ヴァルドニア王国の現状
その頃、大陸側ではエドワードたちが港にようやく到着いていた
「王のおかえりだ!」
と港に出迎えた近衛兵たちから声が上がる、ずらっと岸壁に整列しているがその顔には戸惑
いがありありと浮かんでいる、それもそのはずで出て行ったのは50隻以上の船団が今や3隻
のみなのだ、王の御座船キングウォール号は無事帰還してきたがその様相が異様だった、船体はボロボロでマストは黒々と煤けている、帆も予備なのか修復した後があちこちに見受け
られた、船といえば他の2隻も同様で片方など船首部分が大破して船内が見えていた、しか
もその船上にはキングウォール号も例外ではなく人で埋め尽くされていたどうやってここまで
の航海をしてきたのか、人が寝転ぶスペースもないほどだタグボートに押され岸壁に着岸した船にタラップが取り付けられる、最初に王が姿を見せた、皆がおぉ!っという声を出しかけて皆が口ごもる、王は見る影も無くなっていた髪はボサボサで髭は伸び放題で服などどうやれば船上であれだけボロボロになるのだと言うぐらい破れ放題だった、あの傲慢で自信に満ち神のごとく振る舞っていたあの王がだ、今は何かに怯え集まった人々を見ようともしない、近衛の上役が毛布を持って駆け寄り羽織らせるとその毛布を頭からかぶり小さくなってしまった仕方がないので近衛が両脇を抱え馬車に乗せる、その様子を確認したのか次から次に人が降りてくる、皆様子は王と変わらないが表情は明るいようだ、確か貴族同士の派閥争いで劣勢だった側が多くこの遠征隊に選ばれたはずだ、だから生きて帰れた事に歓喜しているのだろうか、すると一人の男が話しかけてきた
「やあ、君はこの部隊の隊長かね?」
様子は皆と同じだが、身なりは貴族のようだ確かノリッジとかいう田舎貴族だったはずだが、しょせん貴族争いで負けた没落貴族だ
「なにか?私はこれから近衛兵を引き連れ王宮にお供せねばならない、お主らにかまってはおられん!」
「そうか、見ての通り負傷者がいる急いで救護班とあたたかい食事と何より水を用意してくれるように頼んでくれないか?」
「水ならそこに井戸があるではないか!私は忙しい!」
「わかった、忙しいところ悪かったな?」
エドワードはなんともいえない表情で隊長の男を見ていた、今はこの貴族でもない一隊長クラスにも俺たちは見捨てられた存在に成り下がっているのか・・・・まぁいいとにかく兵たちに水と食事だ、それからエドワードは港に集まっていた人々に声をかけて周り、なんとか港の人々たちのあたたかい心に救われた、次々に水や食料が集まってきて中には自主的に広場に簡易兵舎のようなものまで建ててしまった者まで現れた、その簡易兵舎の一角でエドワードは考えていた、あの魔王、タケシ殿だったかあのタケシ殿に託されたこの条約をなんとしても、守らねばならない俺の為もあるが、この国の人々のためになんとしても守らねばならない、そのためには今の王家ではどうにもならない、クーデターを早めねばならないがその後出来た王権にもこの条約を守らせねばならないようなルールが必要だ、しかし俺にはその権力は無い、しばらくはあの王に号令を出させてオルディナス島には何があっても手を出さないように宣言させねばならないだろう、その後王家が倒れてもオルディナス島の脅威が広まっていれば次期国王にも条約の効力が出てくるだろう、そこまで考えたところにテント外から声がかけられた、返事をし入ってきた男を見て苦笑した、男の名はコンラート・フォン・シュタイン公爵エドワードの親友で派閥争いには興味がなく幾度も他貴族に煮湯を飲まされた男だ、公爵とは名ばかりで田舎に左遷され細々と領地を他の貴族から守ってきた男だ、クーデターの主要な人物でもあるが、俺の顔を見るなり同じように苦笑する
「命がけで逃げ帰ってきたと聞いたが、案外顔色は悪くないな?」
「この港の人々のおかげだよ、港に居た近衛兵はさっさと城に引き上げたからな、声をかけた男など、俺が貴族とわかっていたようだがわかっていて周りに死にかけの兵士がいるのにあの態度だ」
「それが今のこの国の現状だよ、で?何があった」
エドワードがオルディナス島での戦闘やタケシの事などかいつまんで説明した
「おいおい、なんだよ?その戦力は・・・」
「これでわかったか?あの島には金輪際近づいてはいけない」
「でも、お前だけはなんで行ける事になったんだ?」
「俺にもわからん・・・あの魔王・・・タケシ殿の気まぐれか・・・しかしタケシ殿には命を救われた恩がある、だからこの条約は命を賭けて守らねばならない、それにあのタケシ殿と言う人間を俺も気に入っているのも確かだ」
とエドワードは笑う
「魔王って人間なのか?」
「あぁ説明を忘れた、タケシ殿は人間だ、なんで人間がオルディナス島で魔王になっているのかはさっぱりわからんが・・・」
「・・・・」
コンラートが絶句してから言った
「とりあえず、大体の経緯はわかった、その条約状を俺が王宮まで持って行こう」
とコンラートが手を伸ばすが、エドワードがすぐに条約状を手にして
「この条約状に命を賭けていると言ったはずだ!」
「わかったよ・・・俺にそんな顔をするとはな・・・」
コンラートが弱っているエドワードに気を効かしたのは本当だ・・・だがエドワードの気概のほうが勝っていただけだった
「であれば、すぐにでも回復して身なりを調えろ俺の服その他も広場の中央に積み上げている」
コンラートは身一つで来たわけではなかった外には人だかりが所々に出来ていて使用人らしき人物たちから食事や酒などが振る舞われていた、それを見たエドワードは
「すまん・・・援助感謝する・・・それとさっきはすまん・・・」
「気にするな!それだけ今回の出来事がお前にとって大きなことだったのだろ?たしかにこの国というか人間社会全体の問題かもしれないしな?」
王宮では、国王エランドール・ヴァルドニアは帰還してから部屋に入ったきり出てこなくなっていた応急の手当を馬車内で行い、栄養補給もすませたが現状を確認したい王宮の重鎮たちは途方に暮れていた、その中に他の重鎮とは異なる年若い人物が居た、王宮の中で宰相付きの相談役を行なっているランベルト・グレイウィンだ、
ランベルトは考えていた、(あのオルディナス島でなにがあったかはわからないが、もうこの国は持つまい、クーデターが計画されているとも聞くし、もう少し引っ張ってクーデターなど起こす気も失せた所で国ごと崩壊させるつもりだったのに、このままでは新体制に切り替わるのも時間の問題だ)
そうこのランベルト・グレイウィンが影で重鎮たちを巧みに操り、腐敗させ国力を落とし国ごと崩壊させようと計画していた人物だ、影では人を人とも思わない事柄をやりつつ民衆には飴と鞭を使い分け扇動し、貴族たちには民衆などの事など考えず私腹を肥せと巧みに操り政治体制をことごとく破綻させていた、いままでは計画通りに進んでいたが、もっと欲深くさせようと最近瘴気が薄まって来たようだと報告のあったオルディナス島の調査を行うように仕向けたとたんに計画が瓦解してしまった至急本国に連絡し指示を仰がなければならないのに、現状が掴めないでいる、そう重鎮たちと焦っていた王宮にエドワードたちが現れた
「今回の遠征隊の総指揮を任されたエドワード・フォン・ノリッジご報告に参上しました」
片膝をつき重鎮たちに頭をさげるエドワードに次々に総指揮の責任をどうとか色々なことをまくしたてる、その中で比較的冷静だったランベルトが、他の重鎮たちを落ち着かせ現状を聞く事になった、エドワードがコンラートに説明したよりも少し丁寧に事情を説明した
「・・・魔王?・・・人間の?」
ランベルトが現状を咀嚼し飲み込んだのを見てエドワードが
「はい、しかもその戦力です我らは手も足も出ず壊滅、その上でこの死傷者ですあちらに情けをかけられたとしか思えません、よって国王エランドールの名の下、条約を締結しました、我らに拒否権などありませんでした」
ランベルトが一つ頷き、立ち上がる
「どちらへ?」
「宰相方々にも事情を説明せねばなるまい?」
「それはそうですね・・・・事情を説明し王の回復を待ってのち大々的にオルディナス島との条約の件を発表して頂きたい」
「そのようにしよう・・・」
ランベルトは部屋を出て宰相の所へ向かい事情を説明し、その場は解散となるしかしその足でヴァルドニア王国を出発したランベルトだった一つの置き土産を残し
翌日、
「条約は守らないとはどう言う事ですか!」
謁見の間にてコンラート公爵が吠えていた
「どうもこうも無い!魔物との条約など締結しおって!こんな物無効である!一切守る必要は無い!」
「王自らが締結した条約ですよ?」
「その王も部屋から出てこぬし、ましてやあの様子だと脅されて締結させられた物であろう!そんな物無効に決まっておる!しかも国同士ならともかくたかだか魔物の島程度に条約など」
「ランベルト殿はどのように説明されたのですか?」
「そのランベルトが魔物との条約など無効にしてしまえと言ったのだ、理由は今申した通りだ」
「そのランベルト殿はいまどちらに!?」
「今朝から姿がみえぬ、今は忙しいのだろう、今度ランベルトに良い案は無いか尋ねておく故、そなたは下がれ!」
昨晩ランベルトが出立する前にした事、重鎮たちの思考を極限までに下げる魔法を使い条約は無効である、決して守るなと言う洗脳に近い手段をとって、最後の賭けに出ていたランベルトにとってこの国が滅ぶならば内部から崩壊させるか、その崩壊が魔物の手によって物理的にでもどちらでも良かったのだ、なので自分の計画が破綻した今出来る最善はバカな重鎮たちに条約を破棄させる事だった、しかしランベルトはこの時この決断が、大陸全土に及び自らの国のある南の領域まで及ぶとは思ってもいなかった、ランベルトの国は科学をいち早く取り入れ、この大陸の南の果てにあり、他の国とも山脈などで隔たりがあり一線を画する豊かな国であったが野心が強くこの大陸全土を掌握せんと欲する傲慢極まりない国であった
「クックックッ・・・・うまくいけばこれであの国は魔物たちに蹂躙されるだろう、魔物たちに滅ぼされるが早いか、新政権を作り国をまとめあげるかどちらか一つだ」




