推定ベータは確定ベータになりそこねた(リライト企画0910)
しいな ここみ様『リライト企画』参加作品。
島猫。様『第二性 0910』をリライトさせていただきました。
素敵な企画と原作ありがとうございます。
第二性ってもんがある。
確か近代もいいとこになってからちゃんと発表された概念で、そいつは一部宗教における同性愛禁止の概念を思いっきりひっくり返す羽目になった。らしい。
ちなみに第二性が違えば異性愛であるということでその宗教の大元は決着したらしいが、まだ細かくバトルしているいろんな宗派があるらしい。まぁそういうの、日本で生まれ育ったアタシには全然関係ない。
だいたい両親どっちもベータから生まれた推定ベータなんだから関係のしようもない。
と、思ってたんですけどね。さっきまで。
3年A組の教室で、ベータ確定報告に湧いているクラスメイトを眺めつつ、マジかぁと呆けた顔でアタシは検査結果書をぴらぴらめくって文字を確認しては戻していた。
何回確認しても変わらない。いや夢じゃないのかな。
検査結果:α。
アルファ。
なんか頭脳から運動能力から美貌にカリスマ、オールオブ完璧超人、それがアルファの特徴らしいですよ。
誰のことですかね。
ちょっとわかりませんね。
いやまあ、だいたいのことは人よりちょっとばかり出来る方だって自覚はあったけど。
いわゆる学校で上手く行って就職してから苦労する典型的な優等生タイプだと思ってたんだよ。
ほんとだって。
別に苦手分野がないわけじゃないし。声はそこそこ良さそうなのに一度歌えば超絶音痴とはアタシのことである。音楽の成績はテストと鑑賞とリコーダーで稼いだ。合唱?知らない子ですね。
なお美術も画伯とまで行かないがそれなりに下手だと自覚している。例によってテストと鑑賞と意欲態度関心で稼いだ。自画像?抽象画の間違いじゃないですかね。多分きっと。
ちなみに校内で検査結果を口外しないようにっていうのは、単に面倒事を避けたい学校の決まりに過ぎない。面倒にも何もならない確定ベータ発表会を先生も止めないのはそういうことだ。
アルファなりオメガなりだとどっちにしたって抑制剤とか飲まなきゃとか、発情期がとかそういうのを親と話し合って第二性のための主治医を決めることになるし。
上流階級とやらには積極的にアルファとオメガを結婚させる風習があるとかそういうのも聞く。良く知らないけど。
アタシの家は両親共働きの立派な中流階級です。大学までの学費なら心配するなって言われるあたりそれなりに豊かなんだろうけど、家を継ぐとかそういう概念はないやつ。
いやまじで、別にいいけどなぜアルファ。
思わず五七五で呟いてしまうお年頃である。
てかあれなの?もしかしてそういうことを致す時になったら生えるの?
妊娠させることができる第二性ってそういうことだよね?
さてところで。
推定ベータもいいとこのアタシと違って、アルファ間違いなしと言われていたクラスメイトがすっと席を立って静かに教室を出ていった。
顔良し声良し頭良し、もちろん運動能力良し。しかし一匹狼を極めているそいつは、律儀に先生の言うことを守って第二性を口外せずに帰宅するつもりらしい。
その後姿を――さらに細かく言うなら、短く刈り上げたそのうなじを見つめた瞬間、ごくっと喉が鳴った。
あーあの場所噛み付いてみたいな……はい?
マジで?
そいつぁアルファの本能で、確かオメガに対して発動するやつで、ついでに噛んじゃった瞬間にそのオメガは噛んだアルファのオンナ……げふん、ツガイ、だかになっちまうとかそういう話じゃなかったっけ?
アルファ同士とかベータ相手とかだとそういうことにはならないとか。
……まーじーで?
推定アルファの一匹狼が実はオメガでした!
そりゃ一匹狼を貫いてそそくさとおうちに帰るわけである。
さぞかしショックだろう。うん、アルファは単に生える(らしい)だけだが、オメガは人生変わるもんな。
いや確定したわけじゃないけどさ。
妊娠する側とさせる側だと全然負担が違うもんな。
いやアタシは妊娠することも出来るはずなんだけど。うん。
なおぐるっと教室を見渡した限り、他にじゅるっと来るうなじの持ち主はいなかった。
それはオメガがいないのか、それともグッと来るオメガがいないのか、アタシにはわからない。
ちょっと他のクラスとかまで行って検証する気も起きない。
だがしかし、あの一匹狼くんがもし孕むとしたら。
あの腹(具体的にどこ?尻?良く知らないけど)に突っ込んで、アタシの種を植え付けて(それって要するに生えたものを中に?ひぇっ……マジか……)、アタシの子を孕んで大きく膨れる腹……?
いや待ってアタシのとは限らないわ!もっとアルファアルファしいアルファの子かもしれないでしょ!?
しかしどっちにしろグッと来る。
悪阻で具合悪そうにしてたり?
そもそも発情期でハァハァしてたり?
あのうなじに歯型を刻まれた彼を後ろから覗き込んで、目元の赤みを堪能して――ストォォップ!!
アイツは!
確かに彼のうなじはその噛みたくなる度はスルメイカか鮭とばか!?って感じの美味しそうなやつであったが、まだオメガとは限らない。
アルファであるのを確認してさっさと立ち去っただけかもしれない。
何せクラスの一匹狼だぞ。くじ引きで席を決めてもなぜか廊下側の一番後ろか二番目を毎回引くような一匹狼なんだぞ。なんだよそのくじ運。分けろ。
いや違うくじ運の話じゃない。うなじの話……でもない!
とにかくアルファだと判明しちゃったからには、両親にさっさと話して第二性科の主治医を見つけようそうしよう。
病院によくあるパンフレットとかもらって熟読しよう。人間そういう基本的なことを疎かにしてはいけないのだ。それはどんな性別(第二性含む)であれ変わらないのだ。
その両親に付き添われ早速向かった評判のいい第二性科で、かの一匹狼くんとばったり出会ってしまうとは。
そしてアルファとオメガで分かれた待合室の、オメガの方に入っていく背中を――うなじを見送り再び生唾飲み込む羽目になるとは。
アタシは全く思っていなかったのである。
「てかクラスで毎日会うのにどんな顔すればいいんだよおおおおおお!!!」と自室で叫んでベッドの上で転がり回ることになるというのも。
そしてこのまず築かれてすらいない関係性がどうなっていくのかなんて、その時のアタシにもわからないのである!!