084 造船
23日目。
日本では今日から11月だ。
クリスマスに向けて暗躍する者が現れだす頃。
きっと木枯らしが冬の訪れを告げているだろう。
しかし、異世界では違う。
今日は過去最高の暑さだった。
立っているだけで全身から汗が噴き出す。
もしかして、この世界はこれから夏に突入するのだろうか。
そんなことをも思わせる暑さだ。
それはさておき……。
「まずはどんな船を造るか、船の種類を決めていこう」
今日は船を造ることにした。
皆で第三拠点に集まって具体的な内容を詰める。
待てど暮らせど異世界人がやってこないからだ。
絶え間なく上がっている海辺の狼煙は効果がなかった。
「船の種類って?」と、首を傾げる千夏。
「ガレー船とかキャラック船とか、そういう感じのこと?」
吉乃の発言を、俺は「いや」と否定。
「そこまで細かく決める必要はないかな。ざっくり『小舟を連結させる』か『一隻の大きな船にする』かを決めたい」
「どっちがいいんですかー?」と七瀬。
「どちらにもメリットとデメリットがあるんだ」
俺は右の人差し指を立てた。
「小舟を連結させるタイプのメリットは造船コストが低くて耐久性が高い。それぞれの舟にばらけて乗るため、仮に誰かの舟に異常が発生した場合でも、他人の舟に避難することで難を逃れることが可能だ。一方、荒波や悪天候には非常に弱く、また、運搬できる物資も少ないというデメリットがある」
そこで一息つき、「次に」と中指を立てる。
「大型船のメリット・デメリットだが、これは単純に小舟を連結させるタイプの反対だと思ってもらえたらいい」
「というと!?」と希美。
「造るのに時間がかかり、予期せぬ不具合で沈没するリスクがある。そしてトラブルに見舞われた際は、一隻に集中しているためそこで終了だ。しかし、荒波や悪天候による沈没のリスクは低く、物資の積載量も多い。また、こちらは帆船になるため、風の力で海を進むことが可能だ」
「説明を聞く限り、小舟って丸木舟になるのかな?」
吉乃の問いに「そうだな」と頷く。
「丸木舟って何でしょうか?」と由芽。
「一本の木を刳りぬいて造る舟さ」
皆が「あー」と納得。
吉乃以外は丸木舟が何か知らなかったようだ。
「でもそんな小舟で大海原に出るのって危険じゃない?」
心配そうに言ったのは麻里奈だ。
「そうなんだよ。海の近くで軽い漁をするには使えても、外洋には適していない。普通に考えたら大型船を一隻こしらえることで確定だ」
「なのに悩むってことは何か理由があるの?」
俺は頷き、麻里奈に答えた。
「問題は俺たちの技術力だ」
「技術力? 船の造り方を知らないってこと?」
「それもある。ただ、そっちはどうにでもなると思う。正確な造り方を知らずとも構造についてはおおむね把握しているし、吉乃か誰かの持っている歴史の教科書に大雑把ながら解説が載っていたから参考にすればいい」
「じゃあ技術力って?」
「航行中に壊れないような船を造る技術があるのかどうかってことさ。ここに現代の大工道具があれば、俺たちでも問題なく船を造れるはずだ。大型船といっても、俺たち全員と適当な物資を積めるだけのサイズでいいから、一般に連想されるような馬鹿でかい船を造るわけじゃないし」
「そっかー、釘とかない中で船を造る必要があるんだ」
「だから悩ましいところさ。自分たちの技術力なら問題ないと信じて大きな船に賭けるか、荒波や悪天候に見舞われないことを祈って丸木舟を連結させるか」
こればかりはどちらがいいと言えない。
……と、俺は思ったのだが。
「それなら大きな船にしようぜぃ!」
千夏が即座に言った。
「私も賛成でーす!」
七瀬が続き、他の女性陣も同意する。
「えらく思い切りがいいな、みんな」
「だってウチには内職大臣がいるし、ここの動物たちは器用だからね! 皆で協力すりゃどうにでもなるっしょ!」
言い切る千夏。
「帆は機織り大臣に任せてねー!」と希美。
「そういうことなら、大きな船を造る方向で進めよう」
「「「おー!」」」
◇
造りたい船が決まったので、さっそく造船に取りかかる。
……とはいかない。
まずはスケールを大幅に縮小した小型の試作船で様子見だ。
問題がなければ、同じ製法で規模を拡大していく。
「思ったより早く完成したな」
試作船は僅か数時間で出来上がった。
サルをはじめとする動物を総動員したのが大きい。
「この船でも全員で乗れそうじゃねー?」と千夏。
「たしかに乗ること自体はできるが、それは明らかな積載量オーバーだ」
「頑張っても4人くらいだよね」と吉乃。
「それでも不安だから今回は2人だけにしよう」
今回の船で問題がなければサイズを倍にする予定だ。
それでも問題がなければさらに倍加させる。
マストの数も今は1本だが、最終的には2本か3本になる予定。
「そんなわけで、誰か俺と試作船で海に出よう」
さすがに不安が先行して誰も乗りたがらないか。
と、思ったのだけれど。
「「「私が!」」」
全員が手を挙げた。
「好奇心旺盛だなぁ。ジャンケンでもして決めてくれ」
多くの動物が見守る中、女性陣が砂浜でジャンケン大会を開始。
続々と脱落者が出ていき、最終的に選ばれたのは――。
「内職大臣としてしっかりチェックしてくるので、皆さんは砂浜でごゆるりとどうぞー! ふっふっふ!」
――麻里奈だ。
千夏や希美が「ウキィ!」とサルみたいな声を出して悔しがっている。
「では行こうか」
「いえい!」
砂浜に鎮座する帆船を海に運び、俺と麻里奈が乗船。
畳んでいた帆を張ると声高に宣言した。
「麻里奈! 錨を上げろ!」
「いや錨なんてないからこの船!」
「そうだった! ではいざ行かん!」
二人でオールを漕ぐ。
「達者でなー!」
千夏が大きく手を振っている。
「1時間もしない内に戻る予定なんだが……」
俺は苦笑いを浮かべた。














