦畑の事を思い出した
「あの麦畑の麦が手に入ればパンが焼けるんだけどな・・・誰かが管理してるんだろうか」
今度ガビンが来たら聞いてみようと思っていた時、実は島全体にとって大変な事が、タケシの知らないところで進行していた
ゴブリンたちとの交流が始まって数日が過ぎた頃、ガビンが妙に神妙な面持ちで尋ねてくるのであった