085 接触
船の試運転は順調だった。
ただ、帆の機能が思ったほど芳しくない。
「船のスケールを大きくする前に帆の調整をしたほうがいいかもしれないな」
「だねー」
遠目に島が見えるところで船をストップ。
豆粒のような大きさの千夏たちを眺めながら一休み。
「帆もだけどさ、この暑さも対策が必要なんじゃない?」
麻里奈はシャツのボタンを外し、襟元を摘まんでパタパタしている。
見え隠れするブラや胸の谷間が素晴らしい。
汗で湿気ったシャツが張り付いて肌を透かすのも魅力的だ。
「おーい、目つきがいやらしいぞー! 変態!」
「こりゃ失礼、仰る通り変態なもので……!」
麻里奈は「もー」と呆れたように笑った。
「最初、海斗ってそういうキャラだと思っていなかったよ」
「そういうキャラっていうと、変態ってことか?」
「そうそう。正確には変態っていうより、人並みの性欲があるというか、エッチなことを考えるタイプには見えなかったってことね」
「紳士に見えていたわけだな」
「というか別種の変態かなって。サバイバルにしか興味がないタイプみたいな」
「学校じゃそんな風に見えただろうな。だが実際はご覧の通りさ」
「人間味があっていいと思うよ。私は好きだなぁ」
「変態が?」
「違うって! 人間味のあるところがだよ!」
もー、と笑う麻里奈。
今度は呆れるというより楽しそうだ。
「さて、そろそろ戻るか」
話が落ち着いたところで提案する。
「だね!」
と同意しつつ、麻里奈は「でも……」と続けた。
「その前に!」
「ん?」
次の瞬間、麻里奈は俺にキスしてきた。
首に腕を回し、舌を絡めながら押し倒してくる。
「ま、麻里奈……!?」
「吉乃も抜け駆けして楽しんでいたみたいだし、私もちょっとくらい……ね」
「なるほど、いきなりだから驚いたよ」
「なんか衝動的にしたくなっちゃって。ごめん」
そういう麻里奈の顔は真っ赤で、今にも爆発しそうになっていた。
自らの思い切った行動がよほど恥ずかしかったようだ。
「謝ることないさ。麻里奈とキスができて俺はラッキーだ」
「ほ、ほんと?」
「おう。証明してやろう!」
ということで、今度は俺からもキス。
麻里奈は目をカッと開いて驚くも、すぐに受け入れた。
キスが終わった頃には恍惚とした表情に。
「さて、戻るとしよう。続きは別の機会に」
「うん……!」
うっとりした目で俺を見つめる麻里奈。
(俺も女垂らしになったものだぜ)
そんなことを思いつつ、俺はオールを漕いだ。
「…………い……!」
島に近づいてくると、千夏の声が聞こえた。
何やら叫んでいるが、まだ遠すぎてよく聞こえない。
「何を言っているんだ?」
「さぁ? 私らのキスを見られたのかな?」
「あれだけ離れていたら分からないと思うけどなぁ」
とにかく船の速度を上げる。
より近づいたことで、千夏の声が鮮明になった。
「早く戻ってこい! 急げ海斗! 早く!」
よく見ると他の女子や動物たちも全力で手招きしている。
希美や明日花も「急いで!」と叫んでいた。
「何か問題が起きたに違いない!」
俺たちはこれまで以上にオールを漕いだ。
そして陸に戻ると――。
「遅い! 何していたのさ! ずっと呼んでいたのに!」
まずは千夏が怒鳴ってくる。
「悪い悪い、ちょっと麻里奈とキスしていてさ」
「「「なっ――!?」」」
これには全員がびっくり。
麻里奈も顔を赤らめつつ驚いていた。
「そんなことよりどうしたんだ? 何かあったんだろ?」
俺は千夏――ではなく、吉乃に尋ねた。
「うん。北の方で狼煙を上げているサルから連絡があったの。異世界人の船が近づいてきているんだって」
「なんだと!?」
たしかにとんでもない事態だ。
◇
異世界人が来ないので船を造り始めた。
その途端、異世界人の船が迫っているという。
やれやれ、なんともタイミングの悪い。
「たしかにゆっくり近づいてきているな」
俺たちは狼煙の近くの森から異世界の帆船を見ていた。
茂みに身を伏せて様子を窺う。
俺たちの後ろではサルやゴリラ、ルーベンス等も待機している。
全員から緊張感が漂っていた。
それにしても大きな船だ。
先ほど造ったウチの試作帆船とは格が違う。
数百人、いや、1000人以上が乗っても余裕だろう。
「どうするの?」と吉乃。
「当初の計画通りにいこう。相手が上陸したところで話しかける。いざとなったら逃げられるよう森の近くからな」
皆が頷く。
船が近づくにつれて緊張感が高まっていく。
しかし――。
「おい、停まったぞ」
陸から20メートル程の地点で錨を降ろし始めた。
下りるにしては遠すぎる。
「どうしたんだろ?」と明日花。
「分からない。しばらく様子を見よう」
船を注視する。
欧米人のような風貌の船員が何人も島を見ている。
肉眼で見ている者もいれば、双眼鏡を使っている者も。
マストの見張り台にも人がいた。
「向こうもこちらの出方を窺っているな」
「私たちが隠れているって気づいているのかな?」
吉乃の問いに、「どうだろう」と返す。
「深々とした茂みにいるし、そう簡単にバレるとは思えんが……」
これでは埒があかない。
「相手が近づいてこないなら仕方ない。こちらから出ていくか」
皆が「えっ」と驚く。
「き、危険じゃないですか?」と由芽。
「だからまずは俺が一人で出ていく。武器も持たずに両手を上げてな。そうすりゃ向こうも過度に警戒することはないだろう」
「でもそれだと海斗先輩に何があるか……」
「仕掛けてきそうなら逃げるさ。向こうに敵意がある場合、俺は全力で森に逃げる。その時は弓で敵に威嚇射撃をしてくれ」
「「「了解!」」」
もっとも避けたいのは、このまま相手が引き返すこと。
そうならないよう、リスクを承知で俺は茂みから飛び出した。
「「「――!」」」
船上の異世界人たちが俺に気づく。
「何もしないでくれ! こっちは丸腰だ!」
両手を上げたまま、くるりと横に一回転して武器がないことをアピール。
ドラマだと武器を忍ばせているものだが、今は本当に何も持っていない。
「○△※¥×□#%&$!」
船員の一人が何か言っている。
案の定、彼らの言葉は理解できなかった。
日本語はおろか、英語や中国語ですらない。
全く聞き馴染みがない未知の言語だ。
「俺たちはたぶん別の惑星から来たんだ! もともとは地球ってところにいたんだ! 異世界転移に巻き込まれた! 分かるか? アイムジャパニーズ! ニーハオ!」
ボディランゲージを交えて話しかける。
残念ながら伝わらないようで、相手は首を傾げたままだ。
「やはり言葉が通じないと限界があるな……」
向こうに敵意がなさそうなので緊張感が和らぐ。
一方で、急速に落胆の気持ちが強まっていく。
その時だった。
「地球がどこかは分からんが災難じゃったな」
船から日本語が返ってきた。
答えたのは話しかけてきた船員ではない。
船員を掻き分けて現れたローブ姿の老人だ。
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