091 エピローグ
コミカライズの連載が始まりました!
24年12月2日からコミックフェスタ様にて先行配信中です!
25年1月頃から公式サイト(竹書房のガンマぷらす)でも配信予定です!
原作小説よりエチエチ度がUPしておりますのでお楽しみに!
一月下旬。
冷え込みの激しい今日この頃。
皆は受験に向けて最後の追い込みに必死だ。
休み時間になっても勉強に明け暮れている者ばかり。
口を開けば「受験」や「模試」といった言葉が飛び交っている。
そんな中、俺――冴島海斗は全く違うことを考えていた。
(来るぞ……! 来るぞ……!)
時計の針がじわじわ進み、昼休憩の始まりを告げる。
教師が教室を出て行くと同時に多くの生徒が動き出した。
机をくっつけて弁当を準備したり、食堂に行ったり。
(来たァアアアアアア!)
俺はというと、狂った速度で弁当を平らげていた。
食べ終わるなり席を立つ。
周りの「またかこいつ」という目を無視して教室を飛び出した。
中庭に到着したら素早く周囲を確認。
「誰も見ていないな! 今がチャンス!」
学生鞄を開けて火熾しの道具を取り出す。
使い古された火きり板と火きり杵――きりもみ式の火熾しに使う物だ。
板の窪みに杵を押しつけ、両手で左右に回転させる。
すぐに細い煙が上がり始め、そのまま労することなく火熾しに成功。
中庭に小さな焚き火ができた。
「タイムは!?」
ただちにスマホを確認。
ストップウォッチアプリには15秒と書かれていた。
「しゃー! 記録更新! 成長を感じるぜ!」
両手を上げてガッツポーズ。
その時だった。
「こらぁ! 冴島ァ!」
怒鳴り声がする。
ビクッとして振り返ると――。
「私らもまぜれー!」
千夏がいた。
麻里奈、明日花、吉乃、七瀬、由芽、希美も一緒だ。
「海斗先輩は日本に戻ってもサバイバル好きですね」
由芽がニコッと微笑む。
「もちろん! むしろ前よりも燃えているぜ!」
皆が声を上げて笑う。
幸いなことに、俺たちの転移は完璧な成功に終わった。
島での日々をはじめあらゆる記憶が残っていて、肉体的な損傷もない。
「ドカーン! はい私の勝ちー! 麻里奈、遅すぎー!」
「くぅー! 内職大臣だから火熾しはしていなかった!」
「そんなこと言ったら私だって狩猟大臣だったっての!」
千夏と麻里奈が火熾しのスピードを競っている。
「こらぁ! お前ら! 何度言ったら分かるんだ!」
そこに生徒指導の男性教師が登場。
「やべ! 逃げるぞ! ばらけろ!」
俺たちは蜘蛛の子を散らすように逃走。
ターゲットの分散を試みる。
「待て冴島ァ!」
だが狙われるのは俺ばかり。
「なんでいつも俺なんだよ! クソ!」
廊下を走り回って教師とのデッドヒートを繰り広げる。
「今日という今日は絶対に逃がさんからな!」
執拗に追いかけてくる。
ただし、それは昼休憩の間だけだ。
休憩時間が終われば見逃される。
だから、逃げ切れるかどうかが肝要だ。
「うお!?」
廊下を走っていると、教室から兵藤が出てきた。
ぶつかりそうになるがすんでの所で回避。
「冴島君、廊下を走るのは危険だからやめたほうがいいよ」
兵藤が優しい口調で言ってくる。
残念ながら、彼は重度の記憶障害によって別人と化していた。
今では誰に対しても丁寧に話す、暴力とは無縁の優しい大男だ。
兵藤以外の生徒も、大なり小なり問題に見舞われていた。
大半は記憶障害だけだが、中には廃人になったり死んだりした者も。
何だかんだと思い詰めて自殺した生徒もいた。
その他、転校なども相次ぎ、全学年を合わせた生徒数は約200人にまで低下。
曰く付きということもあり、由芽や希美の代で閉校することが決定していた。
ちなみに、俺たち以外に島でのことを覚えている者はいない。
俺たち以外に目を向けると、わりと厳しいのが現状だ。
「先輩、こっちですよ!」
廊下の角を曲がると七瀬がいた。
使っていない教室から顔を出して手招きしている。
それに従い、俺は教室に飛び込んだ。
「よく捕まらなかったね」
声を掛けてきたのは吉乃だ。
彼女や七瀬だけでなく、他の女子も教室に隠れていた。
「ヌゥ? どこに消えやがった……!?」
教室のすぐ外で生徒指導の教師がブツブツ言っている。
その声は次第に遠のいていった。
「ふぅ」
ホッと一息。
どうにか難を逃れた。
「鬼は消えたし、今度は木登りでもするかぁ!」と千夏。
「お、じゃあ今日もスピード対決するか?」
「そうこなくちゃ! 今日こそ私が勝つからね!」
「それはどうかな? 俺だってまだまだ発展途上だからな」
フフフ、と笑う俺。
「あなたたちは勉強しないとまずいでしょ」
吉乃が呆れ顔で言う。
「そーだそーだ! ……って、私もなんだよね」
えへへ、と笑う明日花。
「じゃあ真面目に勉強会でもしますか!」
麻里奈が提案した。
「勉強会か……たまには悪くないかもな」
「私も混ぜてくださーい! 先輩たちと同じ大学に行きたいんで!」
七瀬が手を挙げる。
由芽と希美が「私も!」と続いた。
「いやいや、由芽と希美は一年でしょ!? 気が早すぎない!?」
「でも私たち、千夏さんより賢い自信あるよー?」
「くぅ! 言ってくれるねぇ! こう見えて私って成績いいんだぞ! 勉強会でウチらのレベルについて来られなくて泣きべそかいても知らないからなー!?」
「上等!」
女性陣がなんだかんだと盛り上がっている。
落ち着くのを見計らって俺は言った。
「さぁ図書室に行くぞ! 勉強会だ!」
「「「おー!」」」
かつて、俺には一人の友達すらいなかった。
それが今では、7人もの仲間がいる。
謎の異世界転移があったからこその出会いだ。
多くの生徒にとっては惨劇でしかない異世界の無人島生活。
しかし、俺……いや、俺たちにとっては、貴重で幸せな時間だった。
あの日々がなければ、俺は今も一人で過ごしていただろう。
仲間の大切さを知ることもなく。
この場にいないルーベンスやジョン、それに他の動物たち。
全ての仲間たちとの思い出を胸に、俺は今日も歩き続ける。
素敵な思い出だけをありがとう、異世界――。
『俺だけ余裕の異世界サバイバル』、これにて完結となります!
たくさんのブックマークと評価、そしていいねで応援してくださりありがとうございました。
皆様の応援のおかげで最後まで書ききることができたと思っています。
原作はこれで終わりとなりますが、コミカライズはこれからです。
担当漫画家のコア助先生とともに頑張ってまいりますので、応援していただければ幸いです。
また、絢乃の他の作品も、よろしければ読んでやってください。
それでは、ご愛読ありがとうございました!
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