ラヴ・ファイター菊池
私はラヴ・ファイターだ。ラヴで戦う戦士であり、また、ラヴを纏いし者と日々戦ってもいる。
ファイター名はラヴ・菊池。しかし世を忍ぶ仮の姿──いわゆる女子高生の時は、正体を隠している。スーパーマンがクラーク・ケントを名乗るように、仮面ライダーマジェードが九堂りんねを名乗るように、偽名の菊池ラヴを名乗っている。
今日の敵は手強いぞ。生徒会長の白雪皇司くんだ。体育館裏に呼び出すなり、いきなり攻撃を仕掛けてきた。私に『こんなところに呼び出して、何の用?』を言わせる隙もなく──
「好きだ!」
クッ……! 敵がいきなり直球で攻めてきた。
しかしこれには手を出さない。釣り球だ。際どいコースのボール球だ。
強引なストレートを見せておいて次は変化球を投げ込んでくるのがセオリーだ。そうは……
「好きだ! 好きなんだ!」
うわっ! また直球かよ!
今度はストライクしかもど真ん中だ。変化球が来ると思っていたので見逃してしまった。しかもちょっとときめいてしまった。負けない! 次こそ変化球で来たところを……
「好きなんだ、菊池さん!」
三球連続ストレート! しかもまたもやど真ん中かよ! しかも名前を呼ばれてドキッとしてしまったよ! この男、よほど速球に自信があると見える……。
次を喰らったらアウトだ。三振してしまう。
狙い球を絞れ。狙い球を絞って、打ち返すんだ!
このツヤツヤに磨いた唇はおまえのためじゃない。誰のためのものでもない。私自身のものだ!
私は誰にも靡かぬ! ときめかぬ! よろめかぬ!
私は孤高のラヴ・ファイター! 菊池ラヴ! じゃなくてラヴ・菊池! なのだから!
誇りをもって狙い球を絞る!
直球だ! 156km/hぐらいのやつ!
打ち返す! 「悪いけどあなたに興味はないの」と返して、相手を見下す!
しばらく立ち上がれないぐらいに叩きのめしてやる! さぁ! 来い! ど真ん中ストレートを投げて来いッ!
白雪皇司くんの第四球目は、投げられた。
「……でも、君みたいな素敵なひとに、僕なんかじゃ釣り合わないよね」
変化球かよッ!
しかも外角低めに落ちるスローカーブ!
泳ぐ! 泳いでしまう! 体が……ヨロヨロと! 「そんなことない」とか言わされてしま……
見送った! ……ぼ、ボールだ! ボールだ! 助かっ──
「それでも菊池さんが好きなんだ! 絶対に幸せにしてみせる! だから僕と付き合ってくださいっ!」
どーん──!
やられた……。見事なフォークボールだ。まさかここで落としてくるとは……。ストライクをモロに喰らってしまった……。
ファイターになって初めての敗北を認めるしかなかった。私は彼にヨロヨロともたれかかり、ガクガクと崩れそうになる膝を彼で支えて、言った。
「そ……、そこまで言うなら付き合ってあげてもよくってよ」
「勝った!」
白雪皇司くんはガッツポーズを決めた。
「無敗のラヴ・ファイター、ラヴ・菊池に勝ったぞ! これで僕が今日からチャンピオンだ!」
そう言って喜び勇んで去って行った。
私の胸には7つの心の傷だけが残された。
たんばりん様よりイラストをいただきました(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾ぺこ
歌川 詩季さまからもイラストいただきました(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾ぺこ